甲状腺がんの骨転移。治療法は?
7年前、甲状腺腫瘍の診断で甲状腺の右半分を手術で取りました。術後顕微鏡検査では濾胞がんという診断でした。最近、足が痛くなって検査したら、股関節の臼蓋から恥骨にかけて7.5cmの腫瘍ができていました。再度の手術で残りの甲状腺を全摘し、放射線ヨード治療をしたのですが、効果がありませんでした。今後の治療法で何かよいものはないでしょうか?
(岡山 男性 76歳)
A 放射線治療、ゾメタ、手術で
濾胞がんは診断が難しいことが多く、手術前にはがんと確定診断できないまま、手術後の病理検査で初めてがんとわかることがあります。8割方は腫瘍の切除だけで治ってしまうのですが、一部に血行性の遠隔転移を骨や肺に起こすものがあり、そうなると厄介です。
甲状腺濾胞がんや乳頭がんの遠隔転移に対しては、甲状腺を全摘したうえで、放射性ヨードのカプセルを飲んでいただく放射性ヨード内用療法が行われます。甲状腺がヨードを取り込む性質を利用して、放射性ヨードががんの遠隔転移部に取り込まれることを期待し、そこで放射能を出してくれることでがんを治療しようとするものです。若い人の小さな肺転移などであれば有効なことが多いのですが、残念ながら、効果がない場合も多く、高齢者の大きな骨転移となると効かない場合が多いのです。
放射線外照射治療は患部に外から直接放射線を当てる治療で、骨転移には一定の効果を示します。腫瘍も幾分小さくなり、痛みが取れることがあります。
ゾメタ*はもともと骨粗鬆症の薬です。骨が溶けるのを抑えることで、骨転移の痛みを軽減したり、骨折など骨転移関連の合併症を抑制する働きがあるといわれています。月に1回15分程度の点滴を続けることで、長期にわたり骨転移のつらい症状を和らげることができている患者さんが多いです。ゾメタは抗がん剤ではありませんが、まれな副作用として顎骨壊死に注意が必要です。歯周病がひどい人はあらかじめ歯科治療を済ませておくのがよいでしょう。
また、抜歯の前後はゾメタ投与を中断します。ゾメタ投与中は定期的に歯科検診を受けるようにしてください。
骨転移の場所、大きさや数によっては、整形外科的な手術が有効なことがあります。腕や足の長管骨や肋骨に1個だけ転移があるような場合、切除・再建手術によって、QOL(生活の質)を落とさずに根治が得られる場合がまれにあります。骨盤や背骨の手術は難しい場合が多いのですが、背骨の転移で放置すると脊髄麻痺の危険があるような場合、手術を行うことで四肢麻痺が回避できることがあります。
このように濾胞がんの骨転移は完全に治るのが難しいものですが、うまく症状をコントロールすることで、5年以上、QOLを維持して生きられる方も少なくありません。甲状腺・内分泌外科、放射線科、整形外科、麻酔科(ペイン・コントロール)などの専門家の力を十分利用して、うまく病気と付き合っていくことが大切です。
*ゾメタ=一般名ゾレドロン酸水和物