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中医師・今中健二のがんを生きる知恵
第1回 病は「胃」から始まる
「中国伝統医学」という言葉を聞いたことがありますか?
日本では「医学」はおのずと「西洋医学」を意味しますが、世界には多くの伝統医学が存在します。その1つが中国伝統医学。科学的根拠をもとに病を取り除くことを主とする西洋医学に対し、数千年の臨床経験の上に成り立ち、病が生まれにくい体質を作り出すよう働きかけるのが中国伝統医学です。
西洋医学と中国伝統医学は相反するものではありません。互いの強みを生かし、補い合える医療を目指して、本連載では、中国伝統医学の視点で「がん」にまつわるさまざまなことを、中医師の今中健二さんに教えていただきます。
赤血球とヘモグロビンの数値が教えてくれること
人は「がん」が直接の原因で命を落とすことはありません。人間が死ぬのは、心臓か肺が止まったとき。だから、がんを告知されても、たとえ転移や再発を知らされても、あわてないでほしいのです。
では「がんになる」とはいったいどういうことなのでしょうか。まずはそこから話したいと思います。
中医学では、体の中を気(き)、血(けつ)、津液(しんえき)がスムーズに巡っていれば、体はいい状態だと考えます。気は「元気」と表現されるように目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分、と考えてください。それらが体内を滞ることなく巡っているとき、体は1つの有機体としてしっかり機能しています。
気、血、津液の状態を大まかに知るには、健康診断の血液検査項目にある赤血球とヘモグロビンの値を確認しましょう。この数値が正常であれば、血液がきちんと体内を巡っているということ。気、血、津液は互いに連動しているので、現時点では気、血、津液の巡りに大きな問題はないと考えてよいでしょう。
血液検査にはさまざまな項目がありますが、風邪をひいただけでも数値が上がる白血球や炎症反応(CRP)と違い、赤血球やヘモグロビンはちょっとしたことでは変動しません。つまり、赤血球、ヘモグロビン値が異常に高いときは、血液の流れが何かに堰き止められて滞っている、もしくは、血液量が多すぎて流れにくくなっている、ということ。
そのまま放っておくと、体内での出血をはじめ、さまざまな症状が起きてきます。それがどこで起こるかで、鼻血、下血、くも膜下出血、心筋梗塞など病名が変わりますが、中医学ではすべて原因は1つ。気、血、津液の滞りです。
症状としては出血以外に、血が固まって腫れることもあります。それが体の中で起きると、血液は熱いので周囲の水分が蒸発し、腫れが熱を持って「血栓」になることもあるのです。
食べ過ぎると黄色い膿を持った赤みを帯びた口内炎ができますよね。あれは腫れが体の外に出てきたものです。出血も腫れも、気、血、津液が滞り、熱を帯びた体内環境になっている証(あかし)。そしてこれが、がんを生み出しやすい体質を作っていくのです。
水分の摂り過ぎで血が薄まってしまうと
ここで、中医学的には「がん」が2種類に分けられることに触れておきます。
1つは、先述の血の滞りから熱が溜まった体内環境から作られる熱性タイプのがん。高血圧や糖尿病など血液が濃い状態のときに出てきやすくなるがんで、血液によって赤黒い塊状になることが多いのも特徴です。
もう1つは、体内に水分が多すぎて、水っぽい体内環境から生まれてくるがん。このタイプについても詳しく触れておきましょう。
水分が多すぎる体内環境は、赤血球とヘモグロビンが低すぎる数値として出てきます。これらの数値が低いと「貧血」と判断され、「血液量が少ない」と捉えられがちです。もちろんそうしたケースもありますが、実は水分が多すぎて血液が薄くなっていることも多いのです。その原因は非常にシンプル。水分の摂り過ぎです。そして、これも貧血なのです。
日本では今、「水を飲みましょう」と推奨されこそすれ、「水を控えましょう」と言われる機会はほとんどありません。しかし、考えてみてください。飲んだり食べたりしたものは、まず胃に届きます。必要以上に水を飲み過ぎると、胃が水浸しになり、消化液を薄めてしまいます。すると消化力が弱まり、働き者の胃は消化液をさらに分泌して頑張り続けるのですが、また水分が入ってきて薄まり……ついには胃が疲労してしまうのです。
そうなると、胃はむくみ、溢れた水分は胃の*¹経絡(けいらく)を伝って体中に運ばれ、体内のあちこちで水が溢れてむくみが生じます(図1)。そのむくみが水泡やポリープにもなっていくのです。つまり、水分を摂り過ぎて体のあちこちで生じたむくみが、がんのできやすい体内環境を作ってしまう、というわけです。
中医学ではすべての事象を*²陽と陰に分けて考えるので、前述の熱性タイプは「陽」タイプのがん、水性タイプは「陰」タイプのがんと表現します。
例えば、肝臓にできたがんならば、西洋医学では「肝がん」と1つの種類に分類しますが、中医学では、部位ごとの分類はなく、陽か陰かという2種類のみ。逆に言うと、肝臓にできたがんでも、陽タイプか陰タイプかで種類が分かれ、対処法も異なるのです。
*¹経絡(けいらく)=中医学では、私たちの体には12本の「エネルギーの通り道(経絡)」があると考えます。それらは、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中を張り巡らされていて、胃の経絡はその1本です。
*²陽と陰=中医学の根本的な考え方。陰陽論では「万物は、陰陽という対立する要素を両方持ち、その割合を刻一刻と変化させながらバランスを保っている」と捉えます。