難治でも薬剤をうまく継いで長期生存を目指す 膵がん2次治療に6年ぶりに新薬「オニバイド」が登場
難治がんで知られる膵がんに6年ぶりに新薬が登場した。イリノテカンをリポソームに封入した新薬「オニバイド」が、ゲムシタビンを含む化学療法後に増悪した局所進行・再発膵がんに対する2次治療の薬剤として2020年3月に承認され、6月に販売開始されたのだ。
もともと膵がんに使える薬剤は多くはなく、多剤併用療法や単剤などを調節しながら使い継いでいる膵がんだが、やっと登場した新薬オニバイドをじょうずに使い、長期生存を果たすには?
切除不能膵がんの化学療法薬は5つ
自覚症状が出にくく、発見したときには進行していることが多い膵がん。早期では手術が行われるが、基本的にはすべてのステージで何らかの化学療法が行われる「化学療法必須のがん」でもある。にもかかわらず、薬剤は決して多くない。
1990年代に登場したゲムシタビン(商品名ジェムザールなど)が世界初の標準治療となり、今も主要な薬剤の1つとなっているが、ゲムシタビンを対照群とするランダム化試験が多く行われ、その結果、現在日本で切除不能膵がんに対して保険適応の化学療法は5つある。
①ゲムシタビン(商品名ジェムザール)単独
②S-1(同TS-1:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)単独
③ゲムシタビン+エルロチニブ(同タルセバ)
④FOLFILINOX(フォルフィリノックス)
⑤ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(同アブラキサン)
なお、FOLFILINOXとは5-FU(一般名フルオロウラシル)、イリノテカン(商品名カンプト/トポテシンなど)、オキサリプラチン(同エルプラット)という3種の抗がん薬に5-FUの増強剤であるホリナート:LV(同ℓ-ロイコボリン)を加えた多剤併用療法のことだ。
これらの化学療法薬はがんになって最初の治療(1次治療)に当然使われるが、膵がんの場合、これ以外に長らく新薬が登場しなかったため、1次治療で効果が得られなくなった患者に対する2次治療にも使われてきた。そのため、化学療法を行う順番、タイミングがきわめて重要となるが、2次治療の薬剤として新しくオニバイド(一般名イリノテカン塩酸塩水和物リポソーム製剤)が加わったことで、その重要性はいっそう大きくなっているという(表1)。
1次標準治療はゲムシタビン+ナブパクリタキセルまたはFOLFILINOX
では、これまでの1次治療はどの順番、タイミングで選択されてきたのだろうか。
「基本的には患者さんの体調および希望も考慮して、医師が判断することになります。当院では40~50%の患者さんがゲムシタビン+ナブパクリタキセル、20~30%がFOLFOLINOX、ゲムシタビン単独が20%くらい、S-1単独も少しといったところです。施設により違いはありますが、おおむね同じような感じではないかと思います」
と杏林大学医学部腫瘍内科学教授、同附属病院がんセンター長の古瀬純司さん。
「2013年にFOLFOLINOXが、そして2014年にゲムシタビン+ナブパクリタキセルが日本で承認されましたが、6年たった今でもこの2つが1次治療の第1選択肢です。身体状態などの理由でどちらも行うのがむずかしい患者さんには、ゲムシタビン単独やS-1単独を行うことが多いです」
2019年の最新版『膵癌診療ガイドライン』にも、この2つの治療法は「ゲムシタビン単独と比べ、有害事象は多く出るが、それに見合った延命効果があると判断されている」と記述されている。
現状は、2つのうちのいずれを選ぶかという明確な基準はないというが、
「例えば、一般的にはFOLFILINOXのほうがゲムシタビン+ナブパクリタキセルより少し副作用が強い。また、2週間ごとの投薬で1回に2日間かかるため、皮下に中心静脈ポートを埋め込む必要があります。そのためにゲムシタビン+ナブパクリタキセルンを先に行う医療機関も多いのですが、体調的に可能な人には先にFOLFILINOXを行い、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルをとっておくという選択肢もあります」(図2)
「毎週1回、3週間続けて1週休みというゲムシタビン+ナブパクリタキセルでも、3カ月、6カ月と投薬を続けると、手足の痺れや関節痛、倦怠感などが強く出て、つらくなることもあります。逆に、FOLFILINOXは2週間に1回なので、慣れたら意外に続けやすいという患者さんも多い。現状ではやはり患者さんの体調や希望を考慮して、医師が治療法を選択しているのが一般的だと思います」(図3)
ちなみに、古瀬さんらは現在、この両者を比較したランダム化第Ⅱ相試験(局所進行膵がんを対象にしたJCOG1407試験と遠隔転移および再発膵がんを対象にしたJCOG1611試験)を実施しており、JCOG1407試験はすでに登録が済んでいるとのこと。来年くらいには結果が公表される予定で、そうなればどの患者にどの治療を選択するか、また1つ明確な基準が示せると話す。
減薬、休薬などで長く続ける膵がん化学療法の2次治療は?
化学療法一般に共通のことではあるが、膵がんでも化学療法は「標準的スケジュールでずっと続ける人はまずいない」という。医師は患者の体調を見ながら、休薬したり薬剤を減らしたり、まめに調整しながらできるだけ長く続けることを目指す。
「例えば、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル治療中なら一時的にゲムシタビンだけにし、悪くなってきたら再びナブパクリタキセルを加えるとか、FOLFILINOXなら途中でオキサリプラチンあるいはイリノテカンを1~2カ月休むといった工夫が必要です。患者さんは休薬や減薬は不安だと思いますが、副作用が強い中で投薬を続ければ逆に悪くなることもあります。すでに半年くらい治療を続けている場合、1カ月くらい休んだことで大きな違いが出ることはあまりないと思います」
1次治療の治療期間は平均6カ月くらいとのことだが、このように薬剤を調節する方法で1~2年治療を続ける人も多く、最長では3年くらいにも及ぶという。言い換えれば「匙加減が大事」ということ。膵がんの化学療法を慎重に選択したいのはそうした状況のためといえる。
では、1次治療を終了したあと、2次治療はどのように選択されてきたのだろうか。
「1次治療でFOLFILINOXを行った患者さんは、元気な人ならゲムシタビン+ナブパクリタキセルに、副作用が懸念される人ならゲムシタビン単独にというように、わりとすっと2次治療に入れると思います」
「一方、1次治療がゲムシタビン+ナブパクリタキセルの人は、より副作用の強いFOLFILINOXを行うのはなかなかむずかしい。日本ではS-1が使えるので、S-1+オキサリプラチン、S-1+イリノテカンなど、他の薬剤を組み合わせたトライアルもたくさん行われましたが、いずれもS-1単独よりいい結果が出ませんでした。ですから、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの2次治療では毒性の強いFOLFILINOXを選択するか、効果が十分ではないS-1しかなく、いわば上下だけで中間のちょうどいい、さらに有効性が証明された2次治療がなかったわけです」
そこに今回登場したのがオニバイドだったと古瀬さんは語る。
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