がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」

がんになっても快適に暮らすヒント Vol.11 美と癒しを支えるソシオエステティックをご存じですか?

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年6月
更新:2017年6月

  

やまざき たかこ 美容ジャーナリスト。2005年に乳がんが発覚。聖路加国際病院で毎月メイクセミナーの講師を務めるほか、がん治療中のメイクレッスンや外見サポートの重要性を各地で講演。女性の乳房の健康を応援する会「マンマチアー委員会」で毎月第3水曜日に銀座でセミナーを開催(予約不要、無料)動画にて、「治療中でも元気に見えるメイクのコツ」を発信中

みなさんは「ソシオエステティック」という言葉を聞いたことがありますか?

ソシオ(社会)エステティック(美容)。病気や事故、認知症、または災害などで傷つき、困難な思いをしている人に、医療と福祉の知識をもって行う総合的な美容ケアのことです。私自身も美容に長くかかわってきましたが、ざっくりとしか知りません。そこで、日本のソシオエステティシャンの草分け的存在の、光江弘恵さんにその活動についてお話をうかがいます。


山崎 ソシオエステティックという言葉を、がん医療の現場で最近耳にするようになりました。でもその実際を具体的に知っている人は意外に少ないと思います。どのようなものなのでしょう。

光江弘恵さん コデス ジャポン(CODES Japon)認定ソシオエステティシャン。NPO法人ソシオキュアアンドケアサポート理事。化粧品製造・販売会社に勤務し、エステティシャンに。病院施設を含め幅広いニーズに応えソシオエステティックを実施。2011年の東日本大震災時には、NPOの活動で、石巻と福島の避難所でソシオエステのボランティアを行い、福島では現在も継続。ソシオエステの普及に務めている。

光江 ソシオエステティック(以下、ソシオエステ)は簡単にいうと、美容による社会貢献という意味で、フランスのエステティシャン、ルネ・ルジエールが1967年、国立トゥール医科大学病院内で、患者さんの心や体のケアとして美容のボランティアを行ったことから始まりました。彼女の美容テクニックと寄り添う想いが、みるみる患者さんの気持ちを前向きにさせ、自立支援につながった成果は病院や医療現場で認められ、のちに国がソシオエステティシャンの養成組織として認可する「CODES(コデス)」を設立するに至りました。

山崎 フランスでは昔からエステティシャンは国家資格ですが、一般のサロンワークだけでなく、医療や福祉施設などで美容ケアができる知識や特殊技能を持つ人を、国がソシオエステティシャンと認めたということですね。

日本では2008年に日本エステティック協会がコデスと提携し、コデス ジャポンを設立。日本でもソシオエスティシャンの認定がとれるようになり、その第一期生が光江さん。

光江 はい。コデス ジャポンの講座が開かれると聞き、すぐに申し込みました。

山崎 ソシオエステティシャンという言葉も知られてない時代に、どのような動機で受講されたのですか。

病気などで困っている人に 「美容」で喜んでもらえる仕事がしたかった

光江 2つあります。1つは、私が高校生のとき、心臓病で入退院を繰り返していた母が、自分は入院中でお化粧もできないのに、キレイにしてお見舞いにくる友人たちに会いたくない、と言って、お見舞いをぜんぶ断ってしまったことです。母が亡くなってから、あのときに私がお化粧をしてあげていたら、たくさんの友人と会って、もっと違った時間を過ごせたのではという想いがずっとありました。

もう1つは、ピンクリボン運動に力を入れている化粧品メーカーのエイボン・プロダクツ(株)に入社し、抗がん薬で眉が脱毛した方が相談にみえたときのことです。初めて眉毛がない方に眉を描いたときに、入院中の母の姿が重なりました。その方はとても喜んでくだったので、こういうニーズがあるなら、私は困っている方に美容で喜んでもらえるような活動がしたい、と思うようになりました。そこでいろいろ調べてフランスのソシオエステのことを知ったのです。

山崎 もともと強い想いがあったのですね。現在は、コデス ジャポンで養成する側の立場としてご活躍されている。コデス認定のソシオエステティシャンになるためにはどのような条件があるのですか?

光江 コデス ジャポンは日本エステティック協会が、会員の方たちを対象に、社会で貢献するエステティシャンを養成するキャリアアップの一環として設立しました。ですから協会の会員で、エステティシャンであることが、受講の前提です。

山崎 エステティシャンでなければなれないのですね。

光江 はい。ソシオエステティシャンは医療や福祉の現場で働くわけですから、幅広い知識や技術が求められます。開講当時は、エステティシャンの中でも上位クラスの技能をもった者だけが受講できましたが、それでは人数が限られて広がりません。現在はフェイシャルエステティックの試験制度を設け、試験に受かった方が協会の会員になっていただくと、受講資格が得られるようになっています。

 

日本エステティック協会

〒102-0083 東京都千代田区麹町3-2-6 垣見麹町ビル4F Tel.03-3234-8496

ソシオエステティック

NPO法人ソシオキュアアンドケアサポート

〒145-0064 東京都大田区上池台1-19-1-401 E-mail.sociocure@yahoo.co.jp

高齢者施設、緩和ケア病棟、母子福祉センターなど 活動の場は広がっている

山崎 受講の中でソシオエステティシャンにふさわしい知識や技能を身につけていくわけですね。それにしても、活動の場を拝見すると多岐にわたりますね(図)。これら全部の医療や福祉の知識を学ぶのは並大抵のことではありません。

光江 はい、医療から福祉施設までさまざまな機関・施設に活動の場は広がっています。ただ矯正施設に関しては、日本ではまだ踏み込めていませんが。

山崎 ところで、ソシオエステティシャンは、コデスの認定者だけがなれるのですか?

光江 いえ、ソシオエステティシャンは「社会貢献をするエステティシャン(美容的ケアをする者)」という意味なので、コデス認定者だけの名称ではありません。実際にいろいろな方々がソシオエステティシャンとして活動されています。ただ、ソシオエステの認知度自体が低いので、まず、多くの方に知っていただくことが大切です。

山崎 存在を知らないだけで、施術を受けたいという要望はたくさんあるはずです。使命感と責任感をもって勉強されているソシオエステティシャンに施術をお願いしたい方や医療、施設にかかわる方に、もっとその存在を知っていただきたいですね。

コデス ジャポンでは何人くらいの方が認定を受けているのですか?

光江 卒業生は108人。そのうちディプロマを取得したのは82人です。フランスのコデスも同じですが、講座を卒業したあとインターン実習といって、病院や施設で20日間以上60人の方に実際にケアをしてレポートを提出し、施設の方からも評価をいただき、現場に1人で行っても安心して任せられると協会で認定した方にディプロマをお渡ししています。

山崎 卒業したらソシオエステティシャンになれるわけではないのですね。

光江 はい。実習先も各自で探します。病院や施設に行き、ソシオエステではこういうケアができますという説明や自分の想いをプレゼンテーションし、受け入れてもらうまで実習生が開拓します。実習先の方々に私たちの目的を理解していただくことにも意味がありますが、実習生が現場を経験してさらに多くの学びを得て、本当のソシオエステティシャンになれるのだと思います。

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