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治療前から、お口と歯のケアを始めよう!
がん治療に伴う口腔合併症や感染症の予防と軽減

監修・アドバイス:大田洋二郎 静岡県立静岡がんセンター歯科口腔外科部長
取材・文:池内加寿子
発行:2006年8月
更新:2013年8月

  

大田洋二郎さん

おおた ようじろう
1961年宮崎県生まれ。
86年北海道大学歯学部卒業。第1口腔外科入局。
88年国立がん研究センター歯科医員。
90年西ドイツ・カタリネンホスピタル留学。
国立がん研究センター東病院、国立がん研究センター中央病院歯科・口腔科医長を経て、02年より現職。
03年厚生労働省がん研究助成金「がん患者における口腔内合併症の実態調査と予防方法の確立」研究班長


がんの治療によるお口のトラブルの現状は?
抗がん剤治療で40パーセント、頭頸部の放射線治療で100パーセントに起こる

がんの3大治療法――外科治療、抗がん剤治療、放射線治療――はめざましい進歩を遂げている一方で、治療による副作用や合併症に悩む患者さんも少なくありません。

中でも、多くのがん医療現場で適切な対策があまりとられていないのが、口内炎を初めとする口腔内の合併症(口の中や歯のトラブル)です。口腔合併症は抗がん剤治療で40パーセント、口腔がん、咽頭がんなど頭頸部領域の放射線治療では100パーセント、舌がんなどの切除再建手術では30~50パーセントもの高率で発症します。重症化すると痛みが強く、食事がとれなくなったり、歯やあごの骨の壊死を招いたり、さらには感染が全身に広がって命にかかわることがあるにもかかわらず、「治療のためだから、副作用は仕方ない」と見過ごされがちでした。

患者支援のさまざまな取り組みを行っている静岡がんセンターでは、2002年の開院当初より、このような現状を改善するため、がんの治療前から治療後まで、歯科医8名(常勤2名、レジデント6名)、歯科衛生士、看護師等が医科と連携して口腔ケアチーム医療を積極的に行い、口腔合併症や感染症の予防と軽減に効果を上げています。

口腔領域の切除再建手術では、歯石除去、歯周病治療、創部洗浄、ブラッシング、うがいなどの口腔ケアを治療前後に計画的に行うことによって、合併症の発症率のリスクを7分の1に減らすことができました。また、食道がん手術でも、術前からの口腔ケアにより、通常は10~15パーセントに起こる術後肺炎の合併率が7パーセント程度に減少しています。

同センターでは、このような成果を踏まえ、治療に伴う口腔合併症の予防と軽減の方法を確立し、地域に普及させるため、医科・歯科の垣根を越えて、静岡県歯科医師会、サンスター(株)の3者による医療連携をスタート。全国にも広めていくことを目標にしています。

静岡発!

静岡がんセンターを中心に医科歯科連携がスタート!
写真:医科歯科連携講習会風景
静岡がんセンター・医科歯科連携講習会風景

最近では「チーム医療」の重要性が叫ばれていますが、従来、日本の医療界では各診療科が他科や他院と提携、協力することを避ける傾向がありました。静岡がんセンター(山口建総長)、静岡県歯科医師会(飯嶋理会長)、サンスター株式会社(金田博夫会長)が共同研究協定を結んで始動させた「医科歯科連携」は、閉鎖的な慣習にも風穴を開ける新しい試みだといえます。

静岡がんセンターでは、大田洋二郎歯科口腔外科部長を中心に、静岡県内の開業歯科医及び歯科衛生士向けの講習会を順次開催し、提携歯科とともに情報提供をし合いながら患者さんの口腔ケアや啓蒙活動を行っていく予定です。6月11日に開催された第1回「がん患者の口腔合併症と歯科治療」講習会には、県内の歯科医162名と歯科衛生士13名、計175名が参加。提携を希望した歯科医院は「静岡がんセンター医療連携歯科医師」のシールをクリニックに貼って目印にします。

医科歯科連携によって、患者さんも、がん治療前から最寄りの提携歯科で適切な歯科治療や歯周病ケアを行い、がん治療に伴う口腔合併症を予防・軽減しながら、セルフケアについても気軽に相談できるようになります。他の病院にかかっている患者さんの場合は、静岡がんセンター受診後、提携歯科医を紹介してもらえます。また、口腔トラブルに悩む患者さんに合わせた歯ブラシや洗口液など、オーラルケア用品の商品開発もさらに進化することでしょう。

