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耐性後に効果を発揮する新薬が登場

EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療薬 イレッサ(一般名ゲフィチニブ)/タルセバ(一般名エルロチニブ)/ジオトリフ(一般名アファチニブ)/タグリッソ(一般名オシメルチニブ)

監修●西尾誠人 がん研有明病院呼吸器内科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年7月
更新:2016年6月

  

EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する治療では、EGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)が用いられます。第1世代薬のイレッサとタルセバ、第2世代薬のジオトリフがありますが、いずれ耐性ができ、薬が効かなくなってしまいます。2016年2月、第3世代薬のタグリッソが認可されました。この薬は、イレッサ、タルセバ、ジオトリフなどに耐性が生じた非小細胞肺がんに対する有効性が証明されています。

EGFR-TKIによる治療

非小細胞肺がんの薬物療法は、がん細胞のEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に、変異があるかないかによって大きく違ってきます。変異があるEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対して使われるのが、分子標的薬のEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)です。

EGFR遺伝子に変異があると、細胞の増殖などにかかわるシグナル(信号)の伝達に重要な役割を果たすチロシンキナーゼという酵素が異常に活性化し、がん細胞の増殖を促してしまいます。このチロシンキナーゼの働きを阻害することで、がん細胞の増殖にかかわるシグナルを遮断し、治療効果を発揮するのがEGFR-TKIです。

日本人などアジア人の非小細胞肺がんには、欧米人よりEGFR遺伝子変異陽性の割合が高いことがわかっています。また、非小細胞肺がんは、細胞の種類によって、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分けられますが、その中で最も多い腺がんのうち約5割がEGFR遺伝子変異陽性の肺がんと言われています。

■EGFR-TKIの第1、第2世代薬

EGFR-TKIには、これまで3種類の薬剤が承認され、治療に使われてきました。第1世代薬とされるイレッサとタルセバ、それに第2世代薬のジオトリフです。手術のできない進行再発非小細胞肺がんが治療対象となります。

これらの薬は、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに治療効果を発揮します。ただ、薬が効いていた場合でも、いずれ耐性ができ、効かなくなってきます。治療開始から増悪を始めるまでの期間の中央値は、11~12カ月程度です。耐性ができてしまうことが、EGFR-TKIの大きな問題となっています。

2016年2月、EGFR-TKIの第3世代薬とされるタグリッソが認可されました。この薬は、イレッサ、タルセバ、ジオトリフのいずれかで治療していて、それが効かなくなった場合に使われます。特にEGFR遺伝子にT790Mという別の遺伝子変異が起こり、そのために薬が効かなくなっている場合に効果を発揮します(図1)。

図1 T790M変異による耐性

■第3世代薬タグリッソ

EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの薬物療法は、3種類のEGFR-TKIを使い分ける時代から、それにタグリッソを組み合わせる時代に移ろうとしています。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ ジオトリフ=一般名アファチニブ タグリッソ=一般名オシメルチニブ

3薬をどう使い分けるか

■効果と副作用

新しく登場したタグリッソはEGFR T790M変異陽性が確認された患者に使用できる薬です。したがって、1次治療でイレッサ、タルセバ、ジオトリフなどの治療を受けて効果が落ちてきた場合、再度生検を行い、T790Mの遺伝子変異あるかどうかを確認する必要があります。

タグリッソを含め、いずれも経口薬で、1日1回服用します(表2、図3)。

表2 様々なEGFR-TKI
図3 EGFR-TKIの服用法

最初に登場したイレッサは2002年に認可されています。その次がタルセバで07年でした。ジオトリフの登場はまだ新しく、14年のことです。

この3種類の薬の効果は、大きくは違いません。新しい薬ほど効果がよくなっているとも言われますが、生存期間が有意に延長するような明確な差ではありません。

基本的な構造がよく似た薬剤であり、現れる副作用はよく似ています。皮疹、下痢、口内炎(口腔粘膜障害)、爪の障害などは、3種類の薬すべてに共通して見られる副作用です。ただし、副作用の強さや頻度には差があります。

3種類の中で副作用が最も軽いのはイレッサです。肝機能障害の出る頻度は少し多いですが、本人が自覚する副作用については最も軽いようです。

その次に軽いのはタルセバですが、特に皮疹が現れやすいという特徴があります。

ジオトリフは、他の2つに比べ重い副作用が多いと報告されています。特に下痢は、ほとんどすべての人に現れます。

副作用にこうした違いがあるため、全身状態(PS)が比較的悪い人や高齢者では、イレッサが選択されることが多くなります。特に全身状態が不良(PS2-3)の患者さんに対して、効果が証明されているのはイレッサだけです。ガイドラインでも、PS2-3に対してはイレッサが推奨されています。

■服用量の調整

ただ、ジオトリフやタルセバは、副作用が強いので使いにくいかというと、必ずしもそうではありません。イレッサは薬の服用量を変えることが基本的にできませんが、ジオトリフとタルセバは服用量を変えることが可能で、減量によって副作用をコントロールできるからです。

イレッサは1日1回250㎎を服用しますが、錠剤は1錠250㎎のもののみです。その点、ジオトリフとタルセバには用量の異なる錠剤があるため、それらを組み合わせることで減量が可能なのです。

したがって、ジオトリフは副作用が強いので使いにくい、とも言い切れません。正に一長一短と言ってよいでしょう。全身状態、年齢、がんの状態、患者の希望などを考慮し、薬が選択されます。

PS=パフォーマンスステータス

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