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FP黒田尚子のがんとライフプラン 52
シングルマザーのがん患者への支援
厚生労働省の「ひとり親家庭等の現状について」(平成27年4月20日)によると、昭和63年から平成23年までの25年間で母子世帯は1.5倍、父子世帯は1.3倍も増えています。働き盛りのがん患者が増えているということは、その方が1人で子どもを育てている「ひとり親」である可能性もあるはずです。父子家庭の場合、子どもがまだ小さくて手がかかるなど、その両親と同居しているケースをよく見受けますが、母子家庭の場合、さまざまな事情で、ひとりで子どもを抱えている方も少なくありません。
今回は、シングルマザーのがん患者への支援について考えてみたいと思います。
母子家庭の年収は181万円と父子家庭の約半分
前掲の調査によると、ひとり親家庭の就業状況について、母子家庭の場合、就業率は80.6%(正規43%、非正規雇用57%)、平均年間就労収入は181万円(正規270万円、非正規125万円)となっています。
一方、父子家庭の場合、就業率は91.3%(正規87.1%、非正規雇用12.9%)、平均年間就労収入は360万円(正規426万円、非正規175万円)であり、就業率・収入いずれも母子家庭のほうが低い水準です。
ひとり親がすべて同じ状況であるとは思いませんが、ひとり親家庭の*相対的貧困率は54.6%にものぼり、大人が2人以上いる世帯の相対的貧困率が12.4%であることと比較すると、経済的に苦しい状況にある家庭が多いことは確かでしょう。
その上、がんに罹患したことによって、収入の減少、医療費(支出)の増加で、家計が立ち行かなくなってしまう。体調もよくない、さらに、相談したり頼ったりする相手もいない、といった自立した生活を送ることが難しいがん患者が増えているような気がします。
*相対的貧困率=国民の所得格差を表す指標で年収が全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合のこと
ひとり親になった理由によって、今後の経済的な影響は大きい
また、シングルマザーという呼び名は同じでも、経済的な観点から言えば、なぜひとり親になってしまったかという理由も重要です。
なぜなら、死別の場合、死亡保険金・退職金、預貯金、自宅など、夫の遺産を相続している可能性があるからです。さらに、18歳未満の子どもがいる場合、会社員の夫が亡くなると、遺族基礎年金および遺族厚生年金が受給できます。
例えば、亡くなった夫の給与の平均(平均標準報酬月額)30万円だった場合、残された妻と子ども2人(18歳未満)は、遺族基礎年金約160万円+遺族厚生年金約37万円=年間197万円を受け取れます。これだけで月額16万円ですから、生活の基盤となる金額です。
それに対し、離婚の場合、財産分与や慰謝料、養育費を受け取ることはできますが、実際に養育費の受取率は19.7%と期待できないのが現状のようです。
ただし、前掲の調査では、母子家庭の場合、死別が7.5%に対して、離婚が80.8%にものぼっています。さらに未婚については、死別を上回る7.8%もいることも厳しい状況を生む要因となっています。
シングルマザーが利用できる公的制度・助成制度
そこで活用したいのがシングルマザーの使える公的制度や助成制度です(図表参照)。
これらは、母子家庭限定の制度ばかりではありませんが、条件や所得制限など、それぞれ要件を満たせば利用できます。
このほか、自治体によっては、公共料金等の割引や税金の軽減、公営住宅への優先入居や家事援助や、保育など生活支援としてのヘルパー派遣、各種相談窓口の設置などさまざまなものが用意されていますので、賢く情報を収集し、利用できないか諦めずに相談してみてください。
万が一のことも考えて遺言書の作成を
シングルマザーにとっての「万が一」とは、子どもを残して自分が亡くなることでしょう。
シングルマザーである母が亡くなった場合、子どもの「親権者」は不在になってしまいます。親権者とは、子どもが成人するまで世話をしたり、教育やしつけをしたり、日常的な金銭管理や法律行為を代わって行う権利義務を持つ人のこと。
自分が亡くなった後の子どもの世話を親族や知人など信頼できる人に事前に頼んでおきたいのであれば、遺言書を作成し、未成年の子どもを保護・支援する「未成年後見人」を指定しておくことをお勧めします。
そのほうが、残された子どもや周囲も必要以上に惑わずに済みますし、自分が亡くなった後の希望を残しておけるメリットもあります。
なお、遺言書で指定していない場合は、一定の親族などの請求によって家庭裁判所が選任することになります。
今月のワンポイント シングルマザーにとって子どもは大切な存在。つい自分よりも子どものことを優先してしまう傾向が強いものですが、いずれ子どもが自立した後に、自分の老後資金が準備できていない可能性も大です。がん患者の生存率が向上している中、少額からでも早く積立などで準備を始めておくこともお忘れなく。