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FP黒田尚子のがんとライフプラン 39
2017年8月以降、2段階で変更される70歳以上の「高額療養費」に要注意!
2015年3月号の「2015年1月から高額療養費制度が改正。変更点をおさえておこう!」では、70歳未満の方を対象にした高額療養費制度(以下、高額療養費)の改正についてお伝えしました。
その改正がようやく定着してきたと思いきや、続いて70歳以上の方を対象とした自己負担限度額の引上げが、今年(2017年)8月と来年8月の2段階で行われる予定です。
今回は、その概要と注意点についてご紹介しましょう。
高額療養費は、本コラムで何度も取り上げていますし、がん患者なら、恐らく、適用対象になったという人も多いはず。
ということで、どのようなものかといった説明は省略しますが、この制度は、昭和48年10月に被扶養者を対象に、次いで昭和56年3月に被保険者(低所得者)を対象に創設され、それ以来、数次の改正が行われてきました。
直近では、平成27年1月に、70歳未満の所得区分を3区分から5区分に細分化。自己負担限度額(以下、自己負担)の見直しが行われています。
70歳以上については、平成18年以来、自己負担の見直しが行われていませんでした。
それが、平成29年度税制改正が成立し、今年の8月以降、段階的に自己負担が引き上げられることが決まったのです。
今回改正される点を反映させると、高額療養費は以下の通りになります(図表参照)。
70歳以上で対象となったのは「住民税非課税世帯」以外です。
とくに、対象者が約1,200万人以上にのぼる「年収370万円未満」の一般世帯の場合、1カ月あたりの自己負担の上限は、12,000円⇨今年8月には14,000円⇨来年8月からは18,000円までに引き上げられます。
ただし、在宅での長期療養のケースなどを配慮して、新たに年間の上限額144,000円が設けられるといいます。
そして「年収370万円以上」のいわゆる現役並み所得世帯については、現行で1区分だったものが、3区分に細分化。
たとえば、「年収370万円以上770万円未満」世帯は、44,400円⇨今年8月には月57,600円⇨来年8月には月87,430円と約2倍もアップします。
つまり、70歳以上も、所得に応じて70歳未満と同じ所得区分に変更になるとイメージすればわかりやすいかもしれません。
高額療養費の支給額は増加
実は、現行の70歳以上の規定については、2つの大きな特徴がありました。
①外来の場合、入院よりも自己負担が少ない
②いわゆる「現役並み所得者」でも、70歳未満よりも自己負担が少ない
とりわけ①は、「外来上限特例」と言われるもので、高齢者は外来の受診頻度が現役世代等に比べて高いこと、高齢者の定率負担を導入してから間もないことなどを考慮して設けられたものです。
これが、来年8月以降には廃止されることがおわかりになるでしょう。
厚生労働省は当初、外来上限特例について「現役並み所得者」のみ廃止する方針だったようですが、与党内の慎重論に配慮し、来年8月から新たな所得区分を設けた上で廃止することになったようです。
厚生労働省の調査によると、高額療養費の支給額は、75歳未満が約1兆6,772億円、75歳以上では約5,429億円にものぼり、ここ10年で約1.56倍(75歳未満)、1.65倍(75歳以上)に増加しています(いずれも平成25年度)。
高齢者の増加による自然増はしかたないとしても、同時に少子化問題を抱える日本として社会保障費の抑制は国の最重要課題でもあります。
今後は、医療制度のみならず介護制度の負担増(自己負担の引上げ)の改正も同時期に行われることを付記しておきたいと思います。
今月のワンポイント 世帯によっては、70歳未満と70歳以上が同一世帯の家庭もあります。その場合、まず70~74歳の自己負担の合算額に限度額を適用した後、残った負担額と70歳の自己負担の合算額を合計した額に限度額を適用する仕組みになります。なお、75歳以上については後期高齢者医療制度の対象です。高額療養費の仕組みは難しいので、わからなければ、保険証にある「保険者」(加入の健康保険組合、協会けんぽ、市区町村など)に問い合わせてみましょう。