経過観察がよいか、手術で切除したほうがよいかアドバイスを

回答者:杉谷 巌
がん研有明病院 頭頸科副部長
発行:2008年11月
更新:2013年10月

  

人間ドックの超音波検査で、甲状腺に腫瘤が見つかりました。大きさは1センチ未満で小さいようです。頸にしこりを感じたことはありません。日常生活では、声がかすれるとか、食べ物が通りにくいなどの自覚症状はまったくなかっただけに、驚きました。紹介された総合病院で、精密検査をした結果、甲状腺乳頭がんと言われ、しばらく経過観察をすることになりました。このまま何も治療をしないで、経過観察だけでよいのでしょうか。手術で切除したほうがよいのか、アドバイスをください。

(愛知県 45歳 女性)

A 経過観察中に手術が必要と判断される患者はごくわずか

がん研病院でこれまでに治療を受けた患者さんのデータを検討した結果によると、治療開始前の時点で、(1)肺や骨などへ血行性の遠隔転移がある場合(2)年齢が50歳以上で、大きさ3センチ以上のリンパ節転移がある場合、あるいは甲状腺の外に病気が広がって周囲の気管・食道や声帯を動かす神経(反回神経)などを破壊し、浸潤していることが明らかな場合―が高危険度群乳頭がんということになります。それ以外は、低危険度群乳頭がんに分類します。

当科のデータ(1976~1998年)では、乳頭がん全体の18パーセントが高危険度群に、82パーセントが低危険度群に分類されました。10年生存率は、高危険度群で69パーセント、低危険度群では99パーセントでした。高危険度群乳頭がんと低危険度群乳頭がんは種類が違うもので、その治療法も異なると考えてください。

直径1センチ以下の非常に小さな乳頭がんを微小乳頭がんと呼んでいます。検診などで見つかることの多い、明らかな転移や浸潤の徴候がない無症候性微小乳頭がんの多くは低危険度群乳頭がんの典型例で、そのほとんどが生涯無害に経過すると考えられています。

実は甲状腺がん以外にいろいろな原因で亡くなった方の甲状腺を調べてみると、実に10人に1人以上の割合で微小乳頭がんが見つかるのです。実際に生きている間に甲状腺がんで手術を受ける人はせいぜい1000人に1人ぐらいの割合ですから、微小乳頭がんが存在する確率とそれが発症する確率の間には大きな開きがあるわけです。

また、当科で1993年以前に手術を受けた無症候性微小乳頭がんの生存率は100パーセントでした。そこで、当科では1995年から、無症候性微小乳頭がんの患者さんには、手術をせずに経過観察する方法もあるということを説明するようにしました。そして患者さんが自由な意思で、経過観察という治療方針を決定された場合には、3カ月から6カ月に1度の外来受診で、触診、超音波検査などを行っています。

これまでに微小乳頭がんと診断されて、経過観察という治療方針を選択された方は250人余りです。1~16年の経過観察で、約80パーセントは腫瘤の大きさは不変です。約10パーセントは腫瘤が大きくなり、約10パーセントは腫瘤が小さくなりました。経過観察中にやはり手術がよいと判断した患者さんは13人でした。そのうち7人は腫瘤が大きくなって、1センチを超えたため手術をしましょう、ということになりました。3人はリンパ節が大きくなって、転移だろうということで手術をしました。3人は本人の希望で、経過観察よりも手術のほうが安心とのことで手術をしました。これら13人の術後経過は良好です。現在、微小乳頭がんの患者さんに経過観察という治療方針もあるということを説明すると、95パーセントの方は経過観察を希望します。

ご相談者は、微小乳頭がんと診断されて、経過観察という治療を選択されたのだと思います。前述したように、経過観察中に手術が必要と判断される患者さんはごくわずかです。

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