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多剤併用の2つの治療法

切除不能膵がんの治療薬 FOLFIRINOX療法/アブラキサン+ジェムザール併用療法

監修●林 和彦 東京女子医科大学化学療法・緩和ケア科教授/がんセンター長
取材・文●星野美穂
発行:2016年1月
更新:2016年5月

  

現在、日本膵臓学会の「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン」では、遠隔転移のある膵がんに対する最初の化学療法として、FOLFIRINOX療法とアブラキサン+ジェムザール併用療法の2つを推奨しています。ただ、どちらを選択すべきかについては明らかにされていません。手術ができない膵がんの治療をどのように考えるか、2つの治療法の特徴から考えてみましょう。

切除不能膵がんの治療

膵がんの治療は、手術による切除が基本です。しかし、がんが遠隔転移していたり、膵臓の血管などに食い込んでいて(浸潤)手術ができない場合、抗がん薬治療が適応となります。

遠隔転移のある膵がんに対して従来推奨されていたのは、ジェムザール単剤治療、ジェムザール+タルセバ併用療法、TS-1単剤療法でした。その後、2013年12月にFOLFIRINOX療法が、2014年12月にはジェムザール+アブラキサン併用療法が保険収載されたことを受け、2015年5月に改訂された日本膵臓学会のガイドラインでは、この2つの治療法が強く推奨されています(グレードA)。

一方、局所進行の切除不能膵がんに関しては、FOLFIRINOX療法、アブラキサン+ジェムザール併用療法ともに、有用性を検証した第Ⅲ(III)相試験が局所進行切除不能例を含まない遠隔転移例だけを対象に行われているため、エビデンス(科学的根拠)が不足しています。

ただし、NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)のガイドラインでは局所進行膵がんに対する治療選択肢として挙げられています。日本でも、「治癒切除不能な膵がん」への適応が認められ、局所進行膵がんにもFOLFIRINOX療法、アブラキサン+ジェムザール併用療法が使用できます。

ジェムザール=一般名ゲムシタビン タルセバ=一般名エルロチニブ TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム FOLFIRINOX療法=5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+エルプラット アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル

どんな治療?――FOLFIRINOX療法

5-FUとイリノテカン、エルプラット、ロイコボリンの4剤を併用する治療法です。2週間を1サイクルとして、図1の投与を繰り返します。

図1 FOLFIRINOX療法の投与法

中心静脈(鎖骨近くの太い血管)から投与するため、ポートを設置する必要があります。抗がん薬を投与する前に、制吐薬を点滴、または内服します。

5-FU=一般名フルオロウラシル イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン エルプラット=一般名オキサリプラチン ロイコボリン=一般名レボホリナート

治療効果

転移性膵がんに対するFOLFIRINOX療法の有用性は、海外で実施されたACCORD11試験(第Ⅱ(II)/Ⅲ(III)相試験)において検証されています。この試験では、遠隔転移を有する膵がんの一次治療例を対象として、標準療法であるジェムザール療法とFOLFIRINOX 療法を比較検討しました(図2)。

図2 膵がん治療法の効果(FOLFIRINOX療法、アブラキサン+ジェムザール併用療法)

(Conroy, T.: New Engl. J. Med. 2011; 364: 1817-1825、Von Hoff, D. D.: New Engl. Med. 2013; 369: 1691-1703)

その結果、全生存期間(OS)の中央値は、FOLFIRINOX療法群が11.1カ月だったのに対して、ジェムザール療法群は6.8カ月と有意差をもって生存期間を延長しました。また、無増悪生存期間(PFS)の中央値も、FOLFIRINOX療法群が6.4カ月に対し、ジェムザール群は3.3カ月、奏効率(ORR)も、FOLFIRINOX療法群31.6%に対してジェムザール群9.4%と、FOLFIRINOX療法群の優越性が証明されました。

知っておきたい副作用

■骨髄機能抑制

骨髄機能の低下により、身体を感染症から防ぐ白血球が減少し、感染症に罹りやすくなります。骨髄機能が低下した場合、休薬や減量、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤の投与などで対処しますが、早期に発見するためにも定期的な検査は欠かせません。また、発熱、悪寒、身体のだるさなどがあった場合は、すぐに医師に相談しましょう。

■下痢、腸炎

点滴中、あるいは直後から翌日にかけてみられる下痢と、点滴終了後24時間以降に起こり、数日間続く下痢があります。点滴中、もしくは直後に起こる下痢はすぐに治まるものが多いです。

一方、投与後数日経ってから現れる下痢は抗がん薬により腸管粘膜が障害されることにより起こり、長く続くことも少なくありません。重度の下痢が長く続くと、腸の粘膜が傷つき感染リスクが生じます。水分や栄養の補給が必要となる場合もあるので、下痢の回数が多い、長く続く、症状が重い場合は医療機関に連絡しましょう。

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