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――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」

がんになっても快適に暮らすヒント Vol.12 意外と知らない褥瘡(床ずれ)の話

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年7月
更新:2017年7月

  

やまざき たかこ 美容ジャーナリスト。2005年に乳がんが発覚。聖路加国際病院で毎月メイクセミナーの講師を務めるほか、がん治療中のメイクレッスンや外見サポートの重要性を各地で講演。女性の乳房の健康を応援する会「マンマチアー委員会」で毎月第3水曜日に銀座でセミナーを開催(予約不要、無料)動画にて、「治療中でも元気に見えるメイクのコツ」を発信中

みなさん「床ずれ」という言葉はご存じですよね。医学的には褥瘡(じょくそう)といいます。「長期間寝込んでいるとできるアザかタコのようなもの?」と、介護の経験がない一般の人は軽く考えがちです。しかし実際は、皮膚組織がジワジワと壊死していく状態をいい、QOL(生活の質)に影響し、感染すると命にかかわることもあるのだとか。

実は、がん手術などの全身麻酔中でも起こる可能性があるのですが、一般には意外なほど知られていません。今後、在宅での療養が増えていくほど身近に起こる「褥瘡」について、東葛クリニック病院のWOCナース、浦田克美さんに教えていただきます。


山崎 今回のテーマは褥瘡についての基礎知識をWOCナースの浦田さんに教えていただきます。WOC(ウォック)ナースは「皮膚・排泄ケア認定看護師」のことですね。

浦田克美さん 東葛クリニック病院 皮膚・排泄ケア認定看護師。DTI(深部損傷褥瘡)の概念ができた2007年に日本赤十字看護大学看護実践・教育・研究フロンティアセンター認定看護師教育課程皮膚・排泄ケアコース卒業。翌年、日本看護協会認定皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得。2015年より、一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会評議員。2017年3月、日本看護協会看護研修学校特定行為研修修了。創傷管理分野特定看護師

浦田 はい。創傷(Wound)、ストーマ(Ostomy)、失禁(Continence)の頭文字をとってWOC(ウォック)ナースと呼ばれていますが、2007年からは医療法の改正に伴い、「皮膚・排泄ケア認定看護師」と名称変更されています。ストーマ(人工肛門・人工膀胱)のケアや皮膚の創傷ケア、失禁ケアを専門的に扱う日本看護協会認定の看護師のことです。

山崎 皮膚の創傷の1つである、褥瘡ケアも専門分野ですね。一般には「床ずれ」という言葉が浸透していますが、その実態についてあまり詳しく知られていません。褥瘡はどういうときにできるのでしょうか?

浦田 常時臥床(がしょう)の方や、車いすを利用していて、自力で体位変換ができない方で、体の一定部位に体重がかかる「圧迫」や「ズレ(摩擦)」が2大原因で起こります。圧迫や摩擦で血流障害を起こすと、皮膚組織の細胞に血液から栄養や酸素が届かなくなり、細胞が壊死し、重症になると潰瘍化します。

山崎 細胞が壊死して潰瘍化するというのは、皮膚組織が腐るわけですね。
そう聞くと、ちょっと怖い。では自分で動くことができ、寝返りが打てる人は褥瘡にはならないのですね。

2時間で細胞壊死が始まることもある!! 全身麻酔などで長時間動かない場合に生じるDTI

■褥瘡の例

臀部に大きく広がっている薄い赤色の発赤は、褥瘡の初期症状であることが多い。左側の紫色の部分はDTIの可能性が高い

発症から24時間以内のDTI。このあと表皮の下の潰瘍が表面に現れきてから、ようやく治癒に向かう

浦田 そうですね。ただ、普段は動ける方でも、手術の全身麻酔や何らかの理由で意識がない状態のまま数時間同じ姿勢を続けると褥瘡になります。

山崎 そんなに短時間で褥瘡になるのですか?

浦田 2時間以上同じ状態で寝ていると壊死が始まるという研究報告もあります。そこで病院では、自分で体位変換できない方には2時間おきに体位変換すると決められています。

山崎 2時間とは驚きです。でも実は私にも覚えがあります。乳がんで右乳房の全摘手術から目が覚めたとき、胸もすごく痛いのだけれど、背骨の一点が猛烈に痛くて、看護師さんに体位を変えてもらい、枕を背中に入れてもらったりしましたが、とうとう朝まで一睡もできませんでした。翌日の日中は寝るのが怖くて、つらいけれど座って過ごしたくらいです。

浦田 そのとき背中の患部はどのような状態でしたか?

