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先進医療Bに「網羅的がん遺伝子検査」が承認! 気になる費用は?

黒田尚子●ファイナンシャル・プランナー
発行:2018年6月
更新:2019年7月

  

くろだ なおこ 98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/

2017年10月に策定された「第3期がん対策基本計画」の中にも盛り込まれている「がんゲノム医療の推進」ですが、今回の診療報酬改定で初めて、ゲノム医療に欠かせない「網羅的がん遺伝子検査」が先進医療Bに承認されました。

適用されたのは、国立がん研究センター中央病院の「マルチプレックス遺伝子パネル検査」。2018年4月1日に先進医療Bとして承認され、9日より開始されています。

最近よく耳にする「ゲノム医療」とは?

そもそもゲノム(Genome)とは、遺伝子(gene)と、「全体、かたまり」を表す接尾語(-ome)を合わせた造語で、ある生物種が持つ遺伝子情報全体のこと。

患者のゲノム情報を網羅的に調べ、その結果をもとに、より効率的・効果的に病気の診断や治療などを行うのがゲノム医療です。

それをがんに応用し、従来のように臓器ごとに治療法を決めるのではなく、個々のがん患者のゲノム情報を解析、がんの原因となった遺伝子異常という、より細分化された分類で治療を行うことで最適な治療ができるという注目の医療です。

がん遺伝子検査については、肺がんにおけるEGFR、ALKや、乳がんにおけるHER2遺伝子検査など、すでに健康保険が適用になっているものもあります。ただし、これらは単一の遺伝子異常を調べるもので、対象となるがん種も限定されています。

それに対して網羅的がん遺伝子検査(がんクリニカルシーケンス検査)は、複数の遺伝子異常が一括で検査でき、前述のマルチプレックス遺伝子パネル検査の場合、対象遺伝子数は110以上。がん種も問いません。

網羅的がん遺伝子検査は、このがんゲノム医療には欠かせないもので、数年前から一部の医療機関で、全額患者負担となる「自由診療」、あるいは「治験」(臨床試験・臨床研究)という形で実施されていました。

最大のハードルは高額な患者負担!

網羅的がん遺伝子検査の対象となるのは、希少がんや原発不明がん、全身にがんが転移してしまっているなど、標準治療では改善が望めない患者がほとんど。

いわば最後の望みをかけて、この検査を希望する方も少なくないと聞いています。ただ、大きなハードルとなっているのが高額な費用です。

治験で受ける場合、患者負担はありませんが、年齢やがん種、特定の遺伝子異常といった参加条件を満たす必要があります。

一方、自由診療で受ける場合、希望すれば受けられるものの、費用はいずれも高額です。

例えば、京都大学をはじめ、北海道大学病院や千葉大学病院、岡山大学病院などで実施している「オンコプライム(OncoPrime)」は約80~100万円、東北大学病院、順天堂大学順天堂医院、横浜市立大学病院などで実施している「MSK-IMPACT」は約60~70万円です。

先進医療Bの適用が受けられると費用負担はどう変わる?

それでは、今回適用が認められた先進医療Bを利用した場合、費用負担はどのように変わるのでしょうか?

先進医療Bの場合、診察・検査・投薬・入院など一般の保険診療と共通する部分は、公的医療保険制度の適用対象となり、先進医療の技術料の部分は、全額自己負担となります。

すべて自己負担となっている自由診療に比べると、一部負担は軽減できますが、高額療養費制度等は利用できませんので、高額なことにあまり変わりはなさそうです。

マルチプレックス遺伝子パネル検査の費用は66万4,000円で、研究費負担が20万円、残りの46万4,000円が患者負担となります。

これに加えて、検査や診察にかかる費用の目安が2万5,000円(3割負担の場合)ですので、約49万円が患者負担となる医療費の目安です。

■マルチプレックス遺伝子パネル検査の概要

*出典:「がん関連遺伝子を網羅的に調べる遺伝子検査のご案内」国立がん研究センター中央病院HPより一部抜粋のうえ筆者編集・作成

「先進医療特約」を付加している場合は、技術料部分が保障の対象となる!

先進医療の仲間入りをしたといっても、高額な費用負担が必須のようですが、加入している民間の医療保険やがん保険などに、「先進医療特約」を付加している場合、先進医療の技術料部分は、保障の対象となります。

さらに商品によっては、交通費や宿泊費として利用できる一時金(5~10万円など)が受け取れるものもありますので、標準治療適用外で、少しでも治療の選択肢の幅を広げたい患者にとって、先進医療特約は心強いミカタとなりそうです。

しかしながら、先進医療に適用されるのはあくまでも検査。高額な負担を覚悟で受けた結果、効果が期待できる薬剤(分子標的薬)が見つからない可能性もあります。

国立がん研究センター中央病院によると、前述の検査について、これまでの臨床研究で遺伝子変異に合う薬剤投与ができた患者さんは約10%です。

また、見つかったとしても、それが保険適用外の場合、治験に参加きるのであれば費用負担は生じませんが、先進医療と自由診療を併用あるいは自由診療のみで治療を行うことになれば、引き続き高額な費用負担がかかってきます。その費用は月額数10万~100万円とも言われています。

ちなみに、京都大学病院によると、オンコプライム検査が開始された2015年4月から2016年10月までに検査を受けた人(88人)のうち、治療薬が存在する遺伝子異常が見つかった人が約8割(71人)、検査で見つかった治療法を実際に受けた人は3割弱(19人)でした。

つまり7割以上の人が治療を受けなかったということです。その理由として、「全身状態が悪化した」「参加可能な治験なし」「医療費」などが挙げられており、経済的事情によるところが大きいことが伺えます。

がんゲノム医療については、同じく4月から全国の11病院が「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定されたほか、来年度以降も他の種類の網羅的がん遺伝子検査が先進医療の適用を受けられる可能性が高いなど、がん患者にとって徐々に身近な存在になりそうです。

一方で、高額な費用負担の問題は依然として残るはすです。

患者側としては、これからは治療だけではなく検査からお金がかかる時代になってきたこと。高額あるいは先進的な医療技術が自分にとってベストな選択肢とは限らず、それを見極める眼が重要だということです。

先進医療=大別して「先進医療A」(薬機法の承認済みの技術あるいは未承認でも、人体への影響が極めて小さい技術)と、「先進医療B」(薬機法で未承認・適応外の薬剤や医療機器を使用する技術あるいは使用しない場合でも有効性などの面から重点的な観察・評価が必要な技術)に分かれている

11病院=国立がん研究センター中央病院、東病院/北海道大/東北大/慶應義塾大/東京大/名古屋大/京都大/大阪大/岡山大/九州大の各大学病院

 

今月のワンポイント 先進医療Bで行う網羅的がん遺伝子検査は、症例数の枠や受付期間が限られており、希望しても受けられない可能性があります。患者さんのゲノム医療に対する期待度の高さは相当ですが、エビデンス(科学的根拠)が十分にある標準治療が優先されることに変わりはありません。

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