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TS-1の登場によって、生存期間が延びはじめた 大きく変わろうとしている腹膜播種の治療

監修●大津 敦 国立がんセンター東病院消化器内科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2007年11月
更新:2019年9月

  

国立がん研究センター東病院消化器内科部長の大津 敦さん

胃がんや大腸がん、卵巣がんなどさまざまな臓器からがん細胞がこぼれ落ちて腹膜に転移してしまうのが腹膜播種だ。これは進行しないと見つけにくい、やっかいな転移がんの1つだ。ひと昔前では、抗がん剤の全身投与では腹膜播種は治せない、といわれていた。けれども最近では、TS-1やタキソールの登場で、腹膜播種の治療は大きく変わろうとしている。

腹膜に種を播くようにがんが転移する

がんの転移には、血液でがん細胞が運ばれる「血行性転移」や、リンパ液で運ばれる「リンパ行性転移」の他に、「播種性転移」と呼ばれるタイプの転移がある。播種は一般的に使われる言葉ではないが、文字の通りで、田畑などに種を播くことを意味している。ぱらぱらと種を播くときのように、がんのできている部位から、がん細胞が周囲にまき散らされて起こる転移が播種性転移である。

播種性転移のなかで、最もよく知られているのが腹膜播種だ。腹膜とは、腹壁の内側や腹部臓器の表面を覆っている薄い膜のこと。腹部の臓器にできたがんが進行し、そこから腹腔内にがん細胞が播かれ、腹膜に播種性転移を起こすのである。

国立がん研究センター東病院消化器内科の大津敦さんに、腹膜播種を起こしやすいがんについて教えていただいた。

「がんのできた臓器からがん細胞がこぼれ、腹膜に転移するのが腹膜播種です。転移が起きると、がんは腹膜に沿って広がるように進展していきます。原因となるがんは胃がんが最も多く、日本人の場合、腹膜播種のおよそ6~7割は胃がんから起きたものでしょう。次に多いのは、大腸がんと婦人科系のがん。婦人科系のがんは、卵巣がんがほとんどです。膵臓がんや胆道がんからも腹膜播種が起こります。ただし、膵臓がんでは肝臓への転移のほうが問題になりますし、胆道がんからの腹膜播種はさほど多くありません」

胃がんや大腸がんの場合、がんは消化管の内側の粘膜にできる。それが増殖して胃壁や大腸の壁の外側に顔を出すことで、腹膜播種が起こるわけだ。

「胃がんや大腸がんで腹膜播種が起きるということは、かなりがんが進行しているということです。ステージは4で、切除不能な状態です。ところが、卵巣がんは、比較的早い段階から腹膜播種が起きます。同じように腹膜播種が起きていても、胃がんや大腸がんと卵巣がんでは、進行の度合いがかなり違うことが多いのです」

卵巣がんは早い段階で腹膜播種を起こすため、腹水などの症状で受診し、がんが発見されるようなケースも少なくない。それに対し、胃がんなどでは、腹膜播種はかなり進行した状態なので、そこまで気づかないケースもあるという。

進行した腹膜播種なら画像検査で判明する

腹膜播種が進行すると、それに伴って症状が現れてくる。代表的な症状が、腹水と腸管狭窄だという。

「腹水があるかどうかは、CTや超音波検査ではっきりします。腸管狭窄があるかどうかを見るためには、注腸造影を行います。腸管に造影剤を入れ、X線撮影を行います。胃がんなど原因となるがんがあって、これらの症状が現れていれば、腹膜播種が起きていると考えられます」

ただし、腹膜播種が起きていれば、必ずこれらの症状が現れるかというと、そういうわけではない。症状が現れるのは、腹膜播種がある程度進行してからなのだ。

「画像検査で異常が見つからなくても、腹膜播種が起きていることはあります。よくあるのが、胃がんの手術で開腹したところ、腹膜播種が見つかるケースです」

腹水や腸管狭窄が起きている腹膜播種と、開腹して初めてわかる腹膜播種では、進行度合いに差がある。それが、治療成績にも影響しているという。

腹水や腸管狭窄の現れていない段階で、腹膜播種を発見する適当な検査方法はない。CTなどの画像検査では写し出されないからだ。腹部を小さく切開し、腹腔鏡で調べる方法はあるが、患者の身体的な負担が大きいため、行われるケースはあまり多くない。

がんがあるかどうかがわからない段階で腹水が見られた場合には、原因を探すための検査が行われる。腹水は、腹膜播種以外に、肝硬変などでも起こることがある。それがなければ、胃がん、大腸がん、卵巣がんなどがないかどうかを調べるわけだ。胃がんや大腸がんは内視鏡検査を行えばはっきりするし、卵巣がんに関しては、超音波検査やCTでだいたいのことがわかる。

腹水細胞診といって、腹水に混入している細胞を顕微鏡で調べる検査もある。この検査で明らかになるのは、がんが原因となっているかどうか、ということだ。

[腹膜播種における代表的な症状]
図:腹膜播種における代表的な症状

腹膜播種の臨床試験はほとんど行われていない

腹膜播種を起こしているということは進行がんなので、その治療は化学療法が中心になる。ところが、腹膜播種だけをターゲットにした臨床試験は、ほとんど行われていない。

「腹膜播種を対象にした本格的な臨床試験は、世界的にもほとんどありません。唯一やっているのが、日本のJCOGというグループで、胃がんの腹膜播種に対する抗がん剤の全身投与の比較試験をやっています」

[メソトレキセート+5-FUが著効した例]
図:メソトレキセート+5-FUが著効した例

この臨床試験では、画像検査で明らかになっている腹膜播種を伴う胃がん患者を対象に、「5-FU(一般名フルオロウラシル)の単独投与」と「メソトレキセート(一般名メトトレキサート)+5-FUの併用」の比較試験が行われている。5年ほど前から始まり、症例数は230~240人程度。今年の2月にようやく登録が終わり、来年の4月頃には結果が出る予定だという。

「5-FUとメソトレキセートの併用というのは、胃がんの治療法としては、少し前の時代のものです。そうした治療法に関して、これから臨床試験の結果が出るというのは、臨床試験を行うのに時間がかかってしまったということですね」

他には、その2次治療として、タキソール(一般名パクリタキセル)の効果を見る試験も行われている。これも結果が出るのは来年の予定だ。

腹膜播種を対象とした本格的な臨床試験がほとんど行われていないのは、治療効果の評価が困難なことも理由の1つになっている。効果判定に使える測定病変がない場合が多く、評価が難しいのだという。


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