「口内炎はがまんしろ」は時代遅れ。がんと闘うためにも必要
家庭でもできる元気印の口腔ケア&セルフケア
志村デンタルクリニック院長の
志村真理子さん
抗がん剤治療の副作用で口内炎が起こっても、「治療が大切だから」と我慢を強いられたり、適切な処置がとられなかったりすることがまだ多いようです。このような状況を変えるべく病棟内でチーム医療を実践し、医療者・患者双方に口腔ケアの重要性を説く志村真理子さんに、家庭でのセルフケアも含めてアドバイスしていただきました。
口内炎は4割に起こる
抗がん剤による重症の口内炎
抗がん剤治療中の患者さんの約4割に口内炎が起こるといわれています。原因は、抗がん剤が口腔粘膜にダメージを与えること、白血球の減少によって細菌等に感染しやすくなることなどがあげられます。
口内炎と一言で言っても、その症状は軽重さまざまです。健康な人にもよくみられるポツンとした「アフタ性口内炎」から、びらん、潰瘍、さらに歯茎から唇全体に出血を伴う重度のケースもあり、多くの場合痛みを伴います。通常は、抗がん剤治療開始後4~6日ごろから発症し、口腔粘膜が再生する10日から2週間程度で治りますが、使われる抗がん剤の種類や量、期間によっても異なり、個人差もあります。治療の継続によって重症化することも珍しくありません。
とくに、血液系のがんで大量化学療法、骨髄移植、造血幹細胞移植などを行う場合にはほとんどの例で出血などを伴う重度の口内炎が起こります。
チーム医療で口腔ケア
- 歯や粘膜表面についた歯垢や食物残渣を取り除く
- 口腔内常在菌の異常増殖を抑制する
- 食べ物のにおいや口臭などを除去する
- 歯肉や粘膜への機械的刺激によって、血液の循環をよくする
- 粘膜を刺激することにより唾液の分泌を促し、自浄作用を高める
- 口唇や口腔内の乾燥状態を改善する
口内炎という言葉の軽い響きからか、他の副作用に比べると従来は対策が立ち遅れている傾向がありましたが、最近では、化学療法等で入院中の患者さんを対象に、歯科・口腔外科医が加わるチーム医療によって積極的に口腔ケアを行う病院が少しずつ増えてきました。
がん拠点病院のNTT東日本関東病院では、血液内科や脳外科・消化器・呼吸器等の病棟内で、歯科口腔外科医でドライマウスの専門家でもある志村真理子さんを中心に、歯科医、主治医、看護師、薬剤師が連携して口腔ケアを行っています。
「もちろん原疾患の治療が最優先ですが、口内炎は副作用だから仕方がない、がまんしなさいというのはもはや時代遅れです。患者さんが元気に治療を続けて、がんと闘っていくためにも、口腔ケアが必要です」と志村さんは強調します。
現状ではまだ、口腔ケアは「食後の歯磨き」という程度にしか理解されておらず、食事の摂取をしていない患者さんなら口腔ケアは必要ないだろう、と考える医療者もありますが、これは大きな間違いだそうです。
「口の中には多くの常在菌が存在するため、免疫力が低下しやすい方、病気のため食事を中止している方にとって、口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防のためにも重要です。口内炎の症状や痛み、精神的な苦痛を和らげるのと同時に、2次感染予防として適切な口腔ケアをすることが大切ですね。とくに、血液内科の患者さんは重症の口内炎を合併することが多いので、入院中は病棟での口腔ケアが欠かせません」(志村さん・以下同)
[口腔ケアによる咽頭の総菌数の変化]
白血病など血液系のがんの治療では、免疫抑制や大量化学療法の影響で、免疫力・抵抗力が落ちてきます。そのため、通常なら悪さをしない口の中の常在菌や、空気中の細菌やウイルスなどに感染しやすくなり、口の中や唇の粘膜が荒れ、口内炎が多発し、びらんや潰瘍を伴い、出血してきます。痛みが強く、血液が糊のように固まる血餅ができて、歯と唇、上あごに付着します。
「血餅の除去には、粘膜ケア用のスポンジ製ブラシを使いますが、痛みが強い場合は、歯科医や看護師さんが、専用のピンセットと綿球(脱脂綿を丸めたもの)、薬剤等を使ってていねいに取り除く必要があります。薬剤がしみる場合は、体液と同じ生理的食塩水に綿球を浸してケアすることもあります。口腔粘膜用のウェットティシュも便利です」
また、治療前に歯の管理が悪く、歯槽膿漏や虫歯などが原因で感染源ともなる歯は抜歯が必要です。治療が始まってからは抜歯ができないので、主治医と相談し治療予定日までに計画的に抜歯を行います。血小板の数値が低い場合は、抜歯直前に血小板輸血をするなどの処置をすることもあります。
「病棟ではチーム医療によって口腔感染を予防することが求められていますが、それと同時に、家庭でも、治療前から治療中、治療後までしっかりセルフケア をしていくことが大切ですね」
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