山崎 自分では見ていませんし、とくに背中を診察されたこともなかったと思います。

浦田 山崎さんが手術したのは2005年ですね。ということは、全身麻酔によって褥瘡が生じるという認識がなかった時代です。縟瘡にも種類があって、山崎さんのケースは、DTI(deep tissue injury)という「深部損傷褥瘡」の可能性があります。米国の褥瘡諮問委員会による褥瘡の深達度を分類するNPUAP分類が改訂され、DTIという概念が日本に浸透し始めたが2007年以降です。

さらに、2006年の診療報酬改定で新設された「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」の算定対象の中に、「6時間以上の全身麻酔下による手術を受けたもの」という項目があります。よって、現在ではそのような方には褥瘡予防策と術後必ず全身をチェックすることが必須になっています。

山崎 ちょっと早かった! 

浦田 手術中にできる場合は急性期の褥瘡でDTIの可能性が高く、患部が深く、強い痛みを伴い、治りにくいのが特徴です。

山崎 短時間なのに深部にできて、治りにくいのですか?

浦田 はい。皮膚を圧迫することでできる縟瘡は、皮膚表面から奥へジワジワいくイメージですが、DTIの場合は皮下組織の深いところから先に壊死する傾向があるのです。

山崎 なぜそんなことになるのでしょう。

浦田 身体の最外層の皮膚は薄いけれど、圧迫によって生じる血流障害による耐久性がとても強いのに比べて、皮下組織や筋肉組織は弱いので、短時間に集中して圧迫されると、深部から先に細胞が挫滅(ざめつ)してしまうのです。

山崎 では、私の背中の一部は壊死していた!? それも治りにくい?

浦田 DTIは、最初は紫色の色素沈着がから始まりますが、実は深いところから悪化して1~2週間くらいかけて皮膚表面から潰瘍となって顔を出すというパターンが特徴的です。膿むと臭いもします。その段階を経てから徐々に治っていくので時間がかかるのです。

山崎 私は潰瘍にはならなかったのでDTIでも軽度だったのですね。術中もずっと同じ姿勢ではなく乳房再建のインプラントを入れるために途中で座位になるので、それが良かったのかも。

浦田 それもあると思います。今は術後の褥瘡ケアが徹底されていますから、病院での発生件数は激減しています。術後のケアとしては、赤みを見つけたら、ポリウレタンフィルム剤を患部に貼り皮膚組織の耐久性を高め、体位変換をしたり、体圧を分散させるマットレスを使うなどしています。

問題は、在宅での褥瘡ケアです。今、自宅療養をする人が増えていますが、これからはますます増えていくといわれています。ただ自宅では病院のような褥瘡コントロールは難しいと思います。

在宅で生じる一般的な褥瘡は痛みを感じにくいので 家族が発赤などの初期症状に気づくことが大切

山崎 ケガや病気については気にかけても、褥瘡のことまで頭が回りませんね。ただ、縟瘡はとても痛いので、すぐ自覚できるのではありませんか?

浦田 それが、健康な身体に突然褥瘡ができるDTIですと痛みが強いのですが、時間をかけて表面からじわじわ奥へ壊死していく一般的な褥瘡は、あまり痛みを感じないようです。体の中でも表層の真皮層には知覚神経細胞がいっぱい走っているのですが、皮下組織はそれほど多くないため、鋭い痛みを感じません。

山崎 そうなのですか。褥瘡は放っておくと悪化するので、自宅で介護するご家族が褥瘡に気づかないといけませんね。何かポイントを教えてください。

浦田 まず褥瘡は、脂肪や筋肉が少なく骨が突きでている部位にできやすいので、その部位を知っておくことが大切です。仰向けに寝ている方は仙骨部、横向きは腰骨の大転子(だいてんし)部、座位では尾骨部にできやすいですね。(イラスト参照)

軽度ですと皮膚が部分的に赤くなります。見るたびに同じところが赤い、もしくは皮がめくれている、水ぶくれになっている場合は褥瘡が始まっている可能性が大きいので、病院で診察を受けましょう。

また、皮がめくれているだけでなく、周囲の皮膚と段差ができている場合は、内側で組織の欠損が始まっています。重症なのですぐに病院へ行ってください。さらに患部が膿んで腐敗臭がある状態は感染している状態です。命にかかわることもあるので、即刻病院で治療をしてもらってください。

山崎 命にかかわることがあるのですか?

浦田 常時臥床の方など、やはり褥瘡ができやすい方の多くは衰弱し体力や免疫力が低下しているので、傷口から全身感染を起こすと命を落とすこともあります。

山崎 東葛クリニック病院には「褥瘡外来」がありますが、このほかは、どこの科にかかればいいですか?

浦田 形成外科、皮膚科、外科を受診してください。

■褥瘡のできやすい部位

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