複合がん免疫療法が、がん薬物療法の主力に! 免疫療法の個別化医療を目指す

監修●北野滋久 がん研究会有明病院先端医療開発センター副センター長
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年4月
更新:2022年4月

  

「当面、がん薬物療法の主役は免疫チェックポイント阻害薬といっても過言ではありません」と語る北野滋久さん

日本で初めて「免疫チェックポイント阻害薬」が話題になったのは2014年7月、世界に先駆けてオプジーボがメラノーマに承認されたときだ。現在、免疫チェックポイント阻害薬は6剤に増え、適応がん種も拡大した。

そして今、がん薬物療法は「複合がん免疫療法」の時代へ突入している。免疫チェックポイント阻害薬との併用療法を意味する複合がん免疫療法の現在と、今後の展望について、がん研究会有明病院先端医療開発センター副センター長の北野滋久さんに話を聞いた。

免疫チェックポイント阻害薬が薬物療法の中心に

抗PD-1抗体オプジーボ(一般名ニボルマブ)がメラノーマ(悪性黒色腫)に承認されて約8年。免疫チェックポイント阻害薬は加速度的に進化し続けている。

オプジーボと同じ適応でメラノーマに承認された抗CTLA-4抗体ヤーボイ(同イピリムマブ)。その後、オプジーボの後を追うように抗PD-1抗体キイトルーダ(同ペムブロリズマブ)が登場した。続いて、抗PD-L1抗体のバベンチオ(同アベルマブ)、テセントリク(同アテゾリズマブ)、イミフィンジ(同デュルバルマブ)が加わり、日本で使える免疫チェックポイント阻害薬は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体の3種類、計6剤になった。

適応がん種も、メラノーマ、肺がんを皮切りに、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、食道がん、乳がんへと次々に拡大している(図1)。

また、2018年にはキイトルーダがMSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)を有する固形がんに承認。臓器横断的な適応も実現した。

「いまや免疫チェックポイント阻害薬が、がん薬物療法の主力になりつつあるといっても過言ではないでしょう」と、がん研究会有明病院先端医療開発センター副センター長の北野滋久さんは述べる。

その流れの中で、ここ数年、進化著しいのが「複合がん免疫療法」だ。

現在、免疫療法の中で第Ⅲ相試験を経て承認されているものは、免疫チェックポイント阻害薬と、一部血液がん適応のCAR-T療法のみ。つまり、複合がん免疫療法とは、事実上「免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法」を意味する。

複合がん免疫療法が進化した背景

従来の抗がん薬は、がん細胞を直接攻撃するため、正常細胞も同様に攻撃対象になってしまいダメージを免れない。

一方、免疫チェックポイント阻害薬は、リンパ球を中心とする免疫系の細胞に作用して活性化させ、それら免疫系ががん細胞と闘うというメカニズムを持つ。

現在、臨床に用いられている免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がPD-L1というタンパク質を出して免疫細胞のPD-1に結合するのを阻害する薬(抗PD-1抗体)と、逆に、がん細胞側に結合して、がん細胞が免疫細胞のPD-1に結合するのを防ぐ薬(抗PD-L1抗体)。もう1つは、免疫細胞のCTLA-4に結合して免疫細胞を守る薬(抗CTLA-4抗体)の3種類だ(図2)。

免疫チェックポイント阻害薬に共通する特性について、北野さんは「がん細胞を直接攻撃するわけではなく、我々の免疫系を介してがんに作用するため、この薬剤だけでは十分な効果が得られない場合があります。つまり、1剤でなく、複数を合わせ技にして初めて1つの治療として成立する可能性があるのです」と指摘する。

その観点を持ちつつ、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法が模索されてきた背景には、実はすでに確立している標準治療の存在が大きかったそうだ。

「転移・再発の初回治療に免疫療法を入れようと考えるとき、既に第Ⅲ相試験を経てエビデンス(科学的根拠)のある標準治療を超えなくてはならないわけですが、それを目指して、いきなり標準治療と一騎打ちさせるのは現実的ではありません。ですから、今現在の標準治療に免疫チェックポイント阻害薬を上載せすることで有効性を高められるか、という方向で最初の検証が行われてきたのです」

例として、肺がんならプラチナ系抗がん薬を含む併用化学療法にオプジーボやキイトルーダ、テセントリク、腎細胞がんなら分子標的薬インライタ(一般名アキシチニブ)にキイトルーダやバベンチオなど、といった組み合わせが複合がん免疫療法として承認され、登場してきた理由は、そうした背景にあるというわけだ(図3)。

ちなみに、メラノーマに関しては転移・再発の標準治療が確立されていなかったため、ヤーボイ+オプジーボという免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法が最初から試みられ、成功したのだという。

複合がん免疫療法、新たなステージへ

「今、複合がん免疫療法はファーストステージを終えて、これからセカンドステージへ向かおうとする過渡期にあります」と北野さんは指摘する。

「ファーストステージでは、従来の標準治療を土台に、免疫チェックポイント阻害薬を上載せするという考え方で複合がん免疫療法を進めてきました。実際、その有効性は生存曲線が示していて、確かな手応えを持って新たな標準治療として確立されてきています。次は、そこを起点に、つまり、オプジーボやキイトルーダといった免疫チェックポイント阻害薬を軸に、抗がん薬の量を変えたり、種類を入れ替えたり、投与期間を短くしたりといった検証をする余地があると考えています」

抗がん薬投与は確実にがん細胞を叩く半面、骨髄を傷め、長期間に及ぶとリンパ球を弱めてしまう。かたや、免疫療法は主にリンパ球に働いてもらってがん細胞を攻撃する治療法。つまり、抗がん薬治療をし尽くした後に免疫療法を持ってくるのは、理にかなっていないことが明白だ。

現状、複合がん免疫療法は、従来の抗がん薬(標準治療)と免疫チェックポイント阻害薬を同時並行で行うことで結果を出し、新たな標準治療としての地位を得てきた。ただ、理想的には免疫療法だけで効果が得られればそれに越したことはない。

そうした視点に立って、現在は、新たに確立した複合がん免疫療法について、相方の抗がん薬の量を少なくしたり、途中でやめてみたり、さらには免疫チェックポイント阻害薬同士の併用へ、といった検証に入っているというのだ。

「実際に、一部の肺がんでは、免疫療法(オプジーボとヤーボイの併用療法)と抗がん薬治療2コースだけ行った後、免疫療法(オプジーボとヤーボイの併用療法)のみ継続するという第Ⅲ相試験が結果を出し、承認されました」と北野さん。

ただ、ここで忘れてはならないのは、現状、免疫療法だけで効果が出る患者さんは決して多くはないという事実。だからこそ、まず即効性のある抗がん薬と免疫療法の併用を行って短期間でがん細胞を叩くという段階を踏んでいるのだ。

「今後、さらに免疫療法の開発が成熟してくると、抗がん薬治療なしで最初から免疫療法に入ることができる人も出てくると思います」と北野さん。そのために必要なのは、やはりバイオマーカーだという。

「例えば、ゲノム解析は、少量の腫瘍、さらには血液でもできるようになってきました。バイオマーカーの研究を早急に進めて、患者さん1人ひとりに適切な治療選択ができる方向に持っていくのが我々の使命だと思っています」

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