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諦めないで、切除不能がんも積極的治療で手術可能に 膵がんの術前化学IMRT放射線療法で根治が望める

監修●永川裕一 東京医科大学消化器・小児外科分野准教授
取材・文●伊波達也
発行:2018年10月
更新:2018年10月

  

「膵がんと宣告されると、絶望して諦めてしまう方も多いのですが、決して諦めないでください。膵がんの治療は進化しています」と話す永川裕一さん

〝暗黒の臓器〟とも言われる膵臓。その膵臓に発症する膵がんは、最も恐れられている難治性のがんの1つであり、近年、わが国においても発症数は増えている。そんな膵がん治療において、いく筋かの光が射し始めているという。臨床の最前線で、数多くの膵がん治療に当たり、画期的な治療を実践している、東京医科大学消化器・小児外科分野准教授の永川裕一さんに最新の治療について話をうかがった。

早期発見が難しい膵がん

膵がんは、がんの中でも難治(なんち)性として知られており、近年、わが国でも増加傾向にある。年間罹患者数は34,837人で7位(国立がん研究センターがん統計2013年)だが、年間死亡者数は33,475人と4位(国立がん研究センターがん統計2016年)で、高率で亡くなっている。

膵がんは再発・転移をしやすいがんとしても知られ、根治(こんち)をめざすためには、手術ができることが大前提だ。ところが、手術可能な病状で発見されるのは、全症例の2割から3割程度にすぎないというのが実情だ。

膵臓は胃の裏側の腹腔奥深いところにある臓器で、周囲には重要な臓器や血管、神経などが密集している。そして膵がんは、早期では自覚症状が乏しいため、発見が難しい。定期検診によって、早期発見の効果があるかどうかについてもエビデンス(科学的根拠)は認められていない。

そんな膵がんだが、近年では、治療の選択肢が増え、治療成績が向上している。

「以前であれば、手術が可能な膵がんでも5年生存率は10%程度でしたが、最近では、50%くらいは見込めるようになってきました。薬物療法の進歩をはじめとする治療の進化により、膵がんだからといっても諦めずに、治療を受けていただけるようになっています」

そう話すのは、東京医科大学消化器・小児外科分野准教授の永川裕一さんだ。永川さんらは、膵がん治療に対して全国屈指の症例数を誇り、数多くの難治例の治療に当たっている。

術前の治療で切除可能な患者が増えている

「膵がんは、手術ができるかどうかが根治を見込むためのカギです。したがって、すでに進行したがんに対しては、いかに手術にもっていけるかが長年の課題であり、そのための治療法が模索されてきました」

進行したがんでも、できるだけ根治手術ができるような治療を目指している中で、術前の治療が試みられるようになってきた。

「術前の治療としては、化学療法、そして放射線療法を併用する化学放射線療法があります。がんを縮小して手術をしやすくしたり、可能にすることと、目に見えない全身に転移しているかもしれないがんを制御する目的があります」

術前の治療が適応される膵がんは、ボーダーラインといわれる切除可能と切除不能の境目のような膵がん、そして局所進行切除不能膵がんといわれる膵臓周囲の血管などにがんが浸潤(しんじゅん)しているが、遠隔転移のない膵がんという2種類についてだ(図1)。

術前治療として化学療法単独の治療法は、十分な抗がん薬の用量を投与して、がんを縮小しながら、すでに全身に広がっている可能性のあるがんに対しても治療もできる。しかし、患部の局所制御に対しては、放射線治療のほうが威力を発揮するといわれる。

一方、化学放射線療法は放射線による局所制御においては強味があるが、放射線の患部以外の周辺への照射による消化器症状(下痢、吐き気ほか)などの副作用によるQOL(生活の質)の低下を考慮すると、抗がん薬を減薬しなくてはならないため、全身治療の効果が弱まって、全身に広がった手術前に見えていない小さながん細胞が大きくなり、術後に再発や遠隔転移が生じる可能性が高くなることが否めない。そこで各施設によってどちらの治療を選択するか、2つに分かれている。

「世の中の流れとしては、術前化学療法です。副作用の問題で、放射線治療は減っています」と永川さん。ただし、どちらの治療がより有効かという確固たるデータは出ていないという。

安全性と根治性を目指しIMRT放射線治療を導入

そんな術前治療において化学放射線療法を採用して、安全性と根治性の両立を目指すべく、放射線治療について、高精度放射線治療であるIMRT(強度変調放射線治療)を採用しているのが、永川さんらのチームだ。

「IMRTは、コンピュータ制御により、必要に応じて強度を変えることができます。照射したいがんに対して、よりピンポイントの照射を可能にし、照射したくない周囲の臓器への照射を極力抑えることができるのです。したがって、通常の放射線治療のような消化器症状を引き起こすこともなく治療ができるため、化学療法も減薬せずに行え、より根治に近づける可能性が高くなるのです」

永川さんらは、2017年、臨床試験の結果を記した論文を発表した。同臨床試験は、東京医科大学病院単一施設で行ったものだ(図2)。

2012年2月から2015年9月までの間に、27人(男性21人・女性6人/平均年齢65.1歳)のボーダーライン切除可能膵がんの患者に対して、IMRTによる放射線治療と、ジェムザール、TS-1の2薬剤による抗がん薬を併用した化学療法を実施する術前化学放射線療法を行った。

その結果、19人の患者がこの術前化学放射線療法によって手術へ移行できた。そのうち18人は、ROというがんの遺残がない根治術を達成できた(94.7%)。

全例の生存期間中央値は22.4カ月、1年生存率は81.3%だった。手術移行例と手術不能例の比較では、手術移行例では、生存期間中央値は22.9カ月、手術不能例では9.3カ月だった。副作用である消化器症状が発現したのは1例のみだった。

「この試験結果に基づいて、現在までに30例程度、この術前治療を実施しています。ただし、この試験結果における課題点があります。副作用である消化器症状は1例のみだったため、もう少し抗がん薬を投与することができたかもしれないという点です。今後はさらに、放射線の照射線量や抗がん薬の用量などを、個々の症例に対して、緻密に検討していくことが大切になると思います。なかなか適応条件に合う患者さんはいない点についても、今後はいかに適応症例を増やしていけるかということも課題です」(画像3)

■画像3 IMRT術前化学放射線療法の奏功例

ジェムザール=一般名ゲムシタビン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

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