術前ホルモン療法をしてから乳房温存療法を行う治療法について知りたい
右側の乳房に触れると、乳房に硬いしこりのようなものを感じました。病院で検査を受けたところ、乳がんといわれました。なんとか乳房を残したいと思います。専門雑誌などで、いろいろ調べたところ、術前ホルモン療法をしてから乳房温存療法を行う治療法を知りました。術前に抗がん剤を用いるよりも副作用が少ないようです。この治療法について、お聞きしたいと思います。この治療法による治療効果は、全摘手術と同じだと考えてもよいのでしょうか。どこの施設でも受けられるのでしょうか。
(福井県 女性 56歳)
A 術前療法を行うと腫瘍が小さくなり、温存療法がしやすくなる
乳房温存療法がしにくいということは、おそらく病期は2期以上かと推定されます。そこで、術前療法をして乳房温存療法を検討されているのかと思います。術前療法を行うと腫瘍が小さくなり、温存療法がやりやすくなることが多いことがわかっています。
術前療法には、抗がん剤によるものと、ホルモン療法によるものとがありますが、術前ホルモン療法は、術前抗がん剤療法に比べて、データが少ないため、術前抗がん剤療法が標準治療です。
術前ホルモン療法は、針生検をしてホルモン受容体が陽性の乳がんでないと適応となりません。主に高齢者に対して行われることがあります。
術前ホルモン療法をどれだけの期間行ったらよいのかについては、まだわかっていませんが、少ないデータからは3カ月間よりは6カ月間行うほうが効果的といわれています。
術前ホルモン療法をすれば、しこりとかはある程度小さくなりますが、短所もあります。抗がん剤治療を術後に行うべきかどうかがわかりにくくなることです。手術の際には、切除した材料を調べて、術後の治療を決めます。切除した材料が手術後の治療選択の基準となります。ところが、術前ホルモン療法をすると、切除した材料の情報が変わってしまいます。例えば、リンパ節転移プラスだったのがマイナスに変わってしまうこともあります。ホルモン治療だけで充分だったのか、抗がん剤治療も併用したほうがよいのかの判断がつきにくくなるおそれがあります。一般に術前ホルモン療法が抗がん剤を併用することのない高齢者を対象にしているのもそのためです。
このことに関連して、日本で「NEOS(ネオス)」という臨床試験が行われています。これは、術前6カ月間、ホルモン療法を試みて効果のあった人に対して術後に抗がん剤治療とホルモン療法を行うグループと、ホルモン単独療法にするグループを比べる臨床試験です。ホルモン療法がよく効いた人には抗がん剤は必ずしもしなくてよいのではないかという仮説を検証するために行われています。この臨床試験に参加するのも1つの選択肢かと思います。ただし、抗がん剤治療を絶対にやりたくない人には不適切です。
術前ホルモン療法プラス温存療法と、全摘手術とを比較したデータはありません。
全摘手術をしたあとで全身治療をしたかしないかによって治療成績は変わってきます。ですから、2つの治療法を比べることはできないのです。ただし、術前ホルモン療法後の温存手術で断端(切り口)が陰性であれば、全摘手術と治療成績が同等であることは間違いないと考えられます。