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FP黒田尚子のがんとライフプラン 40
年金受給中に亡くなった場合の「未支給年金」はどうする?
「偶数月には孫が来る」なんて川柳でも謳われるように、公的年金は、偶数月の15日に、前々月分と前月分の2か月分が支給される仕組みです。この「後払い」方式によって、いつの時点で亡くなっても、受け取る権利があるのに受け取ることができない年金、いわゆる「未支給年金」が生じることになります。
今回は、意外に知られていない、そしてトラブルになりやすい「未支給年金」の取扱いについてご紹介したいと思います。
先日、A子さん(58歳)の実兄B男さん(67歳)が肺がんで亡くなりました。告知を受けたときはすでにステージⅣで骨や肺、腎臓などに転移している状態で、入院した病院でそのまま最期を迎えました。
A子さんの両親はすでに他界しており、B男さんは、独身のひとり暮らしで、子どもはいません。おもな身内といえばA子さんだけです。A子さんには同居家族があり、B男さんと一緒には暮らしていませんでしたが、近所に引っ越しさせるなどして、数年前から、病気がちで働けなくなったB男さんの面倒を見てきました。
B男さんの死後、A子さんは、葬儀をはじめ、様々な手続きを行いましたが、そこで、B男さんには、300万円の未支給年金があることがわかったのです。
「未支給年金」を受けとれる範囲
さて、A子さんは、B男さんの未支給年金を受け取ることができるでしょうか?
このように、亡くなった方が受け取れるはずであった年金が残っている場合、死亡日において、その方と生計を同じくしていた遺族が、未支給年金を請求することができます。
未支給年金を受け取れる遺族の範囲と順位は次の通りです(図表参照)。
なお、未支給年金は、平成26年4月から3親等以内の親族まで請求できるよう変更されました。
A子さんは、第6順位の兄弟姉妹に該当するため、B男さんの未支給年金を受け取れる権利はあります。ただし、B男さんとは別居していたということで、ここでのポイントは、「生計を同じくしていたか?」です。
手続きには、死亡した人と請求する人の住所が異なる場合、それぞれの住民票とともに「生計同一関係に関する申立書」の添付が必要になります。
そして、この申立書には、隣人、町内会長、施設長、施設職員、民生委員などの第三者からの証明もしくはそれに代わる書類の提出をしなければなりません。
A子さんの場合、マイカーでB男さんの病院の付き添いや送り迎えを定期的に行っていたこと、生活費として毎月2万円を振り込んでいたことなどが通帳等の記録から証明することができ、生活もしくは療養の基盤となる経済的援助を行ったと認められ、結果として未支給年金を受け取ることができました。
「未支給年金」は、所得税の対象
しかし、A子さんの頭を悩ませる問題はさらに続きます。
未支給年金は、受け取った人の自己の固有の権利となるため、相続財産には該当しないとされ、受け取った人の「一時所得」として所得税の対象になります。
一時所得とは、名前の通り、一時的で対価性のない所得のことで、生命保険の満期保険金や福引の当選金などと同じ扱いです。
一時所得は、50万円までは非課税ですので、未支給年金が50万円以下であれば確定申告の必要はありません。
しかし、A子さんが受け取った未支給年金は300万円。ここから50万円を差し引き、さらに1/2にした金額(125万円)が一時所得となり、ほかの所得と合わせて確定申告の必要が出てきました。
A子さんは週5日パートで働いていましたが、夫の扶養の範囲内に収まるよう100万円以下に調整していたのです。それが未支給年金を受け取った場合、A子さんの合計所得金額は125万円+(100万円−65万円)=160万円となり、扶養の範囲からはずれ、税金とともに社会保険料の負担がかかってきます。
まとまった未支給年金が受け取れると喜んだA子さんでしたが、それが自分の所得になって、税金などの負担がかかると聞いて、なんだか納得がいかない気持ちでいっぱいになったと言います。
なお、未支給年金としては、老齢基礎年金のほか、遺族基礎年金、障害基礎年金、寡婦年金などがあります。
中には、亡くなった方が、原則65歳から受給の年金をもらわずに、繰下げ申請を行っていたなど、かなりまとまった未支給年金を受け取った遺族もおられますので、可能性のある場合はくれぐれもご注意を。
今月のワンポイント 未支給年金を請求できる人がいない場合、同居人、親戚、家主などが「死亡届」のみ提出します。公的年金は、もらうときと同様、止めるときもきちんと死亡届を提出しなければ、いつまでも支給されることになり、後で返還の手続きなどが大変です。老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金、寡婦年金を受けていた人が亡くなったときは、自治体の国民年金課、それ以外の年金を受けていた人が亡くなったときは、年金事務所または共済組合での手続きになります。いずれにせよ、わからないことがあれば早めに相談しましょう。