多発性骨髄腫にサリドマイドは効果があるか
73歳になる父のことでご相談します。父は多発性骨髄腫と診断され、現在、MP療法を受けています。インターネットで調べたところ、サリドマイドという内服薬が多発性骨髄腫の治療薬として承認されて、しかも、治療の最初から使ったほうが効果があると書かれていました。サリドマイドと聞くと、副作用がとても心配です。
(新潟県 女性 47歳)
A 欧米はMP療法にサリドマイドを加えている
この方が現在受けているMP療法とは、抗がん剤のアルケラン(一般名メルファラン)と副腎皮質ステロイドのプレドニン(一般名プレドニゾロン)を併用した治療法です。
質問文には、この方の今の状態が書かれていません。MP療法で病状がコントロールされているのであれば、そこにあえてサリドマイド(一般名)を加えることがよいかというと、難しい判断です。状態がよいのなら、新たに薬剤を加える必要はないという判断も当然あります。なぜなら、サリドマイドを加えた分、後述するように、副作用も強く出るからです。
また、サリドマイドは多発性骨髄腫において、治療の当初から使用したほうがよいという記述をインターネットでご覧になったようですが、確かにそのとおりです。MP療法よりも、MP療法にサリドマイドを加えたMPT療法(サリドマイド=thalidomideのT)のほうが、効果が高いことはすでに証明されていて、実際、欧米諸国では、治療当初からMPT療法が盛んに行われています。
日本では、サリドマイドは多発性骨髄腫の治療に対し、これまで未承認の状態でした。しかし2008年の10月に、厚生労働省が、サリドマイドを難治性または再発の多発性骨髄腫の治療薬として承認しました。
多発性骨髄腫の治療を考えると、これは大きな前進ですが、「難治性または再発」という条件付きであるため、欧米諸国のように、最初の治療から使用できるわけではありません。
ただし、保険を使うことなく自由診療で、MPT療法を行うことは可能で、実際、行っている医療施設もあります。
サリドマイドはもともと催眠鎮痛剤として開発されました。ところが販売当初、妊娠中の女性が服用し、胎児に奇形を起こして大問題となり、間もなく販売停止になりました。これは、サリドマイドに催奇性(奇形を引き起こす性質)があるために起きたことです。
しかし今では、妊婦さんにサリドマイドを使用することはもちろんありません。ですから、何かしらの奇形が生じることは、治療を受けた本人を含めてありません。サリドマイドの副作用のことを心配されていますが、その点はまずご安心ください。
ただしもちろん、多発性骨髄腫の治療として使うサリドマイドにも副作用はあります。主な副作用は次の3つです。
1つ目は、骨髄抑制(血球の減少)です。血球が減少すると、感染症にかかりやすくなるなどのリスクが高まります。
2つ目は、深部静脈血栓症にかかるリスクが高まることです。脚などに静脈血栓症ができて、できた血栓が肺に移動して、肺塞栓症(肺の血管が詰まる病気)を起こすこともあります。
3つ目は、末梢神経障害です。サリドマイドを服用することで、手足がしびれることがあります。
そのほか、眠気はほぼ必ず起こります。人によっては、かなり強く出るため、1日中、ボーッとしてしまうこともあるようです。サリドマイドを服用している間は車の運転は控える必要があります。
サリドマイドに限らず、副作用を根本的に止めるには、薬の服用をやめるしかありません。
副作用への対症療法としては、血球の減少には、血球を増加させる薬を処方します。
静脈血栓症に対しては、血栓をできにくくする抗凝固療法をサリドマイドと併用することがあります。ただし、出血しやすくなるといった、抗凝固療法の副作用が起こることもあります。
末梢神経障害に対しては、しびれを緩和する薬で対処するなどします。
先にも書いたように、この方が今、どのような状態かはわかりませんが、もしMP療法で病状があまりコントロールされていないか、あるいは、今後、病状が悪化した場合は、サリドマイドを加えたMPT療法を検討されるとよいと思います。この場合は、難治性の多発性骨髄腫ないしは多発性骨髄腫の再発と判断されますから、保険の適用にもなります。
MPT療法を受けて、副作用が強く出た場合などは、アルケランとプレドニンをやめて、サリドマイドによる治療だけを行うという方法も考えられます。
お書きのように、サリドマイドは内服薬(飲み薬)なので、患者さんにとっても、簡便な治療法です。1度に2週間分、処方できるため、2週間に1度、通院すれば、引き続き治療を受けられます。
また、この方にはサリドマイド以外で、ベルケイド(一般名ボルテゾミブ)も治療法として考えられます。ただし、ベルケイドもサリドマイドと同様に、多発性骨髄腫に対しては、難治性ないしは再発した場合にのみ保険適用になります。
ベルケイドは分子標的薬で、注射薬です。外来で治療することができますが、内服薬よりは手間がかかります。
副作用は、下痢や食欲不振などの消化管症状や末梢神経障害などがあります。使用量が多いと、血小板が減少して、出血しやすくなることがあります。また、重篤な症状である間質性肺炎が起こることもあります。
MP療法が奏効していないのなら(あるいは、奏効しなくなったら)、ベルケイドを検討されるのもよいと思います。
ちなみに、73歳という年齢を考えると、自家移植による治療は通常は行いません。