子供でも甲状腺を摘出すべきか
甲状腺髄様がんと診断され、遺伝子検査の結果、遺伝性であることがわかりました。そこで2人の娘にも遺伝子検査が勧められました。検査を行った結果、8歳の長女に遺伝子の変異があることがわかりました。将来、甲状腺髄様がんになる可能性が非常に高いとのことです。そこで、長女の甲状腺摘出を提案されたのですが、甲状腺を摘出することで今後の成長に異常はないのでしょうか。また、摘出すると本当にがんを防ぐことができるのでしょうか。
(長野県 45歳 女性)
A 甲状腺全摘が基本。時期は検査の結果をみて
甲状腺髄様がんと診断された場合、家族歴がすでにある場合や副腎や副甲状腺の病気を伴っている場合、遺伝性の甲状腺髄様がんと診断できます。最近では甲状腺髄様がんと診断された時点で、甲状腺髄様がんの原因となるRET遺伝子の変異があるかどうかを調べる遺伝子検査を行います。
その結果、RET遺伝子に変異がなければ、ご家族の遺伝について心配をする必要はありませんが、RET遺伝子の変異があり、遺伝性があると診断された場合は、将来的に甲状腺髄様がんをほぼ100パーセント発症すると言えます。
欧米では、RET遺伝子の変異の部位によって重症度が分けられています。危険性の高い遺伝子異常の部位なら5歳以前でも手術を勧められているようです。しかし日本ではそこまで厳密ではありません。
血液検査で甲状腺髄様がんのマーカーであるカルシトニンにまったく異常がなかったり、エコー(超音波検査)で見てもはっきりとした腫瘍形成がないようでしたら、もう少し摘出する時期を遅らせる場合もあります。
ただ、甲状腺を摘出するときは全摘となります。甲状腺は、喉ぼとけのあたりにある腺で、右葉と左葉に分かれていて、蝶のような形をしています。上下が3~5センチの大きさです。遺伝性の場合は、髄様がんは甲状腺の両側、つまり全体にがんができてしまうので、全部取ってしまう必要があります。
また全摘後は、甲状腺ホルモン剤を生涯飲み続けなければなりません。しかしこれは、甲状腺が本来分泌していたホルモンを補充するためのもので、元通りの状態にするだけなので、副作用はとくにありません。
ホルモン剤の投与の分量は成長と共に、体重をチェックしながら変えていきます。
甲状腺全摘後の成長への影響については、欧米のデータによると、5歳以前に甲状腺を全摘した場合でもとくに影響はないといわれています。
何歳で摘出するかについてはまだ議論があるところですが、予防的な手術をしておけば、髄様がんになることは防げるし、髄様がんで命を落とすことはないと言えます。したがってRET遺伝子の変異があるならば、甲状腺全摘が基本方針となります。