がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」

がんになっても快適に暮らすヒント Vol.17 ニューヨーク乳がん視察ツアーvol.2 現地報告

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年12月
更新:2018年1月

  

やまざき たかこ 美容ジャーナリスト。2005年に乳がんが発覚。聖路加国際病院で毎月メイクセミナーの講師を務めるほか、がん治療中のメイクレッスンや外見サポートの重要性を各地で講演。女性の乳房の健康を応援する会「マンマチアー委員会」で毎月第3水曜日に銀座でセミナーを開催(予約不要、無料)動画にて、「治療中でも元気に見えるメイクのコツ」を発信中

乳がんサバイバー16名でツアーを組み、ニューヨーク視察ツアーを行った2017年9月。

前回はニューヨークに住む日系人ががんになったときの実情を、現地で乳がん・卵巣がん患者のサポート活動を行っている、「SHARE 日本語プログラム」代表のブロディー愛子さんに、伺いました。引き続き、ニューヨークでの視察をレポートします。

乳がん・卵巣がん患者をサポートするNPO法人「SHARE」

「アメリカン・キャンサー・ソサエティ」のオフィスの前で、ブロディー愛子さんと筆者(左)

がん治療の先進国といわれるアメリカでは、「LIVESTRONG」などがん患者のサポート団体の活動も活発です。乳がんに関してもピンクリボン運動発祥の地だけあって、各地でプログラムやイベントが開催されているようです。

今回訪れたのはニューヨークを拠点に活動し、40年もの歴史をもつ乳がん・卵巣がん患者のサポート団体、特定非営利活動法人「SHARE」です。日本語プログラム代表のブロディー愛子さんの案内で、マンハッタンのオフィスで開催された交流会に参加しました。

SHAREの活動は、患者同士が集まるサポートミーティングをベースに、電話相談を受けるヘルプラインや、乳がん・卵巣がんに関する情報プログラムをインターネット提供することでアメリカ全土の患者とつながるなど、活動の場を広げています。

SHAREでは患者の教育にも力を入れていて、例えば肥満が多いエリアを訪ねて栄養指導をするなど、がん予防のための指導も行っている。アメリカは多民族国家で、人種による体質や生活習慣も異なるため、各々に応じたサポートを行う必要がある。これは日本とは大きく違うところです。

これらの活動資金は、20名いるスタッフ(内10名はパート)への報酬も含め200万ドル弱とか。その多くは個人や企業からの寄付(前回紹介したファンドレイジングパーティにより集まった寄付も含む)。それに政府からの援助で賄われているそうです。

日本にも潤沢な予算をもつ団体はあるのでしょうが、私たち(今回のツアー参加者)が行っているピアサポート活動は手弁当のことが多い。完全ボランティアベースではいつか疲弊してしまい、後に続く人がいるのかという不安もあります。よりよいサポートを長く続けていくために資金集めは大切で、また、資金がたくさん集まったとして、生きたお金の使い方をすることも、日本の課題だと思います。

ニューヨーク大学ランゴーン・メディカルセンター(NYU)病院ブレストキャンサーエリアを見学

ニューヨーク大学ランゴーン・メディカルセンター(NYU)病院

つねに全米人気病院トップ20に入るといわれる、NYU病院。乳がん患者だけでも1日百人以上が診察に訪れているそうです。この病院では検査、病理、診断、外科治療、薬物療法、遺伝子検査、緩和医療などすべてが揃い、連携したチーム医療を実施しています。

日本でも同じような体制の病院はありますが、例えば検査だけでもマンモグラフィ技師16名、超音波技師8名に画像診断のドクターも多く在籍するなど、日本と比べて医療者の数がかなり多いという印象です。

看護師のクリスティーナさんは、「苦しい状況にいる人を全力でサポートしたい。患者(へ正しい知識を伝える)教育は最も力を注いでいる」と言っていました。化学療法専門の看護師が24時間体制で電話対応を行い、栄養士など多くの専門家が1人の患者に対してアプローチする体制を敷いている。充実したマンパワーにより患者のQOL(生活の質)やその人の意思を尊重しながら寄り添う余裕が生まれるのですね。

