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がん患者は社会復帰を望む 患者が自己コントロール感を取り戻して自立するソーシャルサポートを

監修:宮内佳代子 帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室課長
発行:2005年1月
更新:2019年7月

  
宮内佳代子さん

患者のさまざまな問題や悩みの
相談に乗るソーシャルワーカー
宮内佳代子さん

社会復帰できないという不安


帝京大学医学部付属溝口病院
医療相談のご案内」パンフレットより

物流検査機関の地方事務所に勤めていた小野博文さん(41歳)が胃がんの告知を受けたのは、2000年7月のことだった。

きっかけは、前年12月に病院で受けた成人病検診。胃潰瘍と診断され、3カ月間薬を服用していたが、その後、胃がんであることが判明。ステージ2の印環細胞がんであった。

「全摘、もしくは亜全摘の手術が必要です」

医師の言葉に衝撃を受けた小野さんは、隠してどうなるものでもないと考え、会社の仲間に診断結果を告白した。話を聞いた先輩や同僚は黙り込み、数十分間、所内を重苦しい雰囲気が支配したという。

「切ってしまえば、がんは治る。早く手術でとってしまおう」

そう考えた小野さんは手術を決意。7月下旬に自宅近くの総合病院で手術を行い、2カ月間の休みをとって療養。9月下旬の職場復帰をめざした。

休職中の収入が心配だったが、勤務先の福利厚生を最大限活用すれば、なんとか乗り切れる。有給休暇なども取得し、有給のまま2カ月間の療養生活を送ることとなった。

手術後の回復は順調だった。が、ここで思わぬことが起こる。

「手術後に流動食をはじめたところ、気持ちが悪くなって動けなくなってしまったんです。胃を摘出した結果起こる、ダンピング症候群という後遺症によるものだったんです」

食事がすすまず、体力もなかなか回復しない。小野さんは「社会復帰できないのではないか」という不安に襲われたという。

だが、なんとか8月上旬に退院し、9月中旬には予定通り、職場に復帰することができた。

印環細胞がん=がん細胞の内部に粘液が産生し核が縁に押しやられる。未分化型のがんで、胃や大腸に多い
亜全摘=全摘より切除範囲の小さい手術。胃の3分の2以上を切除する
ダンピング症候群=胃の摘出により食物が一挙に小腸に流れ込みことによって起こる症状。血糖値の激変によりめまいや冷や汗などが起こる

内面で苦しんでいるがん患者

小野さんのように、社会復帰への不安を抱えるがん患者は多い。こうした悩みの相談窓口として、ソーシャルワーカーが配置されている病院も増えてきた。だが、転院相談や在宅医療といった差し迫った相談に追われがちで、サバイバルしている人たちの社会復帰のカウンセリングまでは手が回らないのが実情だ。帝京大学医学部付属溝口病院・医療相談室課長の宮内佳代子さんは、こう語る。

「米国ではオンコロジー・ソーシャルワークをする、がん専門のソーシャルワーカーが配置されています。しかし日本ではソーシャルワーカーの人数も少なく、対応は十分とはいえない。どちらかというとターミナルケアに重点が置かれ、日常生活に戻る患者さんのケアは後手に回っているのが現状です」

一見、元気そうに見えても、内面では挫折感や、通院しながらの社会生活、再発などへの不安に苦しんでいるケースが多い、と宮内さん。

「サバイバーは再発や死の不安を抱え、慢性的なストレス下に置かれています。しかも、会社で感情をオープンにすると、重要な仕事からはずされたり、役職につけなかったりという差別を受けるかもしれない。自分では大丈夫なつもりなのに、詳しく病状を説明しても理解してもらえず、逆に傷ついてしまう方もいる。外来患者さんの中にも一見元気に社会活動している患者さんがいますが、元気な姿を見せることを社会から期待され、葛藤を抱えている人も多い。ケアの必要性がわかりにくいこうした人たちを、医療スタッフがどう支えていくかが、今後の課題といえます」


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