卵巣のう腫は将来、卵巣がんに進行することはないか
先日、婦人病検診の腹部超音波検査で、右の卵巣に異常が見つかりました。4.5センチほどの大きさで、卵巣のう腫という女性によくある病気とのことです。血液検査の結果、腫瘍マーカーの異常はないようです。しばらく、経過観察する予定です。卵巣のう腫は、良性と考えてよいのでしょうか。将来、卵巣がんに進行することはないのでしょうか。また、卵巣のう腫の治療法は、手術しかないのでしょうか。
(45歳 女性 山形県)
A 病理検査で良性なら将来、がんになることはない
婦人科医長の関口 勲さん
一般的に、卵巣のう腫とは、卵巣に液体が貯留して正常卵巣よりも大きくなった状態を言います。
卵巣腫瘍とは、腫瘍細胞が卵巣に発生した状態を言います。形態として、水がたまるのう胞性、細胞のかたまりの充実性、および両者の混在などがあります。
また、卵巣腫瘍は、発生した腫瘍細胞が良性腫瘍(腺腫と呼ぶ)と、悪性腫瘍(腺がんと呼ぶ)、良性と悪性の中間の悪性度の低い境界悪性腫瘍の3つに分かれます。
さらに、卵巣腫瘍には、組織型という細胞の顔・かたちの形態による違いがあり、漿液性、粘液性などいろいろなタイプがあります。
良性で漿液性の場合は、卵巣の漿液性腺腫、悪性で粘液性の場合には粘液性腺がんという言い方をします。超音波検査、MRI(核磁気共鳴映像法)、CT(コンピューター断層撮影装置)などの画像診断からある程度卵巣腫瘍の組織型を推定することが可能です。
卵巣腫瘍が悪性か良性かを判断する基準として、画像所見と腫瘍マーカーがあります。悪性の場合、卵巣腫瘍の内部に充実性部分が認められることが多いです。また、卵巣がんの腫瘍マーカーとして、CA125、CA19-9、CEAなどがありますが、卵巣がんの場合、高値を示すことがわかっています。
ただし、注意しなければいけないことがあります。CA125やCA19-9は、良性疾患の子宮内膜症や、腹膜の炎症などでも上昇することがあり、異常高値を示していても必ずしも悪性とは限らないのです。
ご相談者のように、卵巣が腫れているときは、(1)腫瘍(2)腫瘍とは関係のない腫れ(3)卵管の病気の3つ――が考えられます。(1)は、時間の経過とともに大きくなっていきます。形態的には良性と悪性があり、腫瘍内に液体のみがたまっていると判断できるものは良性が多く、腫瘍の内部に細胞のかたまりがあったり、液体が認められず、細胞でつまっているものは悪性の可能性があります。(2)は、炎症や、排卵に伴う変化、その他に原因がよくわからないものがあります。(3)はまれですが、あります。卵巣と卵管は接触して存在します。卵巣と卵管をまとめて、付属器と言います。
対処の方法は、一般的には3カ月、6カ月、12カ月間隔で定期的な診察・検査をします。内診、超音波検査、血液検査、MRIなどで、腫瘍の大きさ、腫瘍内部の構造、腫瘍マーカー、痛みなどの症状をチェックします。
経過観察で腫瘍が小さくなってきた場合、腫瘍ではないと考えられるので、診察間隔を延ばしていきます。そして、正常の大きさになったら、定期的な診察は終了です。こうしたケースは10~30歳代の若い女性に多いです。
腫瘍の大きさが変化しない場合、腫瘍ではない可能性が高く、半年とか1年など適当な間隔での診察が必要です。ねじれによる痛みなどの症状が出た場合は、手術も考えます。
腫瘍が大きくなる、画像検査で内部の構造に変化が生じる、腫瘍マーカーの上昇、痛みなどの症状が出てきた、などの変化が生じた場合には、手術が必要になることがあります。程度が軽ければ、引き続き経過観察を続けます。大きさが6~7センチ程度になると、手術を勧める医師が多いようです。
将来のがん化についてですが、一般的には良性腫瘍が悪性に変化することはありません。卵巣の子宮内膜症という病気から、がんが発生することはあります。
相談者は、すぐに手術はしないで、経過観察することが大切です。
良性なら将来、がんになることはありません。ただ、臨床診断で良性だとしても、病理検査による確定診断がついていないので100パーセント良性とは言えません。今の段階では、どちらになるのかわかりません。
卵巣のう腫の治療は、一般的に手術です。手術には腫瘍のみを切除して正常卵巣組織を極力残す腫瘍切除、腫瘍と正常卵巣組織を全部切除する卵巣切除、卵巣と卵管を切除する付属器切除という3つがあります。45歳なら、付属器切除が一般的です。また、手術の方法は腹腔鏡手術と開腹手術とがあります。良性の可能性が高い、若い、腹腔内の癒着がない、開腹術の既往がないときなどは腹腔鏡手術が望ましいと思います。