仕事をしながら療養する
高額療養費還付制度で薬代の負担を軽減し仕事に取り組む

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2010年2月
更新:2013年4月

  
田村英人さん 田村英人さん

田村英人さん(59歳)は、コンピュータソフト開発会社勤務中の53歳のとき、慢性骨髄性白血病(CML)と診断された。分子標的薬のグリベック(一般名イマチニブ)の服用で救われた。55歳で退職。その1年後に保険代理店を開業。高額療養費還付制度を活用することで薬代を軽減できる3カ月処方を受けながら、新たな仕事に取り組んでいる。

生涯服用し続けなければいけない28日分の薬代は10万5100円

大学卒業後、電線ケーブルメーカーに入社。30歳過ぎに、大手電機メーカー関連のコンピュータソフト開発会社に転職。社員数は、160人ほど。社員20人を束ねてソフト開発の仕事などで実績をあげたあと、管理本部でさまざまな管理業務を行った。

03年4月、年1回の人間ドックで、「白血球が多くなっています。再検査しましょう」と言われた。「年のせいかな」と思った。

会社に休暇を願い出て、大学病院の血液内科で骨髄検査を受けた。03年5月、検査した細胞20個のうち19個にフィラデルフィア染色体が確認され、慢性骨髄性白血病と診断された。53歳のときだ。何がなんだかわからなかった。家庭の医学などで調べた。

役員に、診断結果を話した。そして、「通院する時間がほしい」と願い出た。役員からは、「まずは治療に専念して、体調管理をしてください」と言われた。会社には、半日休暇制度があった。この制度を利用した。

最初は、2週間に1回のペースで外来通院した。午前中に病院の外来を受診し、そのあと出社した。その後、外来通院は月1回ペースになった。さらに、治療を始めて1年後には2カ月に1回ペースになった。

03年6月10日から、グリべックを毎朝4錠ずつ飲み始めた。1カ月後、血液学的寛解に入った。2カ月半後にはフィラデルフィア染色体が0になり、細胞遺伝学的効果が得られた。さらに、12カ月後には分子遺伝学的寛解が確認された。幸い、よく効いた。しかし、治癒には至らない。生涯、服用し続けなければいけない。足のふくらはぎの筋肉のつり(こむらがえり)や、むくみ、倦怠感、皮膚の色が白くなるなどの副作用が起きたが、何とか耐えて、治療を続ける。グリベックの薬代は、かなり高い。1錠3128円(薬価)。通常、毎朝4錠服用するから薬代は1日1万2512円。健康保険適用で自己負担は3割だが、28日分の薬代は10万5100円。高額療養費制度が適用される。高額療養費の自己負担限度額は、通常、一般8万0100円だが、「年間4回以上」の高額医療費の多数回該当になると、4回目からの自己負担限度額は4万4400円に変更される。3カ月分まとめて処方してもらうと服用開始から4回目以降の自己負担限度額は4万4400円となり、長期服用の患者は薬代を軽減することができる。田村さんは当初、2カ月に1回外来通院、2カ月処方にしていた。

「毎月処方なら薬局の窓口で支払う額は年間53万2800円になりますが、2カ月処方では年間26万6400円に減らせました。2カ月処方でも、助かりました」 現在は処方だけ3カ月としている。

外来通院は半日休暇を申し出て、なるべく残業をしないようにした

勤務内容は、ほとんど変わらなかった。

外来通院のときは、会社に半日休暇を申し出た。なるべく残業をしないようにした。やるべき仕事は、勤務時間内に終えるように心がけた。社内には、急性骨髄性白血病で長期間休職中の社員がいた。そのため、田村さんも同様のイメージで受け止められていたようだ。「気分の落ち込むこともありました。出勤するのがつらくなり、やむなく欠勤した日も数日ありました」と言う。

病気になってから、「残された時間を大切にしたい」という気持ちが強くなった。中学・高校時代、ブラスバンド部に所属して、サックスを吹いていた。サラリーマンになってからずっと、「いつかサックスをやりたい」と思い続けてきた。病気になって半年後、サックスを吹き始めた。サックスを吹いて、その音色を聴いていると気分が落ち着いた。子供も社会人になった。「ここで息抜きをしてもよいかな」と思い始めた。

早期退職制度を利用して55歳で退職。外資系保険会社代理店を

慢性骨髄性白血病と診断されて2年後、55歳のときに退職。会社の早期退職制度を利用した。自己都合で退職する場合、55歳未満なら退職金は減額されるが55歳以降60歳までなら定年扱いの退職金を貸与するという制度である。退職後、公共職業安定所の窓口で雇用保険の基本手当の支給の手続きをした。20年以上勤務してきたから150日分支給された。就職先を探しながら、退職金と妻のパートタイムで生活した。

06年6月、ある外資系の保険会社代理店の募集広告が目にとまった。興味を抱いた。

慢性骨髄性白血病と診断されたとき、民間保険に加入中だったが、入院しなければ支給されない古い設計の保険だった。また、父親が前立腺がんで治療中に、民間保険に加入していなかったため、活用できなかった。残念な思いがあった。「少しでも保険の勉強ができれば」と考えて、代理店に応募した。研修を経て、06年10月に代理店登録した。妻も、快く応援してくれた。営業経験は、まったくなかった。個別訪問をして断られて、何度も落ち込んだが、「人生イコール経験。いろいろな経験ができておもしろい」と思うようになった。

07年10月、患者仲間と一緒に、慢性骨髄性白血病患者会発足のための準備会を立ち上げた。同年12月、慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」を設立した。慢性骨髄性白血病患者は、入院治療をすることがあまりないため、患者同士での情報交換の機会が少ない。患者会を探してみたが、慢性骨髄性白血病のみの患者会はなかった。そこで、血液がん支援組織の応援を得て、慢性骨髄性白血病患者と家族が話し合い、支え合い、楽しみながら「いきいき生きよう」をモットーに活動を始めた。

「こんこんと湧き出る“いずみ”のように知恵を出し合って、生きる力を育んでいきたい」と言う。

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3カ月処方
高額療養費制度とは、同一月内に病院などの窓口で支払う一部負担金(薬剤含む)の額が自己負担限度額を超えたときに、その超えた金額が払い戻される制度です。自己負担限度額は、70歳未満と70歳以上75歳未満という年齢、所得、世帯合算などで異なります。12カ月の間に4回以上高額療養費多数該当になると、4回目から自己負担限度額が下がります。そのため、長期服用の患者さんは3カ月分をまとめて処方してもらうことで、自己負担額を軽減することができます(但し、全ての薬が対象となるわけではありません)

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