仕事をしながら療養する
入院・療養期間は、年次有給と夏休み休暇、余剰休暇で乗り切った

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2009年6月
更新:2019年7月

  
鈴木良造さん 「アルファ・クラブに入会し、
情報を得た」と言う
鈴木良造さん

鈴木良造さん(65歳)は、会社の継続雇用制度を利用して働き続けていた62歳のとき胃がんの全摘手術を受けた。入院期間の49日間と、退院後の療養期間は、年次有給休暇と夏休み休暇、会社独自の余剰休暇で乗り切った。しかし、リハビリ中に頸椎疾患に見舞われて、やむなく退職。現在、ボランティア活動を目指している。

現場が変わった61歳のとき、みぞおちの痛みに気付く

鈴木さんは、物流関連の大手企業に就職した。社員数は、正社員50名、派遣・パート50名ほど。首都圏内の事業所に転勤しながら、働き続けた。仕事の内容はさまざまで、すべての仕事に几帳面さが求められた。

会社の定年(当時)は55歳だったが、本人の希望で、働き続けることができた。

55歳から60歳までの給料は、それまでの給料の33パーセントほどが減額となった。60歳から65歳までは、同社の嘱託として、1年契約で働けた。会社は、60歳以上の社員が働き続けられるように、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付、給与を組み合わせた賃金制度を導入していた。

社員が60歳になると、在職老齢年金が支給される。会社から支払われる給与は、60歳前に比べて少なくなる。しかし、在職老齢年金と、雇用保険法の高年齢雇用継続給付が支給されるため、社員のトータルの手取額は、60歳前とほとんど変わらない。会社にとっては、人件費の大きな負担減になるため、60歳以上の社員を継続雇用する利点がある。60歳以上で働き続けたい社員と、60歳以上の社員を雇用する会社の両方にメリットをもたらす制度である。

「会社の継続雇用制度を利用して、できるだけ長く、65歳までは会社で働き続けたいと思いました」(鈴木さん)

55歳から60歳まで、仕事の内容はほとんど変わりなかった。収入は多少減ったが、生活はできた。

2004年、鈴木さんは60歳になった。在職老齢年金が支給されるようになった。会社と嘱託契約して働き続けた。健康保険と雇用保険に加入し、高年齢雇用継続給付の支給も受けた。仕事の内容は、それまでとほとんど同じだったから、マイペースで仕事ができたという。

61歳になって、現場が変わった。通勤時間が、片道30分から片道2時間と長くなった。仕事の内容も、ガラリと変わった。慣れない仕事をした初日に、両手が痛くなった。現場のスタッフは、派遣スタッフや、パートタイマーなどさまざまな雇用形態で、年齢も20代から60代までと幅広かった。しばらくして、みぞおちの痛みに気付いた。

このときは薬局の胃薬で痛みを抑えて、仕事を続けた。

胃がんと告げられ、2007年に全摘手術

翌年の07年2月、62歳のときに再び、みぞおちのあたりが広範囲にわたって痛むようになった。

「これは、普通の状態ではないと思いました。体重が、1年で3キロも減少していたことも気になりました。病院で胃の内視鏡検査を受けたところ、胃がんと告げられました」(鈴木さん)

担当の医師と家族と相談して、検査をした病院で手術を受けることにした。会社に連絡をして、休暇を申し出た。会社の事務担当者に相談して、入院期間と療養中は、年次有給休暇20日間と夏休み休暇5日間、会社独自の余剰休暇を利用することにした。

余剰休暇制度とは、利用しなかった年次有給休暇を積み重ねた休暇で、病気などのときに使える制度である。鈴木さんは、300日あった。

「休暇中の給料は、全額支払われるとのことでした。入院費は、高額療養費制度を利用できるとのことで、安心しました。しっかりと治療を受けて、ゆっくりと療養してから、継続雇用制度を利用して、職場復帰をしようと考えました」(鈴木さん)

鈴木さんは07年3月2日に、入院。

3月28日、全摘手術を受けた。手術後は、食事のあとのダンピング症候群に悩まされた。ひと口食べただけで、しゃっくりが出て、苦しい思いをした。入院中、看護師さんから胃の手術を受けた人の患者団体アルファ・クラブを紹介されて入会し、同会からたくさん情報を得ることができた。退院を前に、食べ方などの栄養指導を受けた。同年4月19日、無事に退院。入院期間は、49日間だった。

「元気になったら、アルファ・クラブの集まりに参加したい」

退院後、自宅でしばらく療養した。毎日3食の食事メニューを、ノートに記録した。トイレの回数と時刻、便の状態、体重も記述した。仕事で体得した几帳面さが、非常に役立った。手術前は平気だった牛乳や脂肪の摂取で、下痢をすることがあった。早食いや、硬いものを食べたときに、ダンピング症候群が起きた。異変があるときは、ノートを見て、食べたものを確認して、自分に合った食事法を身につけた。

「ホウレンソウや小松菜などの野菜はダンピング症候群を招くので、口の中で味わったあと、繊維質は出すようにしました。水分が多いと下痢になり、水分が少ないと便秘を起こします。そこで、栄養補給も考えて、野菜ジュースを中心に適度な水分摂取を心がけました」(鈴木さん)

職場復帰に向けて、リハビリは順調だった。

ところが、療養中の07年6月10日の朝、散歩中に転倒した。整形外科で頸椎後縦靱帯骨化症と診断され、同年8月に手術。入院期間は1カ月ほど。2つの手術後だけに、職場復帰まではかなり時間がかかると考えて、同年9月末に退職した。

現在、鈴木さんは、年金で暮らす。毎日午前10時と午後3時の2回、近くの公園で1時間ずつ、1日合計2時間、9000歩ほど、杖を使いながら歩く。

「もう少し元気になったら、アルファ・クラブの会員の集まりに参加したい。できれば、ボランティア活動や、仕事ができればと思います」(鈴木さん)

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高年齢雇用継続給付
60歳に到達した時点に比べて、賃金が75パーセント未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者の方に支給される給付です。65歳までの雇用の継続を援助し、促進することを目的としています。60歳に達したときに、被保険者期間が5年以上であるなど、一定の要件が必要です


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