仕事をしながら療養する
生命保険見直しで、充実した医療を受けられた

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2011年2月
更新:2019年7月

  
増野恵美子さん 増野恵美子さん

増野恵美子さん(45歳)はスペイン舞踊家である。舞踊教室での指導と所属舞踊団の公演などで多忙だった43歳のとき、乳がんと診断された。その数年前、民間の生命保険を見直して、手術・入院・通院などの給付金を充実させていたおかげで、医療費はカバーできた。教室は休まずに運営し半年後、舞台公演に復帰した。

金沢に教室を開く直前に、乳がんを告知された

増野さんは、幼少よりバレエを学び、フラメンコの魅力にひかれて、29歳でスペインに留学。第1線で活躍するスペイン舞踊家4人に師事し、約6年間、クラシコ・エスパニョール(スペイン古典舞踊)と、民族舞踊の1つであるフラメンコのレッスン、スペイン語の習得に励んだ。

2001年に帰国。日本のスペイン舞踊の草分けである「小松原庸子スペイン舞踊団」に所属し、数多くの海外公演、国内公演に参加。舞踊団のカルチャースクール講師としても北陸を中心に活動。ブームに乗って生徒数も増加し、週末は、特急列車やバスを乗り継いで、小松、富山、高岡、金沢の教室で講師を務め、飛行機で千葉に帰宅するというハードスケジュールをこなした。04年「ラス・フローレス増野恵美子スペイン舞踊研究所」のフラメンコ教室を地元の千葉に開設し、指導を始めた。

06年、41歳のとき、左の胸の上に小指の先ほどのしこりを見つけた。近くの病院で胸のエコー(超音波)検査や細胞診をした結果、乳がんではなく、脂肪のかたまりと診断された。医師から「3カ月後にもう1度来てください」と言われたが、仕事に追われて行きそびれた。

スペイン舞踊のブームは去りつつあった。08年、舞踊団は北陸でのカルチャースクールからの撤退を決めた。このとき、金沢の教室の生徒たちが「レッスンを続けたい」と申し出た。舞踊団側も後押ししてくれた。金沢で自分の教室の立ち上げに奔走中、左胸のしこりが大きくなっていることに気付いた。

08年9月、早期の乳がんと診断された。43歳のときだ。担当医は、乳がんの専門医ではなかったため、友人・知人に相談して、神奈川県の乳がん専門の外科医に手術を申し込んだ。告知されたとき、舞踊団の地方公演が9月中旬に、東京公演が10月に入っていた。手術日予定日は11月初め。手術日の前に金沢の教室のスタジオが決まり、以前とほぼ同じ日程で続けられることになった。「手術後、もし体力が戻らなかったら、金沢の教室の運営は後輩に譲ろう」と覚悟して、手術に臨んだ。生徒には手術のことは伝えなかった。

医療費を上回る額が一括して支払われた

乳房温存手術は成功した。リンパ節転移はなかった。傷口は5~6センチで手術の翌日から歩けた。食事もできた。左手も上がった。入院期間は10日間。体重は5キロほど減ったが、退院3日目から教室に立った。

退院1カ月後から、家の近くにオープンしたばかりの病院で、術後の放射線治療を始めた。その病院は、増野さんの仕事の日程に合わせて治療計画を立ててくれた。そのため、約1カ月間の治療中、千葉と金沢の教室は1度も休むことなく続けられた。しかし、走ったり、踊ったりするのは無理で、舞踊団の公演活動は休むことにした。

放射線治療後はホルモン療法を受けた。最初は頭が痛かった。風邪をひきやすく、お腹の調子が悪く、ほてりなどもあった。生理も止まった。それでも、舞台復帰を目指して練習を重ねた。徐々に体力は戻り、09年5月、半年ぶりに舞台復帰。東京近郊で行われた舞踊団の公演で踊った。

自由業なので、国民健康保険と国民年金に加入していた。手術費用や入院費用、手術後の放射線治療やホルモン療法などの治療費はかなりの金額になる。幸い、20歳ころに加入した民間の生命保険が役立った。乳がん告知の数年前、生命保険の契約内容を見直した。月額の保険料と死亡保障額を低くして、手術給付金や入院給付金、通院給付金を手厚くしたことが結果的によかった。

「生命保険の支払いの手続きは多少面倒でしたが、手術給付金や入院給付金などはすべて契約した最高額が支払われました。そのため、乳がんの手術費、入院費、放射線治療、ホルモン療法などの医療費を上回る額が一括して支払われました。生命保険の見直しをしていなかったら大変でした。とてもラッキーでした」

放射線治療中は、副作用と再発の予防のため、ビタミンC点滴を週1~2回とサプリメントの飲用を続けた。ニンジン、レモン、リンゴのジュースを毎日コップ3杯飲んだ。ビタミンC点滴は保険外治療で1回2万円ほどかかったが、生命保険の給付金の一括払いで支払えた。

1人でも多くの生徒にフラメンコの魅力を伝えたい

09年の末、教室の生徒に乳がんのことを話した。生徒たちは「全くわからなかった」と言って驚いた。生徒の年齢層は20代から60代まで幅広い。生徒の1人も「私もがんになりました」と打ち明けた。早期の胃がんで、簡単な手術をしたあと、すぐにレッスンに復帰した。

10年の夏、千葉の教室の生徒は、地元で3回目の発表会を行った。スペイン人の舞踊家をゲストに招いて一緒に踊った。同年の秋、金沢の教室の生徒も、市内の劇場で初めての発表会をした。

「フラメンコは両手を動かして、手の指でカスタネットをたたき、両足を踏みながら踊ります。舞台では照明を浴びながら、ギターと歌の生演奏をバックに踊ります。踊ったあとは気分爽快です。がん体験をした生徒さんも舞台に立ち、見事に踊りました」

手術後の経過は順調で、11年2月にはホルモン療法も終わる。

増野さんの舞踊生活は40年になる。「これからは、自分の舞台公演は控えめに、フラメンコ教室での生徒のレッスンを中心にした仕事をしていきたい。そして、1人でも多くの生徒に、フラメンコの魅力、舞台のすばらしさを伝えたい」と増野さん。6年間のスペイン留学で鍛えたスペイン舞踊家の第2幕は、始まったばかりである。

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生命保険の見直し
収入や家族構成、年齢などの変化によって、必要な生命保険の内容、保険料の見直しを迫られることがあります。保険料を減らしつつ、手術代や入院費の確保に備える見直しも考えられます。保険見直しの相談を行う保険会社もありますので、加入中の生命保険を最大限に活用できるように工夫してください


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