仕事をしながら療養する
胃がん摘出後元気に退院。外科医として元通りの日々を過ごす

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2007年10月
更新:2019年7月

  
小西敏郎さん 小西敏郎さん

NTT東日本関東病院副院長・外科部長の小西敏郎さんは、2007年1月4日、人間ドックで胃に異常が見つかった。早期胃がんと診断され、同病院に入院。内視鏡的粘膜切除術を受けた。クリティカルパス(入院診療計画書)をもとに、予定していた手術や外来担当日を調整し、手術後7日目に、計画通り現場復帰した。

胃カメラ検査で早期胃がんが見つかった

小西さんは、外科医として、胃がん、食道がん、大腸がんなどの手術を得意とし、年間110例ほどの手術を執刀している。とくに、胃がん手術は、これまでに1200例を超える実績を持つ。手術時間は短く、出血は少なく、術後の合併症も少なくをめざして、丁寧な手術に取り組んできた。1997年、小西さんのリーダーシップのもと、他の病院に先駆けて、胃がん手術にクリティカルパスを導入し、入院期間の短縮、入院治療費軽減に努力してきた。最先端医療の現場を走り続けてきた外科医である。

07年1月4日、小西さんは、「御用始めだから空いているに違いない」との理由で、勤務先の人間ドックの胃カメラ検査を受けた。そのとき、早期の胃がんが見つかり、1月9日の夜、確定診断がついた。その夜、妻に告白した。内視鏡ポラロイド写真を見せながら、「まったく心配のない小さな早期がんで、内視鏡で上手く切除できれば手術の必要はなく、完全に治る胃がんである」ことをわかりやすく説明し、納得してもらった。また、夫婦で話し合って、受験勉強中の息子に悪影響を与えないようにした。そして、勤務先の病院と消化器内科医師に相談して、手術日程を決めた。

クリティカルパスが不安を解消

入院期間は1月22日(月)から1週間となった。病院から早期胃がんの内視鏡的粘膜切除術に関する医療者用クリティカルパスと、患者用クリティカルパスを手に入れた。小西さんは、自らのクリティカルパスを見ながら、入院前と入院中、入院後のスケジュール調整を始めた。

入院前の1月18日には大腸がんの執刀を控えていた。入院中は、週3日の外来担当と手術予定が1件あった。手術前の大腸がんの手術は予定通りに執刀し、無事に終えることができた。入院中の外来と手術は、外科の医局のスタッフが替わりに行うようにスケジュール調整をした。

また、入院前は、副院長として、新年会が多数あった。6つの新年会は欠席した。4つの新年会には笑顔で出席したが、胃がんについては誰にも言わなかった。ウーロン茶だけで新年の抱負を語り、一滴の酒も口にしなかった。アルコールで胃粘膜を傷つけて、がんが深くなることを心配しての配慮だった。

「患者さんの立場になって、改めてクリティカルパスのよさがわかりました。とくに、患者さん用はカラー印刷で、イラスト入りなので、非常に見やすくなっています。入院費用もクリティカルパスをもとに、外来の窓口で、簡単に試算できます。クリティカルパスは、入院に伴うさまざまな不安を解消してくれました」と小西さんは言う。

入院直前の2日間は、ゴルフのフォーム改造に集中した。プロゴルファーからラウンドレッスンで学んだポイントを復習しながら連日200球打ち込んで、士気を鼓舞した。入院前日には、受験勉強中の息子の邪魔にならぬよう、パジャマやガウンなどを病院の副院長室にこっそりと運び込んだ。

内視鏡的粘膜切除術で胃がんを切除

1月22日(月)、普段の通勤スタイルで出勤し、11階の特別病棟の病室に入院した。たまたま空いていたバス、トイレ、パントリー付きの広々とした病室を使用した。入院した日の午後、胃カメラで内視鏡的に微小胃がんを切除した。静脈注射で眠っていたため、40分ほどの内視鏡的粘膜切除術はまったく苦痛なく、知らないうちに終了した。術後1日間だけは食事ストップによる空腹感がつらかったが、嘔吐や出血症状はまったくなく、術後2日目の昼からは流動食が食べられた。そして、流動食から三分粥に移った24日の夜、病室を訪れた主治医から切除標本の病理結果が伝えられた。

「大きさはわずか4ミリの小さくて浅い分化型早期がんでした。リンパ管浸潤や脈管浸潤もなく、取り残しはありません。今回の内視鏡的粘膜切除術で99.9パーセントは治ります」。その言葉を聞いた瞬間、小西さんは、勝利感と歓喜のあまり、思わず主治医とガッチリと握手をした。

体重は手術前の62キログラムから59.4キログラムに減ったが、術後3日目には、ほぼ普通の生活に戻れた。親切な看護師による検温と、栄養士から説明を受けながら食事をとった。しばしば11階の病室を抜け出して3階の副院長室に入って、普段通りに、パソコンに向かって仕事もした。入院中の4日目には外来診察業務も、通常通り行った。そして、クリティカルパスのとおり、術後7日目の1月29日(月)退院した。

現場復帰で多忙な毎日。定期検診を欠かさずに

「電動カーテンつきの病室で、毎朝、シーツやバスタオルなどが交換されました。ホテル並み、いやホテル以上の快適さでした。数年前までは、早期胃がんといえども手術で胃を切除するのが通常でした。私は、外科医として、胃を切って、切りまくってきました。ところが、偶然8カ月間隔で受けた胃カメラ検査で、浅い小さな早期胃がんが見つかって、手術ではなく、内視鏡治療で治すことができました。世界の最先端をリードするわが国の胃がん治療の進歩のおかげで、再び外科医の世界へ戻ることができました。本当にラッキーな外科医だと思っています」(小西さん)

小西さんは、退院した日に食道がんの手術を執刀した。外科医としていつものように手術を終えてから、元気に退院した。その2日後の水曜日には大腸がんの手術も執刀した。その後も年間の手術ペースは変わらない。週3回の外来担当もこなす。手術前とまったく変わらない多忙な毎日を送っている。「これからは外科医につきものの暴飲暴食の食生活や不規則な生活リズムをあらためて、きちんと定期的に検診を受けてゆくつもりです」と小西さん。

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クリティカルパス
入院後の治療経過の予定表です。NTT東日本関東病院では、外来で患者さん用のクリティカルパスが手渡されます。同病院外来の窓口では、クリティカルパスをもとに、無料で入院費用の試算もしてくれます。入院前に、患者さん自身で予定が立てられるメリットがあります。退院後に仕事を続けるためにも、大変役立ちます。


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