仕事をしながら療養する
訪問看護師が訪問看護を受ける立場になって気づいたこと

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2011年6月
更新:2013年4月

  
藤田和枝さん 藤田和枝さん

藤田和枝さん(46歳)は、訪問看護師として勤務中の2007年、慢性骨髄性白血病と診断され、抗がん剤治療、骨髄移植を受けた。入院期間は10カ月。高額療養費と傷病手当金を利用した。退院後は半年間の訪問看護の在宅リハビリテーションで歩行を回復。退院13カ月後に、ケアマネジャーとして仕事に復帰した。

訪問看護師として活躍しながら、ケアマネジャーの資格も取得

藤田和枝さんは看護師である。最初は、総合病院の外科や脳外科に勤務。障害を持つ患者さんの看護や、患者さんが自宅で療養生活が送れるようにサポートする訪問看護なども経験した。24歳のとき、結婚を機に退職。1男2女の育児をしながら、開業医のパート勤務などで看護師を続けた。

2002年、社団法人の訪問看護ステーションに常勤の訪問看護師として着任した。同法人は、訪問看護ステーションを中心に、ケアプランを作成する居宅介護支援事業、福祉用具のレンタル・販売や衛生材料関係の販売などの福祉用具事業、療養通所事業などを行っている。

在宅でのリハビリテーションにも取り組み、訪問看護をしながら介護分野の勉強も始めた。05年、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を取得。訪問看護部門の主任として、多忙だが充実した毎日だった。

進行慢性骨髄性白血病と判明。緊急入院し、10カ月入院

  07年2月、会社の健康診断で異常が見つかった。白血球・血小板が多く、脾臓が大きくなっていた。翌日、近くの大学病院で検査を受け、慢性骨髄性白血病と診断された。42歳のときだ。

職場の上司のAさんにはすぐに事情を説明した。会社員の夫にはもちろん、当時、高校2年の長男、中学3年の長女、中学1年の次女にも病気のことを話した。翌日も検査に呼ばれて緊急入院した。慢性骨髄性白血病は、通常なら、数年間の慢性期を経て急性転化期になる。ところが、すでに急性転化期に進行して厳しい状態だった。

分子標的薬のグリベック()や複数の抗がん剤を用いた治療を受けた。体重は2カ月後には20キロも減り、歩けなくなった。抗がん剤治療の一時中止も提案されたが、がん細胞の勢いが強いため、治療を続けた。体力は限界に近かった。

幸い、白血病細胞が一定値以下に減り、寛解()状態になったが、最終的には骨髄移植が必要だった。妹弟の白血球の型(HLA型)を調べたが合致しないため、骨髄バンクに骨髄提供を依頼。抗がん剤を用いた地固め療法()を受けながら、骨髄移植を待った。運良く骨髄提供者(ドナー)が決定し、骨髄移植を受けた。移植後、一時的に肺炎、腎機能、肝機能の障害が起きた。帯状疱疹の治療で、神経ブロック注射を行った。

治療は何とか乗り越えられた。気がかりだったのは医療費である。入院直後、同部屋の20代の女性患者から「びっくりするほど医療費がかかる」と言われたからだ。

医療相談室で、健康保険の高額療養費()と 傷病手当金という2つの制度の説明を受けた。社団法人の健康保険組合から交付された限度額適用認定証を病院に提出したため、窓口での支払いは一定の限度額にとどめられた。傷病手当金は病気で仕事につけないときの所得保障で、給与の3分の2ほどが最長1年6カ月支給されるとの説明を受けた。担当医と勤務先の事務スタッフ、夫の協力を得て、毎月、高額療養費と傷病手当金の申請の手続きを繰り返した。

入院期間は約10カ月。窓口で支払った医療費の自己負担総額は約170万円(部屋代は除く)。妹弟のHLAの検査費、ドナーの入院費や個室代も患者負担だから、かなりの額になった。家族で加入中の民間の生命保険から日額6000円ほどの支払いがあった。助かったという。

グリベック=一般名イマチニブ
寛解=通常の検査でがん細胞の残存がほとんど認められなくなった状態
地固め療法=完全寛解後も、隠れているがん細胞をやっつけるため、引き続き治療を継続すること
高額療養費制度= 長期入院や治療が長引く場合などで医療費の自己負担額が高額となった場合に、一定の金額を超えた部分が払い戻される制度

半年間、在宅リハビリを受けた後、自らの体調と折り合いつつ復職

07年12月末に退院。自宅療養となった。

自宅では、トイレに行くのがやっとで、床に座ると立ち上がれなかった。白血球が少ないため、外に出るのが怖かった。外来通院にはタクシーを利用した。

歩くための治療の1つとして半年間、1回1時間ずつ週2回、理学療法士と訪問看護師による在宅リハビリテーションを受けた。訪問看護師が訪問看護を受ける立場になったのだ。

「歩くためには、体幹の筋肉をきちんと鍛えた後で、手足の筋肉をつけることが大切だとわかりました。6カ月間の在宅リハビリのおかげでやっと歩けるようになりました。在宅リハビリの効果を実感しました」と藤田さん。

在宅リハビリ中の08年6月、傷病手当金の支給が終わると同時に、社団法人を退職。夫の扶養家族に入った。退職後も、Aさんから励ましを受けた。「家ばかりにいるとよくないわ。週2~3日でもいいから職場に来たら」と声をかけてもらった。

10月から週2日、福祉用具の相談員として、いったん退職した社団法人に復帰した。自らの体調と折り合いをつけながらのリハビリ復帰だった。翌年には半年間、Aさんの紹介で近くの病院にケアマネジャーとして勤務。2010年3月末には、元職場の社団法人にケアマネジャーとして職場復帰した。

「職場の上司・同僚は、私の病気を理解し、受け入れてくれています。ですから、利用者さんの都合と自分の体調を考えて、たとえば今日は午後から3時間とか、自分のペースで仕事に取り組んでいます」

外来通院で定期検査を受けながら、再発予防のためにグリベックを服用。健康な人に比べて白血球数が少ないため、感染症のリスクが高い。訪問看護師への復帰を目指しているが、まだ体力は十分とはいえない。

「病気で治療を受けて、看護される身、介護される身になって、いろいろな気づきがありました。たとえば、私のように入院治療で体力が落ちて歩けなくなったときには歩行リハビリ、肺がんの患者さんなどには呼吸リハビリが有効です。現在のケアマネジャーの仕事、今後の訪問看護師の仕事に活かしていきたいと思います」と藤田さんは力強く話した。

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訪問看護
訪問看護ステーションでは、かかりつけ医の指示書をもとに訪問看護を行っています。訪問看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが自宅を訪問して、療養生活を支援するサービスです。歩行機能の回復などの在宅リハビリも含まれます。健康保険・国民健康保険で利用する場合、原則として、70歳未満は費用の3割、70歳以上は1割を負担(介護保険も1割負担)します。費用は確定申告時に医療費控除の対象になります


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