「尾道方式」でアプローチ! 病診連携と超音波内視鏡を駆使して膵がん早期発見をめざす横浜
難治性がんの1つにあげられる膵がん。日本の膵がん罹患数は43,865名(2019年)、死亡数37,677名(2020年)で、罹患数、死亡数とも増加の一途をたどっています。
そこで、「なんとか膵がんを早期発見・早期治療に結び付けることはできないか」と、地域の医師会の協力を得て、早期発見を目指した「YCU横浜早期膵癌診断プロジェクト」が2023年1月から、400万人都市、横浜で始まりました。
今回は、プロジェクトを立ち上げた横浜市立大学附属病院内視鏡センター教授の窪田賢輔さんに話を伺いました。
「YCU横浜早期膵癌診断プロジェクト」をはじめたきっかけ
――横浜市立大学附属病院内視鏡センター教授の窪田賢輔さんは、年末になると思い出すある膵がん患者さんとの体験から、このプロジェクトについて語りはじめました。
その47歳の患者さんは、病院に来られたときには6㎝の膵がんが肝臓に転移していて、私は予後1カ月と診断しました。治療の手立てはなく、患者さんの希望を聞くと「故郷の長崎に帰りたい」とのことでした。自分にできることは、患者をもう一度、地元に帰してあげることだけでした。
事情を話すと、年末にもかかわらず長崎市立病院は即答で患者さんを引き受けてくれ、スカイマークは、満員の飛行機の前列に専用のスペースを確保してくれました。そして、なんとか希望通り故郷に帰ることができましたが、残念ながら患者さんは4日後に亡くなられました。
私は膵がんを専門にした内科医として30年になりますが、これまで1人も完治した患者さんはいません。しかもほとんどの方は2年以内に亡くなられます。冒頭のような患者さんとの出会いと別れを繰り返していると、やはり「なんとかしなくては」とコロナも経験し、強く考えるようになりました。
現在では、前立腺がんや乳がんの5年生存率は90%を超え、胃がん、大腸がんは70%に達していますが、相変わらず膵がんの5年生存率は8.5%と圧倒的に低いのです(図1)。
そこで、他のがん種と同じように生存率を伸ばすには、進行して見つかる今のままのやり方では限界があると考えていましたので、今年1月に広島県の尾道方式を参考に「YCU横浜早期膵癌診断プロジェクト」をスタートさせました(YCU:横浜市立大学の頭文字)。
実は、すでに2015年に横浜労災病院、横浜市東部病院(2018年)、横浜医療センター(2022年)が同じようなプロジェクトを開始しています。当院は4番目ですが、3つの病院と一緒になって、横浜市全体での膵がん診療の改善につなげていきたいと思っています。
「尾道方式」とはどういうものでしょう?
今回のプロジェクトを作る際に参考にした広島県の「尾道方式」と呼ばれるシステムは、JA尾道総合病院の花田敬士(現副院長)さんが発案されたものです。
尾道市(人口約14万人:2015年)では行政も後押しして、2007年から地域の医師会と手を組んで、病診連携で早期膵がんを見つけ出そうと行っているシステムです。つまり、クリニックで超音波(エコー)検査を行い、何か問題が見つかれば専門病院で超音波内視鏡(EUS)、胆膵内視鏡(ERCP)を行い、早期に膵がんを見つけ出そうというものです。
40歳以上を対象としたがん検診で、500~1,500円をプラスすれば、超音波内視鏡検査を受けられる体制を整えています。2007年~2020年6月まで延べ18,507人が検査を受け、610人が膵がんと診断されました。
その内訳は、0期と1期の患者さんが64人で、全体の11.5%を占めました。さらに尾道市の5年相対生存率は、21.5%と全国平均(8.5%)を大きく上回りました。その結果、①外科切除率の改善、②10㎜以下の早期膵がんの診断数の増加、③膵がんの患者さんの5年相対生存率の改善などの顕著な成果が上がっています。
今では尾道方式に倣い、全国各地で同様の取り組みが行われています。今回のプロジェクトは、初めは横浜市南部3区(磯子区・栄区・金沢区:80万人)からはじめましたが、今後は横浜市全体(377万人)をターゲットとして、これまでにない大規模なものを想定しています。また、このプロジェクトは、前向きコホート研究としても行っています。
どのように進められるのでしょうか?
クリニックの医師にお願いし、表2の診断基準で2点以上当てはまる患者さんを当病院に紹介いてもらいます。その中でも、1年以内に糖尿病を発症した方、HbA1cの値が3以上悪化した方は要注意です(表2)。
当院では、紹介された患者さんを*Dual Energy CTと*超音波内視鏡で診断します。
Dual Energy CTは、従来のCTより小さながんを発見できる可能性がありますし、超音波内視鏡は、体内で胃壁や十二指腸壁からエコーを当てて、膵臓や胆嚢(たんのう)などを至近距離で、隈なく検査できます。そのため鮮明な画像が得られ、6~10㎜のがんを発見することが可能なのです。検査自体は胃カメラと同様ですが、先端に超音波探査装置が付着しています。機器が胃カメラより少し太いため、鎮静剤投与を行い、患者さんは休んでもらいます。15~30分程度で終わります(画像3)。
膵臓は胃などの臓器の重なった深い場所にあり、また、重要な血管が多く集まっています。通常の超音波検査(US)では盲点があり、膵臓全体の約50%くらいしか見えないことが多く、膵がんがエコーで直接見つかることはあまりないのです。そのため、USでは間接的な所見が重要になります(図4)。
かかりつけ医師に、USで「嚢胞がある」「膵管が拡張している」「膵臓が萎縮している・見えない」などの間接的な所見を見つけてもらい、当院に紹介してほしいのです。
*Dual Energy CT=通常のCTではがん病巣の評価が難しい部位でも視覚化が可能な機器
*超音波内視鏡=胃カメラの先端に搭載された超音波装置で、いままでの画像診断では発見の難しかった早期の膵がん、胆嚢がん、胆管がんの確認が可能な機器
同じカテゴリーの最新記事
- 有効な分子標的治療を逸しないために! 切除不能進行・再発胃がんに「バイオマーカー検査の手引き」登場
- 正確な診断には遺伝子パネル検査が必須! 遺伝子情報による分類・診断で大きく変わった脳腫瘍
- 高濃度乳房の多い日本人女性には マンモグラフィとエコーの「公正」な乳がん検診を!
- がんゲノム医療をじょうずに受けるために 知っておきたいがん遺伝子パネル検査のこと
- AI支援のコルポスコピ―検査が登場! 子宮頸がん2次検診の精度向上を目指す
- 重要な認定遺伝カウンセラーの役割 がんゲノム医療がますます重要に
- 大腸のAI内視鏡画像診断が進化中! 大腸がん診断がより確実に
- 「遺伝子パネル検査」をいつ行うかも重要 NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに2剤目ヴァイトラックビ
- 血液検査で「前がん状態」のチェックが可能に⁉ ――KK-LC-1ワクチン開発も視野に