Ⅱ(II)~Ⅲ(III)期と診断。手術と化学放射線療法で治療成績は変わってくるのか

回答者・大幸宏幸
国立がん研究センター東病院食道外科科長
発行:2016年7月
更新:2016年6月

  

先日、食道がんと診断されました。病期(ステージ)はⅡ(II)期からⅢ(III)期の間と言われ、主治医からは手術を勧められています。ただ、食道がんの手術は大変難しく、術後もなかなか元の生活に戻ることが難しいことを知り、できれば手術を避けて化学放射線療法を受けたいと考えています。手術と化学放射線療法では、治療成績は変わってくるものでしょうか。

(69歳 男性 鳥取県)

標準治療は手術。手術と化学放射線療法双方の話を聞き、納得した上で選択を

国立がん研究センター東病院
食道外科科長の大幸宏幸さん

Ⅱ(II)期、Ⅲ(III)期の食道がんに対しての標準治療は、現時点では手術です。治療法としては、手術以外にも化学放射線療法がありますが、手術、化学放射線療法、それぞれの臨床試験の結果を単純に比較すると少し古いデータですが、手術のほうが5年生存率で約20%良い成績が出ています。

具体的には、日本臨床腫瘍研究(JCOG)グループが行ったJCOG9906試験において、病期Ⅱ(II)、Ⅲ(III)期に対する化学放射線療法の5年生存率は約37%でした。一方、JCOG9907試験という、手術前に抗がん薬治療(術前補助化学療法)を行ったほうがいいのか、手術後に抗がん薬治療(術後補助化学療法)を行ったほうがいいのかを検討する試験では、手術前に抗がん薬治療を行ったほうが予後はよく、5年生存率は約60%でした。つまり、化学放射線療法と、術前抗がん薬治療+手術を単純比較すると、後者のほうが5年生存率で約20%良いことが明らかになっています。

さらに、手術を中心としたJCOG9907試験をⅡ(II)期とⅢ(III)期に分けて検討してみると、Ⅱ(II)期では術前抗がん薬治療(FP療法:シスプラチン+5-FU)の有効性は高いものの、Ⅲ(III)期ではそれほど効果が高くないことが明らかになったため、当院を中心により有効な抗がん薬治療の組み合わせが開発されています。それが、これまでのFP療法にタキソテールを組み合わせたDCF療法です。

当院の治療成績では、まだ観察期間が短くエビデンス(科学的根拠)レベルは低いものの、Ⅱ(II)期では術前DCF療法+手術で3年生存率85%(JCOG9907試験では、術前FP療法+手術の3年生存率は75%)。さらにⅢ(III)期では、術前DCF療法+手術で3年生存率79%(同51%)と、予後は飛躍的に延びています。

一方、化学放射線療法についても研究が進められており、JCOG9906試験の結果があまり芳しくなかったことなどを受け、JCOGとは違うグループが化学放射線療法に関して、多施設共同試験を実施しています。化学放射線療法の実施方法を変更したり、化学放射線療法を行って効果がなかった症例、再発した症例に対して積極的に救済(サルベージ)手術を導入した結果、まだ症例数は少なくエビデンスレベルは低いものの、術前FP療法+手術とほぼ同等といった成績も報告されています。

なお、手術に関して言えば、胸腔鏡・腹腔鏡下手術を取り入れているケースが増えており、当院では全体の約75%に導入しています。ご相談者が言われるように、確かに食道がんの手術は体への負担は大きいですが、胸腔鏡・腹腔鏡下手術を取り入れることで、従来の開胸・開腹手術と比べて、確実に患者さんの負担は軽減できています。

以上を踏まえ、手術、化学放射線療法それぞれについて、じっくり先生にお話をお聞きになると良いでしょう。その上で、ご自分が納得する治療を、納得する施設で受けられることをお勧めします。

シスプラチン=商品名ランダ/ブリプラチン 5-FU=一般名フルオロウラシル タキソテール=一般名ドセタキセル DCF療法=シスプラチン+5-FU+タキソテール

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