最後まで「負けないぞ」という気持ちで、死んでいきたい シリーズ対談・田原節子のもっと聞きたい ゲスト・絵門ゆう子さん

撮影:岡田光次郎
発行:2004年1月
更新:2018年10月

  

がんの治療やケアをどうしたらいいのか、がん患者の悩みは大きい。医師に委ねるのか、自力でするのか。西洋医学を軸にするのか、民間療法に頼るのか。その命題の試金石となる対談が、ここで展開された。元女性アナウンサーでエッセイスト、乳がん患者と共通項の多い二人が辿った軌跡は、対極から出発し大きく迂回しながらも、いま同じ到達点に達している。

 

絵門ゆう子さん


えもん ゆうこ
エッセイスト、産業カウンセラー。元NHKアナウンサーの池田裕子。1986年にフリーに転身後、キャスターや女優として活躍。2001年に乳がん発見。現在、執筆や講演を軸に、自作の創作童話を演奏家たちとのコラボレーションで綴る浪漫朗読コンサートや、がん患者たちのカウンセリングなどの活動をしている。著書に『がんと一緒にゆっくりと~あらゆる療法をさまよって』(新潮社刊)、『花どろぼう』(文芸春秋社刊)

 

田原節子さん


たはら せつこ
エッセイスト。1936年東京に生まれる。早稲田大学文学部卒業後、日本テレビにアナウンサーとして勤務する。結婚・出産後、アナウンサーからの配置転換命令を受け、納得できずに裁判に訴え勝訴する。以後は10年間をCMプロデューサーとして勤務した後退社、現在は田原事務所代表取締役を務める。村上節子の名で女性問題を始めとするテーマで、各方面に執筆活動を行っている。

民間療法に走りながらも揺れていた心

田原 がんの診断を受けて、最初にどうされましたか?

絵門 西洋医学を一切やっていない乳がん患者探しをしました。母をがんで亡くしてますので、食事や健康にはけっこう興味をもっていたんです。
それで前から取り寄せていた無農薬野菜農家に電話して「がんになっちゃったけど手術をしないで治すの」と言ったら、「あなたと同じような方がお客さんにいるわ」って言われて、すぐに紹介されたその方に電話をしました。
そこで“断食とモグサの煙で治す”療法を聞き、2週間完璧に断食しました。それからも玄米菜食をしたり、健康食品を勧められるがままに大量に飲んで、肝臓をおかしくしたり、100万円のふとんを買ったり……。

田原 絵門さんが西洋医学を嫌って、民間療法に希望をもった理由は何だったのでしょう?

絵門 一番の理由は、やっぱり母ですね。

田原 お母さまのがんは、いつごろのことだったの?

絵門 平成元年に初期がんの手術をしたんですが、2年後に再発して再度手術しました。
その2回とも抗がん剤の副作用がひどくて、3度目に転移が見つかったときは「もう手術は止めよう」と。
それからは健康食品とか足湯とか健康法とかをやりながら自宅で過ごしました。そしたらとても元気になっちゃったんです。「このまま治っちゃうわね」って言うくらい。である日、検査に行ったら「今日は元気になる注射をしようね」と、注射を打たれたんです。

田原 元気になる注射って、何だったのかしら?

絵門 シスプラチン(商品名ブリプラチン)だったと思います。それから一気に胸水や腹水がたまって、1カ月で亡くなってしまいました。だからシスプラチンさえ打たなかったら、今でも元気だったんじゃないかって……。
そういう経緯が西洋医学ではなく、民間療法に走った大きな理由ですね。それでも、本当の心の底は、自分でも分からないんですよ。「西洋医学に行ったほうがいい」とか言われると、やっぱり心は揺れていました。

治療の主導権を自分で握っていたかった

田原 やっぱり西洋医学のオピニオンは、欲しいと思ってらっしゃった?

絵門 はい。でも、行ったらおしまいって思う自分がいるんです。行って、引っかかってたまるもんかと。

田原 普通は反対よね。西洋医学をやっていて、民間の何々で治ったという話を聞いても、怪しいから引っかかっちゃいけないと思う。でも両方やってる方も多いのね。
たいてい身体に気持ちがいいものに重心を置いて、バランスをとりながら併用している。

絵門 免疫力を下げる攻撃的な治療が、西洋医学だと思っていたんです。だから、一つでも免疫力を下げるようなことをしてはいけない、そこに流されてはいけない、みたいな気持ち。だけど心の底では、母の時代とは違うから、ひょっとすると……と思って、乳がん患者会が主催した、現在の主治医の中村清吾先生(聖路加国際病院外科医長)の講演会に行ったりもしました。

田原 今ならゆう子さんは、そういう方にどうおっしゃいますか?

絵門 今なら「西洋医学の、それもきちんと心の通じ合う主治医を探してください」と言います。それがないことは、船長がいない船に乗るようなものだから。民間療法でも、方法を探すのは悪いことではありませんが、必ず西洋医学的な経過観察のなかで、取り入れることが大事だと思います。

田原 軸足を西洋医学に置いて、ということ?

絵門 軸足というとどうかな。西洋医学で先生と一緒に前に進むにあたっても、気持ちは“自分で治す”ことが大前提ですから。「先生何とかしてください」っていうのは絶対いやなんです。自分のフィルターで判断したいんです。

田原 やっと分かったわ。なぜゆう子さんが民間療法にこだわったのか。自分で決めたかったのね。

医師と上手くコミュニケーションをとる方法

絵門 告知された瞬間に考えたことは、どういう死に方をしようかなということですね。母が亡くなったあとに知ったんですが、“自然療法的な治療をした人は老衰のようにコロッと死ねる”というのがあって、民間療法がそのイメージと重なったんです。

田原 なるほどね。西洋医学では、お医者さまの船に乗って、指示通りに行くと抗がん剤にたどり着き、抗がん剤は苦しむもの、苦しみながら死ぬものだと。民間療法は、自分でコントロールできる、自由に行き先を変えることもできる、自然に死ねる、と。そうと決まったわけでもないけど、それはとにかく、先ほどおっしゃった心の通じ合うお医者さまというのは、とっても大事なことですね。
私とゆう子さんは、たまたま同じ主治医で、すてきな先生にめぐり合えたので、とても幸運でした。何でも尋ねられるし、コミュニケーションもとれるし、相談にものってくださるし。

絵門 中村先生ほどの素晴らしい先生にお会いできたのは、奇蹟と言っていいくらい。“どうしてああいう先生がもっといらっしゃらないの?”って思うんです。類まれなる中村先生にめぐり合うという奇跡が起きたから、いろいろあったけれど、今こうして対談できるほどに元気になっている。でもそうじゃないお医者さんに会っていたら、恨みがましく嘆きながら死んでいたかもしれません。

田原 「どうしてそんなにうまく先生とコミュニケーションがとれるのか」ってよく聞かれるんですが、「患者さん自身がお医者さんを求め、治療法を求め、どのように生きたいかを求める。つまり患者自身に強い意思がない限り、難しいですよ」って答えるんです。ゆう子さんが「いろいろと歩いてきたから、今がある」とおっしゃったのも、回り道はしたけど、強い意思があったからだと思います。

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