モルヒネを1日に1000ミリグラム。中毒が心配です

回答者:岩瀬 哲
キャンサーネットジャパン 科学ディレクター
発行:2004年10月
更新:2013年12月

  

母(62歳)が昨年、卵巣がんの4期と診断されました。手術でがんが取りきれず、TJ療法(タキソール+ランダ)を受けましたが、効果はあまりなかったようです。痛みがひどいため、現在、モルヒネの投与を受けています。しかし、モルヒネを始めてから、意識がもうろうとしているらしく、私たちと会話していると、突然、わけのわからないことを言ったりします。モルヒネの中毒でおかしくなってしまったのでしょうか。モルヒネは今、経口薬を中心に1日に1000ミリグラムぐらい使っていると言われました。

(長野県 女性 36歳)

A 1日300ミリグラムまでで、9割の人に効果が出る

医学の教科書には、MSコンチン(一般名 硫酸モルヒネ徐放剤)などのモルヒネには天井値がない、つまりモルヒネはいくら使ってもよいと書かれていますが、現状は多少異なります。実際には、経口薬(飲み薬)の場合、1日300ミリグラムぐらい投与すると、およそ90パーセントの人の痛みをコントロールすることができます。

モルヒネを1000ミリグラムとか、1500ミリグラム、あるいは2000ミリグラム投与することで初めて効果を発揮するケースもまれにはあるのでしょうが、通常は考えにくいことです。

ちなみにモルヒネには、経口薬を中心に貼り薬や坐薬、注射などがあります。効果面から見ると、経口薬200ミリグラムは、注射60~100ミリグラムに相当します。注射は経口薬に比べ、少ない量で効果を発揮しますが、モルヒネ投与の第一選択は経口薬です。

モルヒネは痛みを抑えるのに非常に優れた薬ですが、すべての痛みに効果を発揮するわけではありません。心因性の疼痛や、しびれや刺すような痛みである神経因性の疼痛には、モルヒネはあまり効果がありません。これらの場合は、ほかの薬とモルヒネを併用することなどで対処します。

この方の場合も、心因性、ないしは神経因性の疼痛である可能性が考えられます。したがって、300ミリグラムを超えた時点で、ほかの対処法を考えるべきケースです。

また、モルヒネの中毒を心配されていますが、適正に使用している限り、モルヒネによって中毒が起こることはありません。ただこの方の場合は、モルヒネの投与が適正かどうかは少し疑問です。

日本にはいまだ緩和ケアの専門医制度がなく、多くは主治医である外科医がモルヒネなどの鎮痛剤を処方しているのが現状です。ではその主治医が緩和ケアに精通しているかというと、必ずしもそうではありません。残念ながら、中途半端な知識しか持っていない医師は全国に少なからずいます。患者さんも、こうした現状を知っておいたほうがよいでしょう。

この方の場合は、別の対処法を改めて考えるべきだと思います。セカンドオピニオンを求めるなど、何らかの対策が必要です。

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