仕事をしながら療養する
高額な料金がかかる入院・手術費用も「がん保険」加入で安心できる

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2004年12月
更新:2013年4月

  

民間の「がん保険」加入で乳がん治療
を乗り切った生田いさ子さん


生田いさ子さん(57)はご主人が社長(3代目)を務める医薬品メーカー(東京都、従業員10人)で総務・経理の仕事を続けてきた。勤務形態はパートタイマーで、健康保険法上は被扶養者(医療費の3割負担)、年金は夫の収入で生計を維持する被扶養配偶者(国民年金法の第3号被保険者。年金保険料の支払いなし)だった。会社の経営は順調で、社長夫人のいさ子さんは、会社と家庭の両方をうまく切り盛りしてきた。幸い、健康状態もきわめて良好だった。

乳がんを発症、全摘・リンパ節郭清を受ける

ところが、03年9月7日早朝のことだった。いさ子さんは右の乳房に痛みを感じて、目を覚ました。右の乳房に触ると、しこりがあった。直径4センチほどのかなり大きなしこりで、「乳がんかもしれない」と直感した。9月10日、近くのA総合病院でX線検査や針生検などを受けた。1週間後の9月17日、担当医から「乳がんの疑いがあり、局所麻酔下で乳房を局所切開してしこりを筒状に取りたい。病理検査で悪性なら手術をしたい」と言われた。

しかし、いさ子さんは局所切開も手術も受けたくなかった。放射線治療など手術以外の治療法を希望した。そこで、勇気を出して「がん専門のB病院を受診したい」と申し出た。A総合病院の担当医はX線写真などを用意し、協力してくれた。11月12日、B病院でA総合病院と同様の検査を受けた。「乳がんとわかったら手術をします。放射線治療の有効性は証明されていません。この病院では手術以外の治療は行いません」と期待を裏切るような説明だった。

11月中旬、ある新聞記事で放射線治療を普及する「市民のためのがん治療の会」を知り、相談をした。市民の会でC病院を紹介された。11月26日、B病院で乳がんと告げられ、入院治療を勧められたが、断った。そして、12月下旬、市民の会で紹介されたC病院乳腺外科を受診した。B病院とは違って、丁寧な説明をしてくれた。「どうしても放射線治療で治したいのなら、紹介しますよ」とほかの病院も勧めてくれた。担当医の親身な態度と説明に納得し、手術を受ける決意を固めた。乳がんを疑われてから半年が過ぎていた。

会社は毎年4月になると多忙になる。4月に入院すれば、会社の業務に支障をきたすかも知れない。いさ子さんは、04年3月中の手術を希望した。入院期間中は姪にサポートを依頼し、集金先やパソコンの使用法などを書き出して手渡した。C病院の配慮で、3月10日に緊急入院。3月12日、手術を受けた。浸潤性乳管がん(微小浸潤)で右乳房を全摘し、リンパ節郭清(レベルII)も受けた。

「95パーセント以上の確率で再発はない」とのことで、術後補助療法を必要としなかった。手術を受けた夜は切除した患部が腫れ、導尿や点滴などで寝返りもできないほどでつらかった。ただし、つらかったのはその夜だけだった。

翌日からは毎日、携帯電話と電子メールで会社と連絡を取り合って、経理・総務の仕事を進めた。入院期間中、工場勤務のパートタイマー1名が自己都合退職のため、さまざまな手続きが必要だった。いさ子さんは携帯電話で役所などに問い合わせて、会社に連絡を入れて迅速に対応した。携帯電話と電子メールをフルに利用して、会社の仕事を乗り切った。3月21日に退院。半年に1度のペースで、定期検査を受けることになった。退院した翌々日の火曜日、いさ子さんは会社に出勤した。小さな会社ほど、一人の社員の役割は大きい。社長夫人としての自覚と責任も感じていた。「幸い、経理・総務のデスクワークをするうえで手術の影響はほとんどなく、多忙な4月も乗り越えられました」といさ子さんは語る。

高額療養費制度と民間の「がん保険」で治療費を捻出

12日間の入院費用の請求金額は21万6800円(3割負担)。退院後、高額療養費の支給申請をしたため、結局、入院費用は合計7万円ほどで済んだ。また、いさ子さんは、万一に備えて、10年ほど前、D保険会社のがん保険に加入し、毎月約4000円の支払いを続け、さらに、半年前にはE保険会社の疾病保険にも加入し、毎月約2000円を支払ってきた。入院中に二つの保険会社に電話をして、所定用紙を取り寄せた。退院後、主治医の診断書を添えて保険会社に郵送した。

約1週間後、D保険会社から約80万円、E保険会社からも約17万円、合計約97万円が指定銀行口座に振り込まれた。入院費用は約7万円だったから差し引き90万円ほどが残った。夫は、いさ子さんの気分転換と療養のために旅行を勧めた。結局、友人夫婦と4人で夏休みに2泊3日、9月の連休に3泊4日と2回、沖縄・西表島へ旅行に出かけた。いさ子さんは大好きなシュノーケリングを楽しみ、心身ともにリフレッシュできた。

「がん保険は気持ちにゆとりをもたせてくれました。いざというときのために、加入をしていたほうがいいと思います」といさ子さん。

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健康保険法(政府管掌)の被扶養者
被扶養者に認定された場合、保険料の支払いはありません。医療費は3割負担です。健康保険の被保険者が病気やケガで連続して3日以上働けないと4日目から傷病手当金(療養中の所得保障。通常の約6割が支給。最長1年6カ月)が支払われます。しかし、被扶養者には残念ながら傷病手当金は支払われません。民間保険などで備えていたほうが安心かもしれません。

市民のためのがん治療の会

代表・會田昭一郎
放射線治療などの相談に応じている。
〒186-0003 東京都国立市富士見台1-28-1-33-303      FAX:042-572-2564
URL:http://www.com-info.org/


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