仕事をしながら療養する
働ける喜びを強く感じる。患者会の仲間たちとの温泉旅行が新しい楽しみ

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2008年2月
更新:2013年4月

  
尾崎ミエ子さん 48歳で乳がんになった
尾崎ミエ子さん

接客業をしていた尾崎ミエ子(現在50歳)さんは、48歳のとき、乳がんを告知された。会社を2カ月間休養し、2回の手術を受けた。健康保険の高額療養費や傷病手当金、民間のがん保険を利用して、医療費や生活費の工面をした。職場復帰後は、会社と同僚の協力を得て、体調に合わせて、勤務時間を調整。現在、手術前と同様、多忙な仕事をこなしている。

健康診断で選択したマンモグラフィ検診で乳がんがみつかった

尾崎さんは、4年前、大手販売会社に入社した。仕事の内容は接客業で、仕事は多忙だったが、充実していた。

05年5月、会社の健康診断を受けた。たまたま選択したマンモグラフィ検診で「左乳房の乳首の裏に石灰化が見られます。精密検査が必要です」と言われた。

1週間後に、検査を受けた病院で、エコー検査や生検などを受けた。その検査の結果、乳がんと診断された。担当医から「ステージ1です。早めに手術をしたほうがよいと思います。いつ頃、入院されますか」と聞かれた。

尾崎さんは「まさか」という驚きでいっぱいだった。がん告知を受けた瞬間、抗がん剤治療で髪の毛が抜けてしまう自分の姿が思い浮かんだ。

「お客様と接する仕事ですから、髪の毛が抜けたら大変です。しばらく休んで職場復帰したときに、お客様や同僚から『どうしたの?』と言われるのは嫌ですし、つらいです。病気のことをあらかじめ言っておかないと、同僚にも大変迷惑をかけてしまうので、最初から病名を知らせようと思いました」(尾崎さん)

尾崎さんは、上司に相談した。診断書を提出し、口頭で休みを申し込んだ。

手術日は、がん告知を受けてから1カ月後に決まった。会社の休業期間は1カ月間を予定した。上司は、スタッフのスケジュールの調整をしてくれた。同僚にも乳がんのことを正直に話した。同僚は「休みをとることは気にしなくてもいいよ。治療に専念してね」と言ってくれ、協力的だった。

健康保険の高額療養費と傷病手当金は、会社がサポート

手術を前に、もう1つ気がかりだったのは入院費用だった。治療費がいくらかかるのか、加入中の健康保険からどんな公的なサポートが得られるかも気になった。

そこで、病院の窓口で聞いた。上司を通じて会社の担当者に相談し、職場の同僚にも尋ねた。民間のがん保険に加入中だったが、給付金が支払われるかのどうかわからないため、保険会社の担当者にも問い合わせた。

「自分なりに情報を集めた結果、医療費は健康保険の高額療養費を受けられます。療養のために仕事を休んで給料が受けられない期間は、傷病手当金が支給されることもわかりました。民間のがん保険もステージ1なら支払われるとのご返事もいただけました。いくつかの制度を利用すれば、医療費や休業中の生活保障は何とか工面できると思いました」(尾崎さん)

健康保険の高額療養費と傷病手当金は、会社の事務担当がサポートしてくれた。民間のがん保険は、自分で手続きをした。

05年7月5日に、乳房温存術による手術を受けた。手術は無事に終わり、入院期間は1週間だった。ところが、退院後最初の検診で、担当医から「術後の検査の結果、もう1回、手術をする必要があります。今度は全摘手術をします」と言われた。職場復帰の予定日を急いで変更しなければならなかった。尾崎さんは、「術後の検査の結果、もう1度手術をしなくてはいけなくなったので、休みの延長を」と上司に申し出た。

上司は、すぐに対応してくれた。休業期間を1カ月から2カ月に延長してくれた。同僚は、メールで温かい励ましを続けてくれた。

2カ月間の休養後、大きな副作用もなく職場復帰

2カ月間の休養後、尾崎さんは、職場復帰した。月1回ペースで外来に通院し、ホルモン治療を受けながら働き続けることになった。

「手術後、どの程度、体力が落ちているのかわかりませんでした。そこで、復帰後3カ月間は、勤務時間を午後2時から午後9時にしていただきました。幸い、ホルモン治療による大きな副作用はありませんでしたが、しばしば、更年期障害の症状のホットフラッシュとかイライラが出たりします。病気前にはなかったのですが、本当に些細なことでイライラしてしまいます。お客様には失礼とはわかっていても、どうにも抑えがきかないことがあります」(尾崎さん)

職場復帰後4カ月目からは、手術前とほぼ同じ働き方に変えた。ホルモン治療の副作用への対処と、体力にある程度の自信がついたからだ。月1回の通院は、休日を利用した。1カ月前に会社に休日の希望日を申し出て、スケジュールを組んでもらった。会社や職場の同僚のおかげで、仕事をしながら治療を続けている。

患者会の仲間たちとの温泉旅行という新しい楽しみ

尾崎さんは、もともと温泉好きだった。しかし、手術後は会社の旅行でも温泉に入る勇気がなかった。

書籍などで「1・2の3で温泉に入る会」という患者会を知り、入会した。06年の初夏、患者会の仲間たちと千葉県の温泉に出かけて、念願の「温泉デビュー」を果たした。さらに、06年秋は山形の温泉へ、07年11月には九州の温泉に出かけた。患者会の仲間たちとの温泉旅行という新しい楽しみを得た。

「私は、いま、働き続けられる喜びを強く感じています。仕事に打ち込んでいると気分も晴れて、日常生活に張りが出ます。幸い、職場の同僚にも恵まれて、特別扱いされることもありません。もし、仕事もなく、自宅にこもっていたら不安が増すだけですから……。そして、ときどき、患者会の仲間と、温泉に行きます。仲間と一緒に1・2の3でザブンと入るともう気分爽快です」

尾崎さんの顔からにこやかな笑みがこぼれた。

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高額療養費
病院等に入院したり、治療が長引くと、医療費の自己負担額が高額になります。そうしたときに、負担を軽減できるように、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される制度です。07年4月から高額療養費の先取り制度も始まりました。入院前に「健康保険限度額適用認定申請書」を保険者に提出し、交付された認定証を病院の窓口に出すと、請求される医療費は高額療養費分を除いた額になります。


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