67歳だが体力に自信あり。移植などの強力な治療を受けたい

回答者:薄井 紀子
東京慈恵会医科大学付属第3病院 腫瘍・血液内科診療部長
発行:2010年12月
更新:2013年12月

  

症候性多発性骨髄腫と診断されました。これから治療を受けるのですが、年齢から判断し、大量化学療法ではなく、普通の量の化学療法を行うとのことです。ですが私は昔から体力には自信があり、今でもスポーツを楽しんでいます。できれば少し体に負担がかかったとしても、強い治療を行って多発性骨髄腫を完全に治してしまいたいと考えています。65歳以上は大量化学療法は受けられないと主治医に言われましたが、本当に受けられないのでしょうか。

(秋田県 男性 67歳)

A 強い治療法はそれだけリスクもある。標準の治療でもよく効く

多発性骨髄腫の標準的な治療では、65歳を目安に治療法が選択されます。まず、65歳以下の患者さんならばVAD療法などの大量化学療法を行って骨髄腫細胞を取り除いた後、自家造血幹細胞移植を行います。

一方、65歳以上の患者さんの場合、MP療法や、いくつかの薬剤を組み合わせて使うなど、標準量の化学療法を行います。

ご相談者は67歳ということで、標準的な治療手順に従えば、標準量の化学療法を選択しますが、65歳とそんなに差はなく、ボーダーラインともいえる年齢でしょう。したがって、65歳以下に行う治療ができないわけではありません。

ただ、高齢者の方は、個人個人で元気度が異なること、年齢を重ねると1年1年の体力の差が大きいということも理解しておいてください。体力に自信があるとのことですが、治療を受ける体力が本当にあるのか、また糖尿病や高血圧などの合併症の有無も考慮し、医師とよく相談して決めることが重要です。標準的な選択ではないので、できない施設もあるかもしれません。

ただ、ここで考えたいのは65歳以上の年齢で本当に移植が必要かどうかということです。

65歳以上の患者さんに行われる、MP療法はきちんと行えばよく効く治療法です。それだけではなく、サリドマイド(一般名)やベルケイド(一般名ボルテゾミブ)、レブラミド(一般名レナリドミド)といった新しい薬剤が登場し、高い有効性が期待できます。こういった治療を行うことは、あながちマイナスではありません。

もちろん移植を行うことで、深い寛解が早くに得られることも考えられますが、大量化学療法による白血球の減少や、造血幹細胞を採取する際のシクロホスファミド大量療法のトラブルといったリスクもあります。そういったリスクに耐えうるのかどうかの1つの指標に、年齢が利用されます。

また、寛解を得られたとしても半分以上の患者さんで再発が起きてしまいます。せっかく大きなリスクを負って体に負担のかかる移植治療を受けても再発の可能性があるので、移植に固執する必要はないと思います。

リスクをよく理解したうえで、医師と話し合って選択していただきたいと思います。

VAD療法=多発性骨髄腫の初期治療で、抗がん剤であるオンコビン(一般名ビンクリスチン)、アドリアシン(一般名塩酸ドキソルビシン)と、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤であるデカドロン(一般名デキサメタゾン)という薬剤を組み合わせて投与する治療法
MP療法=多発性骨髄腫の初期治療(寛解導入療法)としての標準的治療法で、アルケラン(一般名メルファラン)という抗がん剤とプレドニン(一般名プレドニゾロン)というホルモン剤の併用による化学療法

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