経過観察だけではダメか

回答者●古賀文隆
がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
発行:2023年8月
更新:2023年8月

  

今年(2023年)5月に精密検査でグリソンスコアが3+4=7、生検を行った結果、針15本のうち11本からがん細胞が見つかりました。MRI検査ではリンパ節への転移はありませんでした。また、TNM分類はT2N0M0で、ステージⅡの前立腺がんと診断されました。手術を勧められましたが、体験者の術後の尿漏れなどの話を聞いていて二の足を踏んでいます。また放射線治療でも膀胱から軽い出血があると聞いています。この年齢なので、何もせず経過観察するという選択肢ではダメでしょうか。

(75歳 男性 東京都)

ガイドライン上では根治的治療が推奨されているが

がん・感染症センター都立駒込病院
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん

重篤な併存症のない75歳の日本人男性の場合、期待余命は10年以上あると推定されます。仮に PSA値が 20ng/mL未満の中リスクがんであるとして、生検のがん陽性スコア率が50%を超えているので、診療ガイドライン上は根治的治療(手術療法か短期間のホルモン療法+放射線治療)が推奨されます。

これは、前立腺がんで命を脅かされるリスクを低減する目的で、医学的根拠に基づき医療者がベストと考える治療方針であり、患者さんの立場では必ずしもそれがベストとは限らないこともあります。その方の人生観や人生設計によって、仮に前立腺がんによって命を脅かされるリスクが高くなるとしても、リスクを承知した上でその患者さんがベストと考える治療を選択すべき、と思います。

術後の尿漏れについては、施設や執刀医の経験、実際に行う手術手技やがんの部位などの要因で回復の程度に差がでることが知られています。この点については、主治医に聞いてみることをお奨めします。都立駒込病院のロボット手術の場合、全体の症例でみると術後3カ月で95%前後の方が尿漏れパッド不要か、念のためパッド1枚を使用する程度まで回復しています。がんの部位によっては、尿漏れを減らす手術手技を複数適用できる場合はさらに良好な回復が得られています。相談者の希望を主治医に伝え、よく相談した上で納得のいく治療法を選択してください。

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