甲状腺葉手術にはどんな後遺症があるか
病院の検査で甲状腺右葉に乳頭がんが見つかりました。腫瘍の最大径は1.5センチほどで、リンパ節転移なし、肺転移なし、甲状腺外への浸潤なしとのことです。甲状腺左葉は残し、甲状腺右葉切除手術を受ける予定です。甲状腺葉手術による後遺症は少ないとのことですが、気になります。どんな後遺症があるのか、教えてください。
(福井県 52歳 女性)
A 甲状腺機能低下などがあるが、確率は低い
ご相談者の病期は、原発腫瘍の状況T1、所属リンパ節転移N0、遠隔転移M0で、生命の危険性の低い低危険度甲状腺乳頭がんの典型例です。予定されている甲状腺右葉切除手術の翌日には食事、歩行が可能で、術後1週間程度で退院です。
退院後の日常生活上の制限はほとんどなく、食べてはいけないもの、飲んではいけないものもとくにはありません。運動も積極的に行ってください。甲状腺切除手術による後遺症は少ないですが、主なものとして、反回神経麻痺、甲状腺機能低下、副甲状腺機能低下が挙げられます。
反回神経は左右1本ずつあり、それぞれ左右の声帯の開閉運動をつかさどる神経で、声帯へ入るまでの間に甲状腺の後ろに密着して走っています。メスを入れる右側の反回神経に麻痺を起こすと、右側の声帯が動かなくなるため、声がかすれてしまいます。ただし、経験豊富な施設であれば、永久性の反回神経麻痺を起こす確率は1~2パーセント程度です。
甲状腺の半分ないし3分の1程度が残れば、甲状腺ホルモンの分泌機能は正常に維持されることが多く、甲状腺右葉切除手術で甲状腺機能低下が起こる確率は10パーセントほどです。ただし、もともと橋本病*がある人では、手術後、甲状腺ホルモンの分泌量が不足する確率が高く、30パーセント程度の方で、甲状腺ホルモン剤の内服が必要になります。
副甲状腺は、米粒大の小さな臓器で、体内のカルシウムの調整をする副甲状腺ホルモンを分泌しています。通常、甲状腺の裏側、上下左右に1個ずつ計4個あります。副甲状腺は、1個か2個残っていれば十分な働きをしてくれます。
また、がんが副甲状腺に直接浸潤している場合などを除いては、副甲状腺の機能をできるだけ残す努力をします。ですから、甲状腺右葉切除手術であれば、副甲状腺機能低下はまず起こらないと思います。そのほか、甲状腺の手術後には、のどが締め付けられる感じやものがつまった感じ、しびれなど頸部の違和感が残ることがよくあります。
こうした症状は通常、術後3カ月くらい続きますが、その後、徐々に改善することが多いようです。がんの再発などとはまったく関係がないので、あまり気にせず、マッサージやストレッチなどを積極的に行うことをお勧めします。
*橋本病=甲状腺の機能低下によって、疲労感や筋力低下、皮膚の乾燥といった症状が起こる病気