グレード4の治療にアバスチンの併用も登場
悪性神経膠腫の治療薬 テモダール(一般名テモゾロミド)/アバスチン(一般名ベバシズマブ)/ギリアデル(一般名カルムスチン)
神経膠腫の中でも悪性度の高いグレード3と4を、悪性神経膠腫と呼びます。中でも治療が難しいのは、グレード4の膠芽腫です。悪性神経膠腫の初発治療は、手術に、放射線治療とテモダールによる治療を組み合わせます。グレード4に対しては、日本ではアバスチンを併用することもできます。アバスチンを加えることで、再発までの期間が長くなります。
悪性神経膠腫の治療
悪性神経膠腫は悪性脳腫瘍の代表的な病気で、脳に発生する脳腫瘍(原発性脳腫瘍)の約3割を占めています。脳には、神経細胞と神経線維の間で脳を支えている神経膠細胞(グリア細胞)という細胞があります。この細胞から発生するのが神経膠腫です。
神経膠腫は悪性度によって、グレード1~4に分類されています。このうちグレード1と2が低悪性度神経膠腫、グレード3と4が悪性神経膠腫です。グレード4の悪性神経膠腫は、膠芽腫(グリオブラストーマ)と呼ばれています。
画像検査などで悪性神経膠腫が疑われる場合には、基本的に手術が行われます。ただ、手術で悪性神経膠腫を完全に取り除くことはなかなかできません。神経膠細胞は神経細胞と神経線維の間に存在するため、腫瘍細胞が脳に染み込むように広がってしまうからです。これをすべて切除すると、後遺症として重大な神経症状が現れる危険性があります。そこで、神経症状を悪化させない範囲で、可能な限り腫瘍を取り除く手術が行われます。
肉眼的に腫瘍を取り切れたとしても、周囲の組織に腫瘍細胞が残っていることが考えられます。それが増殖して再発するのを防ぐために、放射線治療や薬物治療が行われるのです。薬物治療では、次のような薬が使われています。
テモダール――生存期間を延ばす 放射線治療併用の術後補助療法
*テモダールは殺細胞性抗がん薬で、アルキル化薬に分類される薬です。日本では2006年に悪性神経膠腫の治療薬として承認されています。
手術後に放射線治療を行う群と、放射線単独治療とテモダール併用群との比較を行った臨床試験の結果、放射線治療群の全生存期間(OS)の中央値は12.1カ月、テモダール併用群は14.6カ月でした。テモダールを併用することで、全生存期間が有意に延長することが明らかになったのです。
それまで、悪性神経膠腫の生存期間を延長する効果が証明された抗がん薬はありませんでした。この臨床試験において、テモダールは悪性神経膠腫の生存期間を延長させた最初の抗がん薬となったのです。
これ以降、悪性神経膠腫の治療は、まず手術を行い、その後に放射線治療とテモダールによる治療を行うのが、国際的な標準治療となっています。
*テモダール=一般名テモゾロミド
アバスチン――再発までを延ばすテモダールに 追加併用する治療薬
*アバスチンは、強力な血管新生阻害作用をもつ分子標的薬です。がんは自らの増殖に必要な栄養や酸素を補給するため、VEGF(血管内皮増殖因子)を放出し、もともとある血管から新しい血管を自らのほうへ引き伸ばさせます。アバスチンは、このVEGFを標的とした抗体薬です。
膠芽腫は、血管新生のためにVEGFを多く放出しています。そのため、アバスチンが効果的であると考えられています。
アバスチンの効果を調べるために行われた臨床試験が2つあります。AVAglio試験とRTOG0825試験です。
どちらの試験も膠芽腫を対象に、「放射線治療+テモダール」の標準治療に偽薬を加えたプラセボ群と、「放射線治療+テモダール+アバスチン」のアバスチン群間で比較が行われました。
両試験の結果は類似していて、無増悪生存期間(PFS=再発までの期間)中央値は長くなるものの、全生存期間(OS)中央値では差が出ない、というものでした(図1)。無増悪生存期間は、AVAglio試験ではプラセボ群が6.2カ月なのに対し、アバスチン併用群では10.6カ月でした。ただ、無増悪生存期間に関して、AVAglio試験では「有意に延長」という結論になっていますが、RTOG0825試験では「統計学的に有意ではない」と結論づけています。
日本では、AVAglio試験の結果により、アバスチンは2013年に悪性神経膠腫の治療薬として、承認されました。悪性神経膠腫という適応症で認可されましたが、グレード3に対する効果については、臨床試験で証明されていません。
AVAglio試験では、QOL(生活の質)やPS(全身状態)も、アバスチン群のほうがよい状態を長く持続していて、ステロイド薬の使用量も少ない、という影響が見られます。ステロイド薬の使用量が増えると、いろいろな副作用が出てくるので、その面からもよい状態で過ごせる期間が長くなると考えられます。
アバスチンを加えるのは
悪性神経膠腫の術後補助療法で、「放射線治療+テモダール」にアバスチンを追加併用するのはどのような場合か、はっきりした結論は出ていません。そのため、アバスチンの使い方は、医療機関によってかなり差があるようです。
初期に全身状態あるいは神経症状が不良で試験の対象とならない患者さんや、再発時のアバスチン治療が困難と予想される病態を呈する場合は、初発時からのアバスチンを投与するベネフィットがある可能性が考えられます。
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
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