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新規腫瘍マーカーでより診断精度向上への期待 膵がん早期発見「尾道方式」の大きな成果

監修●花田敬士 JA尾道総合病院副院長/内視鏡センター長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2024年8月
更新:2024年8月

  

「5年相対生存率の国の平均は8.5%ですが、尾道市では21.4%に上がっていますし、10年生存も出てきています。計算方法が違うので単純に比較しづらいのですが、全国や広島県の平均値と比べるとかなり改善しています」と
語る花田敬士さん

膵がんは早期に発見することが難しいがんの1つですが、広島県尾道市では、病診連携による取り組みが膵がん早期発見に成果を上げていることで知られています。2007年にスタートした「尾道方式」と呼ばれる取り組みは、今では全国55カ所に広がっています。その成果は、5年生存率約21%と全国平均8.5%を大きく上回っています。

また、新規腫瘍マーカーが2024年2月に保険収載され、薬物療法やコンバージョン手術などの進歩もあり生存率は改善してきています。今回は、尾道方式の提唱者であるJA尾道総合病院副院長/内視鏡センター長の花田敬士さんに最新の膵がん早期発見について伺いました。

膵がんの現状はどうでしょうか?

膵がんは、罹患者も死亡者も年々増加しています。罹患者数は年間44,000人。死亡者数は男性18,880人、女性18,797人で大腸がん、肺がんに次いでワースト3位。男性は肺がん、胃がん、大腸がんに次ぐ4位で、年間約38,000人が亡くなっています(2020年データ)。5年相対生存率(2009年~2011年)は8.5%。

「臨床現場では、女性の膵がん死亡数が増えてきたという印象があります。BRCA遺伝子変異が見つかり、婦人科や乳腺外科からの相談も結構きています」と、JA尾道総合病院副院長/内視鏡センター長の花田敬士さん(図1)。

膵がんのリスクファクターはなにがありますか?

「膵癌診療ガイドライン」は2006年に初版が発刊され、約3年ごとの改訂で、最新は2022年の第6版になりますが、改訂するたびにリスクファクターが増えています。

「重要なリスクファクターは糖尿病です。とくに新たに糖尿病を発症した方、家族歴がないのに高血糖で検査に引っかかる方などです。ガイドラインでは、『糖尿病発症1年以内の方は注意』とのステートメントが提案されています」

2つ目は酒飲みに多い慢性膵炎

「これもリスクとして重要視されています。慢性の場合は、診断されて2年以内が危ないといわれています。慢性膵炎と診断されたら、2年間は膵臓の精密な画像検査および経過観察を受けてほしいです」

3つ目は、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)。粘液の嚢胞(のうほう)性病変。

「人間ドックで、膵嚢胞が無症状で見つかることが最近多いです。嚢胞はゴツゴツして、ブドウの房のような形です。嚢胞自体ががんになることもありますし、膵臓に嚢胞があると、膵がんが多いといわれています。ですから、膵嚢胞があれば、症状がなくても定期的に経過観察するように注意喚起を行なっています」

4つ目は、遺伝性の膵がん。

「遺伝学的な家族歴をたくさん持っている、たとえば、兄弟・親戚に膵がんが多いなど、濃厚な家族歴がある方。また、最近ではリンチ症候群やHBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん)などの遺伝性腫瘍との因果関係が否定できない場合は、遺伝子検査を受けたほうがいいと思います。なお、検査に際して保険診療の対象にならない場合があることに注意が必要です」

膵がんは早期で見つけるのは難しいのですか?

世界的にも、早期の膵がんの詳細なデータはこれまでありませんでした。そこで、花田さんたちは「膵がん早期診断研究会」を2014年に立上げ、膵がんの切除後の厳密にステージ(病期)が確定された200例のデータを、患者さんの発見経緯、どのようなリスクを持っていたか、そのときの臨床兆候などを詳しく分析しました。

「分析結果を2018年に論文発表しています。自覚症状を持っていたのは25%に過ぎず、75%は症状がない段階で見つかっている、というショッキングなデータが出ています」(図2)

自覚症状を持っていた25%は、どのようなものだったのでしょうか。

「膵がんの9割は、膵管という膵液が流れ出る通り道に腫瘍ができます。はっきりした腫瘍になる前に、膵管の狭窄が原因で膵液の流れが滞り、膵管の内圧が上がり非常に軽い膵炎を起こす場合があります。軽度の腹部不快感、腹痛、左の背中側の痛みなどの症状で医者にかかると、『軽い膵炎ですね。2、3日食事を抜いて点滴しましょう』と診断され、速やかに治ってしまう。『お酒飲み過ぎたんですかね、脂っこいもの食べ過ぎたんですかね』で終わらせずに、その後、膵炎が治ったときに画像検査を行うと、早期膵がんが見つかる場合がありますと、注意喚起を行なっています」(図3)

200例のデータの25%は軽い膵炎が起こって、腹部不快感があったそうです。

「胃カメラなどの検査でも問題はなく、腹部の超音波検査(エコー)を行っても胃や腸のガスが多くて膵臓が部分的にしか見えなかったり、また、太めでお腹がでっぷりした人で、脂肪の影響でよく見えないということもあります。このように、非常に早期の膵がんは所見が極めて微細で、エコーを行っても大きな異常がないことが多いのです」

検診では見つからないということですか?

「健康診断には、〝健診〟と〝検診〟の2つあります。健診は、身体の健康が保たれているか確認しているに過ぎないのですが、がん検診をしてもらっていると勘違いする人がおられます。現在、一部の地域では腹部エコーによるがん検診を行っているところもありますが、乳がん検診、大腸がん検診などと同じような膵臓に特化した膵がん検診は一般的ではありません。また、通常のがん検診に腹部エコー検査が含まれていないことが多く、今後、多くの地域で腹部エコーを用いたがん検診が増加することを期待しています」

尾道方式とはどのような方式ですか?

尾道方式とは、花田さんが尾道市の医師会と行政を巻き込み、2007年から始めた「膵がん早期診断プロジェクト」のことで、地域のクリニックと中核病院との病院連携によって早期膵がんを見つけるというプロジェクトです。その内容は、糖尿病、膵がんの家族歴、慢性膵炎、喫煙など、膵がんの危険因子を複数以上有する患者さんに対して、クリニックでエコーと血液検査をして何か異常が見つかれば、中核病院で超音波内視鏡(EUS)、内視鏡的膵胆管造影(ERCP)、CT、MRIなどの精密検査を行い、早期に膵がんを見つけ出そうというものです。

「尾道市では、40歳以上の特定健診対象者において、安価な追加料金で、がん検診の腹部エコーが受検できる体制が2008年から整備されており、75歳以上の方は500円の追加料金で行ってもらえることが制度化されています。この取り組みのおかげで、尾道市の人口約13万人のうち、年間約4,000人がこの制度を利用されています」(図4)

しかし、フロントランナーならではの苦労もありました。

「最初の頃は、医師会の先生方からよくお叱りを頂きました。趣旨に賛同してくれる方の協力で始めたのですが、『仕事が増えるから、いらんことやらんといて』『こんなこと意味あるの』『誰が責任とるの』『エコーで見つかるわけない』など否定的な声が多くありました。ところが、早期の膵がんが発見され、元気になる人が1人、2人と出てきて、『あのお爺さん膵がんだったらしいけど、早く見つかって手術で元気になって、みかん作りしているよ』などと、田舎なのでポジティブな情報も一気に広がるのです。クリニックの先生にも喜んで頂き、やりがいを見出して、協力者が1人、2人と増えていき、今では医師会の多くの先生方に後押しをして頂けるようになりました」

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