皮膚症状のケア:皮膚症状を重症化させないために、患者さん自身でできることはたくさんある 皮膚症状はとにかくスキンケア!
市川智里さん
がんの治療薬が増えてきた。そしてそれと同時に増えたのが、副作用の皮膚症状だ。皮膚症状といっても、重症化すると日常生活にも支障をきたす。症状悪化を見逃さずに、皮膚症状を上手にケアして、がん治療を長続きさせていくことが大切だ。
皮膚症状は23タイプ
「従来から、抗がん薬の副作用で皮膚症状が現れることがありましたが、近年はとくにいろいろな分子標的治療薬が使われるようになり、特有の皮膚症状がみられる患者さんが増えてきました」と、国立がん研究センター東病院・がん看護専門看護師の市川智里さんは話す。
皮膚症状は、色素沈着や乾燥、亀裂、皮疹、爪の周りの炎症(爪囲炎)、手足症候群など非常に多様だが、薬剤の種類によって、2つのタイプに大別できる(図1)。
化学療法の種類 | 抗がん薬 | 分子標的薬 マルチキナーゼ阻害薬 | 分子標的薬 EGFR阻害薬 |
主な薬剤 | フルオロウラシル テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム カペシタビン | ソラフェニブ スニチニブ | セツキシマブ パニツムマブ ゲフィチニブ エルロチニブ |
現れる皮膚障害 | 色素沈着 手足症候群 | ざ瘡様皮疹 皮膚の乾燥 指先の亀裂、爪囲炎 |
がん治療における皮膚症状は、2つのタイプに分けられる
「まず、従来の抗がん薬である5-FU*やTS-1、ゼローダ*など、フッ化ピリミジン系の抗がん薬や肝臓がんに使われるネクサバール*、腎臓がんに使われるスーテント*などキナーゼ阻害薬と呼ばれる分子標的治療薬で起こる色素沈着や手足症候群などが1つ。
2つ目は、分子標的治療薬のうち、EGFR(上皮成長因子受容体)阻害薬で起こる皮疹(RASH)、皮膚の乾燥や指先の亀裂、爪囲炎などです。
代表的な薬剤には、大腸がんに使われるアービタックス*、ベクティビックス*、肺がんに使われるイレッサ*、タルセバ*などがあります。
一般的な抗がん薬で起こる手足症候群は、手足全体が赤みを帯びたり、炎症を起こしたりするのに対して、分子標的薬では足の裏の部分的な肥厚*やペンダコなど、くり返し圧力がかかる部分に特に強く出やすい傾向があります」
薬剤の種類や時期によっても、症状の出方が異なる。たとえば、アービタックスでは、投与開始から1~3週目ぐらいで、顔や胸部ににきびのような発疹(ざ瘡様皮疹)が現れ、約3週目ぐらいから指先などのひび割れの症状が出始める。さらに投与開始から6~10週経つと爪の周りの炎症が起こる(図2)。ただし、これらすべての症状が起こるわけではなく、個人差もあるという。
これらの皮膚症状は、抗がん薬によって表皮の基底細胞や汗腺、皮脂腺などがダメージを受け、正常な表皮の生まれ変わりができなくなり、バリア機能が損なわれるために起こるといわれている。
また、分子標的治療薬は、がん細胞にあるEGFRなど特定のたんぱく質をターゲットとしてがんの増殖を抑えるが、同じたんぱく質が皮膚や爪の周囲にもあるために、影響が出ると推測されている。
いずれの場合も、まだはっきりと解明されているわけではないそうだ。
*5-FU=一般名フルオロウラシル *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *ゼローダ=一般名カペシタビン *ネクサバール=一般名ソラフェニブ *スーテント=一般名スニチニブ *アービタックス=一般名セツキシマブ *ベクティビックス=一般名パミツムマブ *イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *肥厚=肥えたり腫れたりして厚くなること
ケアの基本は清潔と保湿刺激を避ける
「どのタイプの場合でも、皮膚症状を悪化させないためには、日常的なスキンケアが大切です。治療が決まったら、症状が出る前から基本のケアを始めましょう」
と、市川さんは強調する。
スキンケアの基本は、①清潔を保つこと②しっかり保湿すること③刺激を極力避けること。
汚れの蓄積や乾燥は皮膚の状態を悪化させるので、症状の有無に関わらず3つのポイントを心がけて生活しよう(図3)。
「毎日、朝晩の洗顔や入浴を励行し、顔や体を洗うときは、刺激の少ない石けんを泡立てて、泡で包み込むようにしてやさしく洗いましょう。熱い湯は避け、ぬるめの湯を使います」
手洗い、入浴などを怠ると、皮膚症状がひどくなることがあるので注意したい。男性の場合、無精ひげがあると汚れがたまりやすく、皮疹も出やすい。
「ひげを剃ってきれいに洗っただけで、改善した例もあります。このほか、指の間や爪の周り、足の指や爪も汚れがたまりやすいので、きめ細かく洗うことが大切です。ひげ剃りはそれ自体で刺激になるので、シェービングクリームをつけて、切れ味のよいシェーバーで、肌を刺激しないように剃ってください」
洗顔や入浴後は、時間をおかずに保湿剤を塗布する。乾燥しやすい顔や手をはじめ、皮疹が出やすい胸や背中、亀裂が起こりやすい指先、爪の周囲、肥厚が出やすい足裏、足の指の間や爪の周囲などを中心にケアしておく。
保湿剤は処方薬のヘパリン類似物質であるヒルドイドローション/クリーム(商品名)のほか、添加物の少ない市販品(ノンアルコール、弱酸性、無香料、無着色、低刺激性など)を使ってもよい。使用量は、人差し指の第一関節までの分量を、手のひら2枚分程度の面積に塗布するのが目安となる。塗布する場所に数カ所に分けてのせ、そっと延ばすのがコツだ。
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