がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」

がんになっても快適に暮らすヒント Vol.15 がん患者の心を救うサイコオンコロジー

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年10月
更新:2017年10月

  

やまざき たかこ 美容ジャーナリスト。2005年に乳がんが発覚。聖路加国際病院で毎月メイクセミナーの講師を務めるほか、がん治療中のメイクレッスンや外見サポートの重要性を各地で講演。女性の乳房の健康を応援する会「マンマチアー委員会」で毎月第3水曜日に銀座でセミナーを開催(予約不要、無料)動画にて、「治療中でも元気に見えるメイクのコツ」を発信中

「がん」と宣告され、衝撃を受けない人はいないでしょう。焦りや深い落ち込みから自力で回復できればいいのですが、ずっとうつ症状を抱えたままの人も少なくありません。実際にがんと宣告された人の約3割は適応障害を含めたうつ症状から抜け出せずにいるといわれており、そうなると治療も前向きになれません。そこに手を差し伸べるのが、がん患者の心の病を専門に扱うサイコオンコロジー(精神腫瘍科)です。

とはいえ、サイコオンコロジーについて、知らない方もいると思います。そこでこの分野の第一人者で、8月1日に、日本初の専門クリニックを立ち上げたばかりの保坂隆さんに伺います。


山崎 まずは開院おめでとうございます。この7月まで聖路加国際病院でサイコオンコロジスト(精神腫瘍科医)として、がん患者の心の病の治療に当たっておられましたが、専門の個人クリニックとしては、日本初だそうですね。

保坂 隆さん 慶應義塾大学医学部卒業。平成2年~平成4年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)精神科留学。東海大学医学部精神科学教授などを経て、平成26年聖路加国際病院リエゾンセンター長、同精神腫瘍科部長。聖路加国際大学臨床教授、京都府立医大客員教授、東京医科歯科大学医学部非常勤講師。平成29年7月聖路加国際病院を定年退職、聖路加国際病院診療教育アドバイザー、昭和大学医学部客員教授。同年8月より保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。

がんによる心の不安に寄り添ってくれる著書

『がんでも、なぜか長生きする人の「心」の共通点』(朝日新聞出版、\1,000税別)

『がんでも長生き 心のメソッド』(マガジンハウス、\1,200税別)

保坂 おそらくそうだと思います。現実として、精神腫瘍科(サイコオンコロジー)という科を標榜している病院は、全国で4カ所しかありません(国立がん研究センター、がん研有明病院、聖路加国際病院、埼玉医科大学病院)。各都道府県のがんセンターに精神科医が1人いるとしても50名と、がん患者の心の病を扱う医師は非常に少ないです。

山崎 保坂さんも精神科医ですが、精神科と精神腫瘍科では何が違うのでしょうか?

保坂 全く違います。精神科は、もともとメンタルが脆弱な人を、薬物やカウンセリングで治療します。対して精神腫瘍科は、本来のメンタルは健常なのだけれど、たまたまがんという大きな病気にかかり、それが受け止められず一時的に不安症や不眠症、胃痛などで極端にQOL(生活の質)が下がるなど、つらい思いをしている人が対象です。

精神疾患は体質的なことも大きく、完全な治癒というのは少ないのですが、がん患者さんの場合は困難を跳ね返す力が備わっているので、それを引き出すサポートをするのが精神腫瘍科の仕事です。多くの方はたいてい3カ月で治癒します。

山崎 え? 3カ月ですか? それは早いですね。自力で立ち直るには、もっと時間がかかりそうで、その分苦しいですね。保坂さんは大学の医学部で精神科の教授をされたのちに、聖路加で精神腫瘍科の専任になられた。この分野の日本の第一人者ですが、なぜがんを専門にしたのか、その経緯を聞かせていただけますか?

保坂 医学部を卒業したときに僕は、心療内科のような道に進みたいと思っていました。心療内科は、ストレスで心筋梗塞や脳出血など、体の病気になる「心身症」の心のケアを扱う科ですが、当時の日本にはあまり定着していなかったので、精神科を選んだんです。ちょうど卒業の年に、リエゾン精神学(リエゾン=橋渡し)といって、様々な病気の中で起こる精神的な問題に対し、病気の専門の科と精神科医が共同して治療や診断、研究に当たる医療の概念が輸入され、自分がやりたいのはこれだと思いました。

そこで開院直後で人手不足の大学病院に研修医として移り、今でいうスーパーローテーション(医師になってから2年間は様々な科を回って診療に携わり経験を積むこと)のように、興味のある科の臨床を経験させてもらったんです。その結果、やはり僕は色々な科と距離をおきながらメンタルな部分を扱う、リエゾン精神科をやりたいんだ、という着地点が見つかりました。

山崎 これまで日本にはなかった領域ですね。

保坂 はい。新しい大学病院だからやらせてもらえたのだと思います。そこで最初に取り組んだ研究は「心筋梗塞になりやすい性格について」。28歳のときでした。その後も不妊症や子宮を摘出した女性の心理についてなど、リエゾン精神科という立場で、誰もやらない問題をずっとやってきて、36歳で専門学会を作りました。総合病院精神医学会といって、リエゾンの考え方や重要性を日本に定着させたかったんです。

留学をきっかけにサイコオンコロジストの道へ

山崎 なるほど、でもリエゾン精神学は、がんだけが対象ではありませんね。

保坂 実は学会を立ち上げてすぐ、リエゾンを本格的に学ぶために米UCLA大学に留学したんですが、上司である教授がたまたまその年に、「がん患者の集団療法で再発率が低くなった」という大きな論文を出して大ブレイクしたんです。上司から帰国したらがんを専門に研究する「サイコオンコロジスト」にならないかと言われて。まだ日本にはない分野だけれど、必要な医療だと思い、サイコオンコロジストが50名もいる、ニューヨーク・メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで3カ月ほど勉強してきました。

山崎 まるで導かれるように、サイコオンコロジストになったんですね。

保坂 そうですね。帰国してからも、大学でがんのグループ療法の実践や研究を10年間取り組みました。

山崎 ちょうどその10年目くらいのとき、私はがんの取材やピアサポート活動を始めていました。当時まだ耳新しい、「サイコオンコロジー」にとても興味をもち、保坂さんの研修会があるのを知って、沖縄まで飛んで行ったんです。

保坂 そうでしたね。あの頃は全国を回って研修会を開催して、沖縄が最後でした。

山崎 経験者として、がん患者の精神的なケアの重要性はとてもリアルな問題だったので、すごく腑に落ちました。修了書もしっかりもらいました(笑)。保坂さんはあのあと、大学を早期退職して、聖路加国際病院でサイコオンコロジーの専門の科を立ち上げたんですね。

保坂 はい。聖路加の院長が精神腫瘍科という新しい科を作ってくれ、臨床と研究に専念できるようになりました。その後、精神科と心療内科と精神腫瘍科が統合され、名前をどうするか相談され、「リエゾンセンター」しかないです、と即答して決まりました。3つの科がまとまることもリエゾンですし、他の科へ出かけていくのもリエゾンですから。

山崎 今では、精神腫瘍科も患者の間で知られるようになりました。

保坂 聖路加は乳がんの治療件数が圧倒的に多い病院で、私の患者さんも95%が乳がん患者さんでした。患者さん同士の口コミも広がり、他院の患者さんもたくさん診療していました。

 

保坂サイコオンコロジー・クリニック

〒104-0044 東京都中央区明石町11番3号 築地アサカワビル6階A号室
予約電話:03-6264-1791 HP:psycho-oncology-clinic.com

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