ホルモン受容体陽性、HER2陰性に適切な治療法は?
ステージ(病期)2Aの浸潤性乳管がん(硬がん)で温存手術を受けました。腫瘍径2センチ、ホルモン感受性*陽性・HER2*陰性のルミナルA型、中間リスク、グレード(悪性度)3、リンパ節転移なし、脈管浸潤あり(リンパ管に中程度)です。生理はありません。手術の結果、取り残しはありませんでしたが、放射線療法は受けました。
(1)抗がん剤治療を行わない場合、再発転移のパーセントをアジュバント・オンライン(アメリカの再発リスクを予測するデータベース)で教えてください。
(2)もし、抗がん剤治療やホルモン治療をするなら、どの薬を何回くらいすればいいでしょうか。
(3)手術後、半年を過ぎてからでは抗がん剤治療を行う意味がないのはなぜですか。点滴ではなくUFT(一般名テガフール・ウラシル)など経口剤でもダメですか。
(4)ルミナルA型には、EC療法〈ファルモルビシン(一般名エピルビシン)+エンドキサン(一般名シクロホスファミド)〉は効果がなく、経口抗がん剤のほうが効くと本で読みましたが本当でしょうか。
(高知県 女性 45歳)
A ホルモン剤と抗がん剤、両方したほうがよい
順番にお答えしましょう。
(1)腫瘍径1.1~2センチとすれば、10年後の再発率は、何もしない場合は32パーセント、ホルモン療法をすれば20.5パーセント、ホルモン療法+抗がん剤治療の両方をすれば13.6パーセントまで減少すると予想されます。
(2)ホルモン療法だけでいいのか、ホルモン剤と抗がん剤治療の両方を行ったほうがいいのか迷うところですが、グレード3であることと年齢を考えると抗がん剤治療も行ったほうがいいでしょう。
抗がん剤は決まったものはありませんが、ご相談者のように抗がん剤も加えたほうがいいかどうか微妙なケースには、TC療法〈タキソテール(一般名ドセタキセル)+エンドキサン〉をお勧めします。脱毛はありますが、3週ごとに4回と回数が少なくて済み、効果も証明されています。それ以上強い薬は必要ないでしょう。
抗がん剤治療後に、ホルモン療法を開始します。45歳という年齢は本当に閉経したのかどうかが微妙です。
まずはノルバデックス(一般名タモキシフェン)を2年くらい飲んでみてください。その間、月経の再開がなく、ホルモンのチェックをして閉経レベルであれば、アロマターゼ阻害剤への切り替えを考慮します。
アロマターゼ阻害剤は、閉経後の患者さん対象の薬です。たまたま1年くらい生理がなかった患者さんがアロマターゼ阻害剤を飲んだ場合、卵巣機能が復活する可能性があります。そうすると、薬が効かないので、アロマターゼ阻害剤から開始するのはお勧めできません。
(3)手術後、半年を過ぎてから抗がん剤治療を行っても意味がないわけではありません。補助療法として抗がん剤治療を行う場合、半年以内にやり終えるケースが多いため、半年以降に行った場合、延命効果があるかどうかのデータがないのです。時間がたってから治療を始めても効果は変わらないかもしれませんが、そのエビデンス(科学的根拠)がありません。それは、点滴でも経口抗がん剤でも同じです。
(4)ルミナルA型にEC療法が効かないとか、経口抗がん剤のほうがよく効くということはありません。むしろホルモン剤がよく効くので、抗がん剤の上乗せ効果が少ないということはいえます。
*ホルモン感受性=ホルモン療法に効果があるかどうかの性質
*HER2=ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)による治療を行うかどうかの指標となる遺伝子発現