仕事をしながら療養する
医療費を捻出するため高額療養費や傷病手当金等あらゆる制度を利用

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2005年3月
更新:2013年4月

  

東京肝臓友の会の事務局長
を務める天野秀雄さん


天野秀雄さん(現在、56歳)は、20~30歳代、仕事熱心なモーレツ社員だった。企画・設計・調整・営業担当のシステムエンジニアとして全国各地を飛び回っていた。89年、41歳のとき、C型ウイルス肝炎と診断された。しかし、症状はまったくなく、気にもせず、多忙な日々を送っていた。ところが、92年2月、43歳のときに突然、会社で吐血してA病院に緊急入院。肝硬変による食道静脈瘤破裂だった。救急処置で命拾いし、食道離断術などの手術を受けた。約2カ月間入院し、一旦、退院したが肝性脳症を発症し、肝臓専門医のいるB病院に再入院。71日間の入院生活を送った。

退院後、会社を休職し、1カ月に1度、外来通院。会社は復帰を期待し、92年10月までは給料を満額払ってくれた。しかし、その後、給料は半額になった。幸い、加入中の生命保険(毎月1万5000円の支払い)から入院給付金(1日5000円)と手術給付金(40万円)が支払われ、健康保険の高額療養費、東京都特定疾患医療費助成(医療費の自己負担分を都が負担。02年9月廃止)も受けられたため、治療費の負担はほとんどなかった。しかし、働き盛りで学齢期の2人の子供を抱えていた。生活を考えると不安だった。1日でも早く職場復帰をしたかった。そんなとき、天野さんは主治医の肝臓専門医から「3年間我慢しなさい。3年すれば海外旅行にも行けるし、ゴルフもできるようになります」と言われて、退職を決意した。

傷病手当金・障害厚生年金を受給する

92年12月末退職。療養生活に入った。「主治医の言葉が心に響きました。仕事は好きでしたが、療養に専念すべきと判断しました」と天野さん。それまで専業主婦だった妻は薬剤師の資格を生かして薬局に勤務して家計を支えた。天野さんは傷病手当金(健康保険法の保険給付で、給料の60パーセントほどが支給される)を申請し、退職してから1年6カ月間支給を受けた。妻の給料と天野さんに支給される傷病手当金で、何とか家計をやりくりすることができた。傷病手当金が支給されなくなった後は、障害厚生年金の支給を申請し、支給を受けている。

療養生活に専念してから天野さんの体力は徐々に回復した。94年、肝硬変に対するインターフェロン治療の治験を受けた。そして、95年5月、2年半前に退職した職場へ非常勤社員で復職。週3日の勤務を始めた。給料は以前の半分ほどだった。職場復帰はしたものの、天野さんは以前とは違う自分を感じた。「思い通りに仕事ができず、満足できませんでした」と天野さん。

さらに、職場復帰後しばらくしてからB病院の超音波検査で「2センチの肝がんが1つ見つかった」と主治医から言われた。96年、食道静脈瘤破裂から4年後だった。「ついに来るべきものが来たかという思いでした。しかし、まさか、こんなに早く発症するとは思いませんでした」(天野さん)。B病院に52日間入院してエタノール注入療法を受けた。退院後、再び、非常勤で職場復帰した。しかし、会社の景気はあまりよくなかった。「自分らしい仕事がさらにできにくくなり、中途半端な感じがしました」と天野さん。結局、98年8月、非常勤で3年間勤めた会社を退職した。

患者会の事務局長として手腕をふるう

その後、天野さんは「東京肝臓友の会」の事務局でボランティアとして活動を始めた。実は、天野さんは94年に友の会に入会。96年6月からは事務局次長として、時間をやりくりして、活動に取り組んできた。そして、退職後は、友の会の活動に専念することにした。「文書作りなどのデスクワークなら続けられます。規則正しい生活が送れて、体調と相談しながら自分のリズムで仕事ができます。会の活動なら続けていけると思いました」と天野さん。

01年6月からは事務局長として活動している。非常勤で会社勤務をしていたときよりも収入は減ったが、友の会の活動を通して、使命感と生きがいを得た。天野さんの生活は、主に障害厚生年金の支給と薬局で働く薬剤師の妻の収入で維持してきた。肝がんはやっかいな病気だ。がんの芽が次々と成長し、それを1つ治療するとまた次のがんが見つかる。

天野さんは96年に肝がんを発症。これまでに4回、エタノール注入療法、ラジオ波熱凝固療法、凍結融解壊死療法など最先端の治療を受けてきた。また、3回のインターフェロン治療(内1回は自費で200万円)も受けてきた。13回入院し、入院日数は合計435日に及ぶ。435日はすべて生命保険会社の入院給付金(限度日数720日)でカバーした。経済面では退職後の1年半は傷病手当金、その後は障害厚生年金で生活を維持してきた。

「私は肝がんの最先端の治療を受けて、生きてきました。また、経済的には妻に助けてもらいながら、医療費の捻出と生活を維持するためにあらゆる制度を利用してきました。C型肝炎、肝がんは怖いが、早く診断して適切な治療をすれば命は助かる病気です。2人の子供もすでに独立し、金銭的にも精神的にも楽になりました。あとは自分の病気と闘うだけです」と天野さんは語る。

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障害厚生年金
障害者の所得を保障する制度として「障害年金」給付があります。この障害年金の受給者は全国で約170万人と言われています。障害厚生年金に加入中に、がんなどの病気やけがで定められた基準以上の障害の状態になり、一定の要件を満たすと障害厚生年金(1級~3級)が支給されます。国民年金に加入中に障害の状態になり、一定の要件を満たすと障害基礎年金(1級~2級)が支給されます。受給できる要件を満たしているにもかかわらず、請求をしていない場合も少なくないようです。

東京肝臓友の会

都内各地の肝臓病患者やキャリアがお互いに励まし、助け合いながら病気とつき合っていくために結成された患者会。正しい知識と治療法についての学習会や体験交流会、電話相談などを行っている。
〒161-0033 東京都新宿区下落合3-6-21-201    電話:03-5982-2150    FAX:03-5982-2151
URL:http://www.tokankai.com


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