FP黒田尚子のがんとライフプラン 31
がん患者は「就業不能保険」で給付金が受け取れるのか?

がんで働けなくなったときのリスクをカバーする「就業不能保険」とは?(後編)

黒田尚子●ファイナンシャル・プランナー
発行:2016年10月
更新:2016年9月

  

くろだ なおこ 98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/

がんに罹患した後に、降格や離職、転職などによって収入が減ってしまうリスクは、一時的な支出増(医療費負担)よりも深刻です。そして最近、がんのような治療が長期化する病気に対する収入源のリスクをカバーする生命保険会社の「就業不能保険」の新商品ラッシュが相次いでいます。

今回は前回に引き続き、がんに罹患した場合、就業不能保険から給付金が受け取れるかどうか、罹患後に加入できるかどうかについて考えてみたいと思います。


就業不能保険は、病気やケガによって一定期間以上、就業できない場合を保障・補償する保険です。医療保険と異なり、一定の就業不能状態であれば、入院の有無は問われません。

そこで、まず注意すべきは、保険会社が定める一定の「就業不能状態」とはどのような状態かということです。

例えば、アフラックの「給与サポート保険」では、支払いの対象となる「就労困難状態」とは、次のいずれかに該当する状態をいうとしています。

■表1 アフラック「給与サポート保険」の「就労困難状態」について

ここで問題になるのが、在宅療養についてです。

とくに表の(2)(a)医師の指示に基づく在宅療養では、「病院への通院など必要最低限な外出を除き、活動範囲が自宅などに制限されている場合など」とあり、在宅療養や医師の指示によるものでなければいけません。

また(b)特定障害状態に明記されているように、障害等級1級、2級に該当する程度の状態でなければ、受給は難しいでしょう。

これらに該当するがんの障害認定基準は、次の表の通りです。

抗がん薬治療やホルモン治療などの副作用で体調が優れず、働けないような場合、支払い要件に該当する可能性は低そうです。

■表2 がんの障害認定基準

保険会社によって、「就業不能状態」の細かな要件は異なりますが、共通するポイントとして次のような点が挙げられます。

①病院等に入院している

②医師等の指示により在宅療養しており、いかなる業務・職業にも従事できない

③障害年金1級・2級など社会保障制度とリンクしている

次に注意すべきは、就業できない「一定期間」、つまり免責期間はどれくらいなのかという点です。

基本的に、会社員や公務員等が私傷病で働けない場合、健康保険等から「傷病手当金」が支給されます。これは支給期間が1年6カ月で、お給料の2/3の額が受け取れるという公的制度です。

ある意味、民間保険は公的制度を補完するものということで、傷病手当金の支給が終了した180日を免責期間としている就業不能保険商品もあります。

また免責期間を30日あるいは60日と短くしたり、60日と180日など選択できるように設定している商品や、60日(介護は180日)のように、原因によってわけている商品など様々です。

免責期間が短いほうが早く受け取れるわけですから、有利と言えます。ただ、その分保険料にも反映されていることをお忘れなく。

さらに、これらの保険は、原則として対象者が安定した勤労所得のある方のみとなっています。したがって、主婦やフリーター、パート・アルバイト、年金生活者、不動産収入や配当収入など資産生活者の方などは加入できません(保険会社によって異なる)。

しかし、加入時の告知については、がん罹患の有無自体を問わない、あるいは過去5年以内の病歴等について告知する必要があるだけなどです。

つまり、がん保険や3大疾病保障保険のように、1度がんに罹患すると加入できなくなるわけではなく、5年など一定期間以前にがんに罹患し、治療等もすべて終了しているような場合、告知義務はありませんので、加入できる可能性があるということです。

ある保険会社にその理由を質問すると、「過去のデータなどから、就業不能保険では、がんなどの病気になった方を除外する意味があまりないと考えています」という回答でした。

就業不能保険は新しい保険ニーズの開拓のため、今後も新商品が登場する可能性が高い分野です。加入を検討している場合は、慌てず、もう少し商品の動向を見極めてからでも遅くはないでしょう。

 

今月のワンポイント 乳がん患者調査(「平成24年度厚生労働科学研究費補助金がん研究事業」山内班)によると、乳がん診断後1年間で、病気のために仕事や家事を休んだ日数は平均79.5日となっています。がん患者にとって働けなくなるリスクは、とても身近なものだということです。

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