将来は全国的に医科歯科連携が拡がることが期待されます。

口腔合併症が起こるのはなぜ?
抗がん剤治療や放射線照射で口腔粘膜などの細胞がダメージを受ける

●抗がん剤治療の場合

抗がん剤は、がん細胞を破壊するのと同時に正常細胞にもダメージを与えます。口の中の粘膜など分裂の早い細胞が影響を受けやすいため、2~3人に1人は口内炎などの口腔合併症が現れ、そのうちの半数は重症化することがわかっています。とくに、白血病等の治療として行われる抗がん剤の大量投与や造血幹細胞移植では8割に強い口内炎が起こります。

口内炎は、抗がん剤投与開始後約4~6日程度で発症し、投与開始後10~14日程度で治癒するのが普通ですが、口腔内感染を起こしていたり、次の抗がん剤投与が始まったりすると、また悪化します。

口内炎が起こると、その傷口から細菌やウイルスが入り、感染しやすくなります。また、抗がん剤は免疫力(白血球、中でも生体防御に重要な役割を果たしている好中球)を低下させるため、口の中の常在菌のうち感染の原因になる悪い菌が繁殖し、健康なときよりずっと感染しやすくなるのです。

このため、抗がん剤治療前から口の中を衛生的に保つことが大切です(後述)。

抗がん剤治療による合併症には、このほか、味覚異常、歯肉出血、虫歯や歯周炎が原因の口腔感染、ヘルペス感染、カンジダ感染、歯の知覚過敏、口腔乾燥などがあります。

●放射線治療の場合

放射線治療は、がん細胞より正常細胞の回復が早い性質を利用して、がん細胞にダメージを与えていく治療法ですが、照射範囲内の皮膚や粘膜などの正常細胞にも照射線量が増えるごとに影響が出てきます。

頭頸部がんの放射線治療では、照射野に口腔粘膜や唾液腺などが含まれるため、程度の差はあれ、口内炎や唾液腺障害(口腔乾燥)などの副作用が表れます。1回2グレイの照射で口腔粘膜の基底細胞に壊死が生じはじめ、照射開始後1~2週間で粘膜の腫脹、発赤、潰瘍等となって表れ、細菌やウイルスに感染しやすく、このとき体調が落ちていると容易に全身に感染が波及して発熱することもあります。

放射線治療による口腔合併症にはこのほか、カンジダ症、味覚異常、放射線性う蝕(虫歯)、軟組織壊死、口の周囲の筋肉がこわばる瘢痕形成、骨が腐る放射線性骨壊死などがあります。口内炎や味覚異常、口腔乾燥等は、抗がん剤の場合より症状が強く、長期化します。

なお、放射線と抗がん剤を併用する「放射線化学療法」を行う場合、頭頸部領域に限らず、単独治療より治療効果も高くなりますが、副作用の症状が強くなります。口腔合併症が重症化すると、治療そのものを延期または中止せざるを得ないこともあります。

[口腔合併症の症例]

[緑膿菌感染症による歯肉壊死]
写真:緑膿菌感染症による歯肉壊死

歯肉緑膿菌の感染によって、歯肉壊死を発症、40℃の発熱。敗血症になると命に関わる
[放射線化学療法による口内炎]
写真:放射線化学療法による口内炎

上顎がんで5-FUの静脈注射と放射線治療により、左上あごから頬粘膜にかけて口内炎を発症。味覚異常、口腔乾燥、痛みが強い
[造血幹細胞移植時の歯肉出血]
写真:造血幹細胞移植時の歯肉出血

移植治療後14日目。下唇を中心に大きな潰瘍を形成し潰瘍面から出血


[放射線化学療法による口腔粘膜炎]
写真:放射線化学療法による口腔粘膜炎

食道がんの放射線化学療法で口腔粘膜炎が強く、味覚が変化し、食事がしみる
[骨髄移植後の口腔合併症]
写真:骨髄移植後の口腔合併症

口腔粘膜(唇)のびらん、偽膜付着
[アフタ性口内炎]
写真:アフタ性口内炎

乳がんの化学療法初回治療3日目に唇にアフタ様の潰瘍を発症。ステロイド軟膏で改善

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