仕事をしながら療養する
仕事ができない間の療養生活を有給休暇・傷病手当金で乗り切った

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2004年6月
更新:2013年4月

  

療養を保険制度で乗り切った君島
佳名子さん。自身のがん発症をき
っかけにソーシャルワーカーへの道
を歩み出した

卵巣に悪性腫瘍が見つかる

99年9月下旬、当時、財団法人(社員50名=研究者25名、事務職25名)の事務職員だった君島佳名子さん(当時32歳)は、突然、腹痛に見舞われた。近所の産婦人科医院で異常を指摘され、9月25日、総合病院を受診。「悪性の卵巣腫瘍が疑われ、手術が必要です」と言われた。すぐに上司に報告し、事情を説明した。9月27日、休暇の許可を得て、総合病院を再受診、入院予約。28日は出勤して仕事の引き継ぎをし、29日に入院した。職場ではプロジェクトごとに数名でチームを組んで仕事をしていた。君島さんがメインで担当していた業務もあったが、上司によるチームの枠を超えた調整と同僚の協力により、スムーズに引き継ぎをすることができた。入院期間は35日分の有給休暇を当てることにした。

有給休暇と傷病手当金で療養生活

10月5日に行われた手術は2時間ほどだった。数日後、病理検査の結果、「卵巣境界悪性腫瘍であり、卵巣がんに準じるとステージ1C」と診断され、主治医から抗がん剤治療を勧められた。ショックだったが、「与えられた試練」と気を立て直し、抗がん剤治療のための入院を10日後に予約して、10月15日にいったん退院。ふらつきもあり、すぐに職場復帰するのは難しかった。

また、抗がん剤治療は3クール、期間的には約3カ月が予定されていた。職場には「12月末まで休職して、来年1月4日から復職したい」と申し出た。数日出勤し、仕事の引き継ぎ、主治医の診断書の提出など長期療養に係わる調整を職場と行った。職場では有給休暇35日の後は、傷病手当金(キーワード参照)を支給できるように手続きをしてくれた。とりあえず仕事の引き継ぎも終えられ、12月末までの休暇中もある程度の収入の見込みが立ち、少し安心できた。

そこで、君島さんは「卵巣境界悪性腫瘍」という自分の病気について勉強し始めた。書店で医学専門書を探し求め、インターネット検索で情報を集めた。PDQ(米国国立がん研究所が発信している大規模ながん情報のホームページ)では「卵巣境界悪性腫瘍は卵巣がんに比べて顕著に生存率が高い」また「早期での標準的治療は手術のみ。術後抗がん剤治療の有効性は実証されていない」とあった。

「あれ?」と思った。抗がん剤治療は本当に必要なのかと疑問を持った。そこで、主治医と話し合いをした後、セカンドオピニオンを求めることとした。

卵巣境界悪性腫瘍に詳しい大学教授を見つけて、診療情報提供書と病理標本を持って、予約して相談にでかけた。がん体験を持つ職場の上司からの勧めで、がん専門病院で診察を受けて意見を聞いた。合計3人の医師にセカンドオピニオンを求めた結果、1人は抗がん剤治療を勧めたが、2人は不必要だと言った。主治医の意見も入れると2対2になった。最後に君島さん自身の「受けたくない」気持ちをプラスして、結局、抗がん剤治療は受けずに経過観察のみという方針を選択。結論に達したのは11月末だった。

がんを転機にソーシャルワーカーに

「職場の理解と傷病手当金の支給を受けながら休暇を得られたことで、じっくり検討できました。自分で納得のできる結論を導き出せたと思います」と君島さん。

2000年1月4日、職場復帰。休暇中、「仕事のことは気にせず、療養してね」と励ましてくれた同僚たちに「恩返しをしよう」と思った。気力・体力とも入院前とほぼ同じに戻っていた。入院前以上に働いた。しかし、君島さんは次第に仕事への物足りなさを感じ始めた。がん体験を経て、「がん患者さんのそばにいられる仕事がしたい」と強く思うようになった。

結局、復帰1年後の01年2月に退職。9年間の勤務で雇用保険から支給される180日分の基本手当を受けながら新しい仕事を探し始めた。支給終了後は、週3日のアルバイトと家族の支援を得ながら社会福祉士を目指した。1年間昼間の大学に通学した後、国家試験に合格。03年4月、ホスピス病棟を有する日の出ヶ丘病院(東京都西多摩郡日の出町。263床)の医療福祉相談室で医療ソーシャルワーカーとして働き始めた。

「私はがんになったとき、職場に恵まれていました。セカンドオピニオンを求めるなど、納得した治療を受けられました。他のがん患者さんにも納得した医療を受けてもらいたいと思います。それをモットーに、お手伝いをしていきたいと思います」と君島さんは語る。

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傷病手当金
健康保険法で定められている制度です。業務外の病気やケガによるものが対象となり、通勤途中や仕事中のケガは、労災扱いになるため対象となりません。病気休業中に生活を保障するために設けられ、現金が支給されます。病気やケガのために働くことができず、連続して3日以上休んでいるときに、4日目から支給されます。支給される金額は1日につき、標準報酬日額の6割に相当する額です。支給期間は休業4日目から勤務が可能となる日まで、最長1年6カ月です。

なお、自営業者などが加入している国民健康保険では、保険者が1)市町村・特別区の場合、残念ながら支給されないようです。2)国民健康保険組合(全国166組合)の場合、支給されることが多いようですが、支給される金額や期間はさまざまです。


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