抗がん剤治療の新しい支持療法として期待され、臨床試験開始
見直され始めた成分栄養剤の口内炎軽減効果
頭頸部腫瘍科・形成外科副科長の
田原信さん
これまで、とかく抗がん剤の効果ばかりが注目されがちだった食道がんや頭頸部がんの化学放射線治療において、抗がん剤の副作用を軽減したり、患者さんの体力や栄養状態を維持する支持療法への注目度が高まってきている。
そこで今回は、厚生労働省研究として第2相試験も行われている、この分野の最前線で活躍する医師の方々にお話を伺った。。
多施設共同研究課題の1つに、初めて成分栄養剤が!
頭頸部がんが専門の国立がん研究センター東病院頭頸部腫瘍科・形成外科副科長の田原信さんは、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)で頭頸部がんの治療法確立へ向けた研究を行う班の一員として、口内炎に対する支持療法の重要性を強く訴える。
「まず、頭頸部がんが他のがん種と比較して特徴的なことは、がんが見つかった時点でかなり進行しているケースが多いということが挙げられます。ここに来られる方の6割方はステージ3~4の進行がんです」
この原因としては、症状を自覚しないまま大きくなるまで放置してしまうのもさることながら、開業医などで最初に診察する耳鼻科の医師にがんに詳しい人材が少ないことも大きいようだ。外から見ただけでは見つけられないために、ちょっとした炎症などは抗生剤を渡されておしまいということも多く、長期間放置された後で、本格的に症状が出てから大学病院などで突然がんを宣告されるといったことが起きるという。
放射線増感作用と副作用。抗がん剤は両刃の剣
頭頸部は様々な部位に分かれており、しかも部位ごとにそれぞれ別のがんとして分類しなければいけないとまで言われるほど複雑である。その上飲み込む、しゃべるといった機能面や、手術で顔の形が変わるといった外見上の問題も抱えているため、手術を拒否する患者さんも多い。
「70歳のご老人でも孫としゃべりたいから声を失うのは死んでも嫌だと訴えてくることもあります」
このように近年の頭頸部がん治療は、進行具合や患者さん本人の希望などを考慮して、手術よりも抗がん剤と放射線を併用した治療を選択するケースが増えてきている。
「この併用療法では、抗がん剤は放射線の効果を高める増感剤として投与されます。明らかに放射線単独よりも成績が良いのですが、問題は、抗がん剤がさまざまな副作用を引き起こすことです」
そのため、がん研究センター東病院では、2002年までは、3週間ほど治療したのち、副作用が発現したら2週間ほど休薬して回復を待つといった方法が採られていた(図3)。
支持療法の成否が治療継続のカギ
しかしその後、海外から、できるだけ休まず短期間のあいだに集中して治療を行うほうが5年生存率が上がるというデータがたくさん出てきた。
具体的に言えば、全治療期間が100日を超えると治療成績が大きく落ちるとか、治療期間が11週未満の場合は5年生存率が48パーセントなのに対して11週から13週だと27パーセントまで極端に落ち、それ以上長くなると25パーセントと、あまり差がなくなるなどといった報告がされた(図4)。
そこで田原さんは、2002年から原則として、副作用が発症しても休薬期間を設けずに治療を完遂する方針に切り替えた。
「たとえば口内炎の場合、もう患者さんの口の中は真っ白です。中には血が出ている人もいる。でも僕らは、よほど高熱が出て具合が悪くならない限り治療を続けます。なぜかと言えば、治癒できる治療だからです。治すためですから辛くてもあえて患者さんにがんばっていただく。ただし、休まず治療を続けるために不可欠なのが支持療法なんです。栄養管理・口腔内管理・疼痛管理、全部やらないと、休まずに治療を完遂することがきわめて難しくなるんです」
2002年当時は、支持療法という概念がまだほとんど浸透していない時期。そんな中で田原さんは支持療法の重要性に実感として気付き、実践していったのだという。
同じカテゴリーの最新記事
- 治療が長引く可能性も 血液がん患者の口腔ケアはセルフケアと専門医とのタッグが重要
- 化学療法治療前からの口腔管理で 口腔内の合併症を防ぐ
- 頭頸部がんの 化学療法と放射線同時併用療法の副作用対策
- 副作用はこうして乗り切ろう!「抗がん薬治療中の口内炎」
- 口腔ケアで患者さんの口の苦痛をなくし 治療効果アップをサポート
- 抗がん薬・放射線治療による口腔粘膜炎 事前準備で症状は緩和できる
- 口腔粘膜炎:重視され始めた口腔ケアによる合併症の予防効果とは 歯磨き、うがい、歯科受診で口腔粘膜炎を予防しよう
- 抗がん薬の副作用で起こる口内炎を短期間で治す漢方薬「半夏瀉心湯」
- 化学療法の副作用対策の重要性を、患者さん自らしっかりと理解することが大切 注目!粘膜炎(下痢・口内炎)の改善が期待される成分栄養剤
- 患者さん自身でできるセルフケアもある 口の中をキレイにして味覚障害を改善しよう!