興味深かったのは、HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)についてです。私たちメンバーの問いに腫瘍内科のジュリア・スミス医師は、正確な数字ではないがと前置きし、HBOCと判明した人のおよそ3割が、アンジェリーナ・ジョリーのように、がんが発症する前に予防的に乳房や卵巣を切除しているのではないか、との見解を示してくれました。日本でも特定の病院では予防的切除が行われていますが、意外と早い段階で、予防的切除が普通に選択肢として入ってくる時代がくるかもしれません。

さて日本でもこの数年話題になっている、マンモグラフィ検査で判明するデンスブレスト(高濃度乳房)について。現在アメリカでは30州が対象者への告知を義務づけていますが、ニューヨーク州は2013年2月に全米で初めて法律として義務づけました。さらに2016年6月27日にも他州に先駆けて、デンスブレストとわかった女性の、超音波やMRIなどの補足検診について、自己負担の必要がないことを発表。経済的な理由で追加の検診が受けられないケースがないように法律で義務づけたことは、素晴らしい!

デンスブレスト(高濃度乳房)=乳腺濃度が体質的に高い乳房のことで、このタイプはマンモグラフィ検診を受けても、しこりが乳腺に隠れて見落とされる可能性がある。そこでマンモグラフィ検診でデンスブレストと判明した人には、検査結果にその旨を伝えることの義務化がアメリカでは進んでいる。デンスブレストに関してはこの連載で取り上げていて(2016年11月号)、日本人の約4~8割がデンスブレストとも言われている。日本の患者団体の代表などが厚労省に要望書を提出するなどして、かなり認知が広がってきているが、アメリカと保険事情が違うことなどもあり、法的な義務化にはまだ時間がかかりそうだ。

LGFBのアニタさんと、石巻赤十字病院で美容ケアをするソシオエステティシャンの瀬戸真由美さん

さて、NYU病院ではがん患者を対象に運動や料理など様々なワークショップを提供していますが、その1つに、「L.G.F.B.」(Look Good Feel Better)がありました!

これは、抗がん薬による脱毛や肌の変色に悩む患者のための美容サポートプログラム。私も乳がんになってその存在を知り、ずっと関心をもっていたのです。そして、NYUの患者さんがL.G.F.B.のプログラムを受けられる場が、同じマンハッタンの「アメリカン・キャンサー・ソサエティ(米国がん協会)」(ASC)にありました。

 

 

 

 

★ブロディー愛子さんによる乳がんニューヨーク事情★

アメリカでは女性の8人に1人が乳がんになり、アメリカン・キャンサー・ソサエティの2017年度の予測では、約25万2,710人が新たに浸潤性乳がんと診断され、約4万人が亡くなるとされています。乳がんによる女性の死亡率は1989年から2015年の間に39%減っており、とくに高齢者の罹患者が下がり続けているという傾向があります。ちなみに、アメリカ人全女性のうち、乳がんで亡くなる率は37人に1人。約2.7%です。

アメリカの医療システムは、それぞれにホームドクター(かかりつけ医)がいて、がんと診断されたら、ホームドクターを通して病院を紹介してもらいます。ただし国民皆保険の日本と違い、アメリカでは個人で保険に加入しており、保険のランクによって治療が受けられる病院や医師の選択の幅が異なります。

例えば、日本企業のアメリカ駐在で、会社がいい保険に加入している場合は、日本語通訳も無料でつきますから、必ず病院にアポをとるときは通訳をつけてもらうようアドバイスをしています。

アメリカにはSHAREのようなサポート団体が多く、電話やメールで相談ができる窓口がいくつかあります。アメリカでは人種は関係なく、英語が話せればサービスが受けられます。もし、ニューヨーク滞在で日常会話くらいか、英語は苦手という方は、「SHARE日本語プログラム」にぜひアクセスしてください。(http://sharejp.org/

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