生存期間を延ばす新薬が登場
前立腺がん骨転移の治療薬 ゾーフィゴ(一般名ラジウム-223)/ランマーク(一般名デノスマブ)/ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)/メタストロン(一般名ストロンチウム-89)
前立腺がんは骨転移を起こしやすく、ホルモン療法が効かなくなった患者さんの8~9割は骨転移を起こしています。その治療に、従来はランマーク、ゾメタ、メタストロンといった薬剤が使われてきましたが、今年(2016年)3月、新しい薬剤が承認されました。それがゾーフィゴです。これまでの3剤と大きく異なるのは、痛みや骨折といった骨関連事象(SRE)を抑えるだけでなく、生存期間を延ばす効果が証明されている点です。
骨転移の治療を始める時期
前立腺がんでは、遠隔転移は骨に多く起こります。ホルモン療法が効かなくなった状態の前立腺がんを去勢抵抗性前立腺がんと言いますが、この状態の患者では、8~9割が骨転移を起こしています。
骨転移は、疼痛、骨折、脊髄麻痺などの骨関連事象(SRE)を引き起こし、QOL(生活の質)を低下させる大きな原因となります。進行期の前立腺がんに対しては、ホルモン療法の新規薬剤なども登場し、生存期間が長くなると考えられています。それだけに、骨転移への対策が、ますます重要な意味をもつようになっているのです。
ホルモン療法は前立腺がんに非常に有効な治療法ですが、骨密度を低下させ、骨粗鬆症を招く危険性が知られています。ホルモン療法が効いている間は、骨に対しては、基本的に骨密度を保持する対策が行われます。*プラリアの6カ月に1回の注射や経口ビスホスホネート製剤などが用いられます。骨転移に対しては、痛みが起きている場合や、脊髄麻痺の危険性がある場合などに、放射線療法が行われることがあります。
かつては、早い段階から*ランマークや*ゾメタといった薬剤を使用し、骨転移に対する治療を行ったほうがよいと考えられていました。しかし、現在までの臨床試験では、治療を早く開始することによる予後へポジティブな影響を与えるという結果は得られていません。したがって、骨転移に対する治療は、去勢抵抗性になってから行うのが一般的になっています。
*プラリア(適応は骨粗鬆症)=一般名デノスマブ *ランマーク(適応は多発性骨髄腫・固形がん骨転による骨病変)=一般名デノスマブ *ゾメタ=一般名ゾレドロン酸
これまで使われてきた3種類の薬
■ランマークとゾメタ
前立腺がんの骨転移治療にこれまで使われてきたのは、ランマーク、ゾメタ、*メタストロンという3種類の薬剤でした。
このうちよく使われていたのはランマークとゾメタです。作用は全く異なりますが、どちらも骨の破骨細胞の働きを抑えることで、骨関連事象を防ぐ効果を発揮します。
骨は、破骨細胞がカルシウムを溶かし、骨芽細胞がカルシウムから骨を形成することで、常に新陳代謝が行われています。ランマークもゾメタも、そこに働きかけて、骨が弱くならないようにしているのです。
ランマークとゾメタは、どちらの治療成績が優れているのか、はっきりした結論は出ていません。ただ、ゾメタには腎機能障害という副作用があるため、腎機能に応じて投与量を変える必要があります。
そして、腎機能がある程度以下に低下している人には、使用することができません。そこで、腎機能障害のある場合には、ランマークを使用することが多くなります。
もう1つ、ランマークは皮下注射ですが、ゾメタは点滴で投与する薬です。ゾメタの点滴も15分程度で終わるので、長い時間が必要なわけではありません。しかし、利便性の面から、ランマークのほうが使いやすいとする意見もあります(図1、図2)。
■メタストロン
メタストロンは放射線を使って治療する薬です。血液中に投与された放射性同位元素のストロンチウム-89が、骨転移の起きている部分に取り込まれます。ストロンチウムはカルシウムを同じように代謝するので、骨転移が起きて代謝が高まっている部位に取り込まれていくのです。
ストロンチウム-89は、放射線の一種であるβ(ベータ)線を出しているので、周囲のがん細胞を攻撃し、治療効果を発揮します。疼痛の緩和など、骨関連事象に対する効果が認められています。
しかし実際には、この薬はあまり使われてきませんでした。理由の1つは副作用です。ストロンチウム-89から出るβ線の届く距離は2.4mmです。わずかな距離ですが、骨に沈着すると骨髄にまでβ線が届いてしまうことがあります。そのため、副作用として、貧血、白血球減少、血小板減少などの造血障害が起きやすかったのです。
さらに放射性医薬品として取扱いが複雑という問題もありました。放射線治療室で治療する必要があり、使用した器材などの処理にも特別な配慮が必要なのです。
*メタストロン=一般名ストロンチウム-89
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