FP黒田尚子のがんとライフプラン 37

知っていますか?「リビング・ニーズ特約」の活用法

黒田尚子●ファイナンシャル・プランナー
発行:2017年4月
更新:2017年4月

  

くろだ なおこ 98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/

「リビング・ニーズ特約(以下、本特約)」とは、医師の診断によって、被保険者が余命6カ月以内と判断された場合、生存中に死亡保険金の一部もしくは全額の前払い請求ができる特約のことです。

1990年代半ば以降、終身保険や定期保険、養老保険など、多くの生命保険に付加することができ(中には自動的に付加されている場合もあり)、受け取った保険金は、延命のための最善の治療を受けたり、残された時間を家族とともに過ごしたりするために使うことができます。

がん患者さんにとって、有意義な保険金の使い方を可能にする、知っておいてソンはない特約なのですが、実際に正しく内容を理解している人は少ないようです。そこで今回は、知っておきたい本特約の基礎知識や活用法をご紹介しましょう。


全国の生命保険に加入している50~70歳の男女200名に行った「生命保険に関するアンケート」(2008年)によると、本特約を知っている人は42%、知らない人は58%でした。生命保険に加入していても、本特約の存在について知らない人が約6割いるという結果になっています。

しかしながら、「もし、あなたが末期がんで治療の余地がなく、余命6カ月であることがわかったとき、リビング・ニーズ特約を利用しようと思いますか?」という質問に対しては、81.5%が「はい」と回答しています。

基本的に、死亡保険は、死亡もしくは所定の高度障害状態になった場合に保険金が支払われるものです。

それを、本特約が付加されていれば、まとまった保険金が前払いで受け取れるため、医療費の補てんや、例えば、末期がんの〝おひとりさま〟が、受け取った保険金で、身の回りの世話をしてくれた友人にお礼をするなど、被保険者の意思に基づいた保険金の利用が可能になります。

保険金の前払いという担保内容から、本特約にかかる保険料は無料です。

また、前掲のアンケートでは、「あなたはリビング・ニーズ特約に加入していますか?」という質問に対して、87.5%が「いいえ」と回答しています。古い保険契約など、付加されていないケースも少なくないようですが、保険会社によっては、中途付加ができる場合もあります。

「付けておいたほうが良いかも?」と感じたら、保険会社等に確認してみましょう。

知っておきたい5つのポイント

本特約の知っておきたいポイントは次の5つです。

①請求は代理人でも可

対象者は、被保険者本人または指定代理請求人(あらかじめ契約者が指定した人)です。本人に余命告知がなされていないなど「特別な事情」がある場合は、契約者からあらかじめ指定されている代理人が本人に代わって請求可能です。

②上限は3,000万円までで、使いみちは自由

請求できる金額は、契約の死亡保険金の一部または全部で、被保険者1人につき3,000万円以内です。本特約が利用できるのは1契約につき1回のみ。特約を使って保険金を全額受け取ると、その保険は消滅します。保険金が残っていれば、残った分の保険料を支払う必要があります。

③治療によって6カ月を過ぎて生きていたとしても、返金を求められることはない

支払い基準は医師の診断(保険会社によって確認方法が「診断書」の場合と「意見書」の場合がある)による6カ月の余命ですが、それを過ぎても問題はありません。生命保険業界のデータでは、本特約の保険金支払いを受けた方の多くが余命1年以内に収束されているようです。

④保険金に対して税金はかからない

受け取った保険金は、医療保険の給付金などと同じく非課税です。ただし、死亡時に相続人が死亡保険金を受け取った場合の相続税の非課税枠がありますが、本特約で受け取ったお金が余った場合、この非課税枠はありません。

⑤医師の診断だけでは保険金は支払われない

本特約を巡るトラブル事例として、余命 3~4カ月以内と主治医に診断されたためリビング・ニーズ特約保険金を請求したところ、請求時点では生体肝移植を受け事情が変更になったとして保険金が受け取れなかった事例がありました。

([事案19-19] リビング・ニーズ特約保険金請求/平成19年9月13日 裁定受理/平成20年1月15日 裁定終了)

保険金支払いの最終的な判断は保険会社が行うという点と、臓器移植の待機者をどう扱うかなど、臓器移植について保険会社ごとに判定の確認方法が異なっている点は注意しておきましょう。なお、「臓器移植を受けなければ、余命6カ月以内と診断された場合」などとしているようです。

いずれにせよ、本特約は、医師による診断がつかなければ、基本的に請求できません。ですから、医師の診断がされていない場合、しかるべき時期まで保留しておくか、契約者貸付制度などの制度を活用するのも1つの方法です。

 

今月のワンポイント リビング・ニーズ特約は、もともと終末期医療にかかる治療費用の補てんやQOL(生活の質)を維持するための保障として設けられた保険金の前払い制度です。存在を知らない人も多いので、まずは特約の意義と役割を正確に認識することが重要です。

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