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症例数はまだ少ないが、高齢者や併存症を持つ患者にも対応可能 子宮体がんにおける重粒子線療法の今

監修●小此木範之 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 重粒子線治療研究部医長/ QST病院
取材・文●伊波達也
発行:2020年7月
更新:2020年7月

  

「他の治療法とのコラボレーションによって、より強力に子宮体がんの治療を行えるようになることが大切です」と語る小此木さん

子宮体がんは、年間罹患者数1万6,724件(※国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録・統計2017年)、死亡者数が2,601人(※同2018年)であり、年々増加傾向にある。

そんな子宮体がんの手術不能例に対して大きく期待されるのが放射線治療の一つ、重粒子線治療だ。婦人科腫瘍に対する重粒子線治療の中心的施設である量子科学技術研究開発機構 重粒子線治療研究部医長/ QST病院(旧放射線医学総合研究所病院)の小此木範之さんにその現状と展望を聞いた。

<重粒子線治療の現状>
治療対象は手術不能例や手術を希望しない患者

子宮体がんの標準治療は手術が大原則だ。ステージ(病期)Ⅰ,Ⅱであれば、手術で十分根治が見込める。近年では、手術支援ロボット「ダヴィンチ」による腹腔鏡下手術が保険適用となった。

こうした中で、子宮体がんに対する放射線治療および重粒子線治療の現状について、量子科学技術研究開発機構QST病院(旧放射線医学総合研究所病院)の小此木範之さんは次のように話す。

「現在、子宮体がんに対する重粒子線治療は、手術不能例、あるいは手術を希望しない患者さんに対して行っています。

ただし、手術が可能であるにも関わらず、手術を拒(こば)んで重粒子線治療を希望する患者さんに対しては、ご本人の意思はもちろん尊重するものの、むしろ手術を受けることのメリットを説明して、できるだけ手術を受けていただくように勧めます」

先進医療Aとして実施

現在、子宮体がんに対する重粒子線治療は、子宮頸がん、婦人科領域悪性黒色腫とともに、先進医療Aとして実施されている。

先進医療Aは、厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養であり、「先進医療に係る費用」は、患者が全額自己負担することになる。「先進医療に係る費用」以外の、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われる。将来、保険適用が期待される医療でもある。

「当院では、子宮頸がんに対する治療は250例以上実施しているのに比べると、子宮体がんに対する治療はまだ20例程度といったところです」

手術が第一選択

近年、日本人における子宮がんの内訳で言うと、子宮頸がんよりも子宮体がんのほうが多く、現在も増え続けているが、重粒子線治療を行う例は、圧倒的に少ないというのが現状だ。

「子宮体がんは、やはり手術が第一選択であることが大きいです。手術のメリットは、根治を見込めることはもちろん、手術で組織を採取して調べること(正確な組織診断)ができ、がんをより正確に評価できるということです。それによって追加の治療が必要な場合には、その選択肢を正しく選ぶことができます」

<治療適応例>
治療適応となる手術不能例とは

重粒子線治療が適応となる、手術不能の状態とは具体的にはどのような場合なのだろうか。

「ステージⅡ、Ⅲで、腫瘍が子宮の筋層を越えて、漿膜(しょうまく)の外側に突出してしまっているようなケースです。このような場合、一般の放射線治療(X線)と腔内照射(小線源療法)を組み合わせることも選択肢になります。

もともと子宮体がんは、がんのタイプが腺がんというもので、放射線が効きにくいという問題があります。しかし、X線治療と腔内照射を組み合わせることで、治療効果が発揮できるケースもあります。

ただし、がんの体積が小さければその方法で治すことができますが、体積が大きくなると難しく、その場合に、重粒子線治療が威力を発揮します」

線量集中性と生物学的効果の大きさがメリット

重粒子線治療は、不整形に広がるがんや体積の多い巨大ながんの場合に、線量集中性と生物学的効果の大きさで治療可能なのがメリットだ。

「線量集中性とは、狙った病巣にエネルギーを集めやすく、正常組織へのダメージを極力少なくできるということです。一方の生物学的効果の大きさとは、通常の放射線と同じ線量でも殺細胞効果が2~3倍高くなるのです」

高齢者や併存症を持つ患者にも対応可能

現在までに実施した20例の中には、91歳の高齢患者もいた。放射線治療、重粒子線治療は、高齢者や併存症を持った患者に対しても適応できるのがメリットだ。

「腎不全で腹膜透析中の患者さんに対して治療を行ったこともあります。ご高齢になると多くの患者さんが併存症を持っているのは、ほぼ当たり前ですので、そのような場合でも治療できるということが、重粒子線治療の大きなメリットです」

重粒子線治療が不適用となる症例

一方、現在、重粒子線治療を適応できないケースは、遠隔転移がある場合、そしてがんが消化管などに巻き付いていたり、食い込んでいるようなケースだ。

「遠隔転移はもちろん全身病になりますので、局所制御だけでは患者さんの生命予後が保証できないため、薬物療法を行うことになります。また、がんの形状によって、漿膜外に出ているがんが消化管方向に顔を出して、接触しているような場合は、重粒子線照射によって消化管に後遺症が発現する危険性があるため、重粒子線治療は適用できません。

同じ進行度でも患者さんによって、腫瘍の状況は千差万別ですので、それを画像診断などでいかに正確に判断して治療の可否を決めるかが、私たち専門医の役目です。また、今後、照射技術が上がれば、適応範囲が広がる可能性もあります」

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