中医師・今中健二のがんを生きる知恵

第15回 肝がんは、肝臓以外の疾患がないか注意を!

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年3月
更新:2022年3月

  

今中健二さんプロフィール 中医師。中国江西省新余市第四医院医師。神戸大学大学院非常勤講師。1972年兵庫県生まれ。学生時代に母親をがんで亡くした経験から医療に関心を持ち、社会人経験の後、中国国立贛南医学院に留学。中医師免許を取得し、新余市第四医院で治療に従事。2006年帰国。神戸市を起点に中国伝統医学の普及に努める。西洋医学との垣根を超えた「患者の立場に立った医療技術」発展のため、医師や看護師、医学生に向けたセミナー、中医学に基づいたがん治療の講演など、全国各地で精力的に活動している。2020年中国医学協会を設立。著書に『「胃のむくみ」をとると健康になる』『医療従事者のための中医学入門』

腹部の右上にある肝臓は、体内で最大の臓器。成人では800~1,200gもある。また、「沈黙の臓器」といわれるように、例え異変が起きても症状が現れにくいという特徴がある。

ところで私たちは、この肝臓という臓器をどこまで知っているだろうか? 肝がんを考える前に、まずは肝臓について理解しておこう。体の中で、肝臓がどのような役割を果たしているのか。そして、肝臓を病むとはどういうことなのか。今回は、肝臓のお話です。

中国には西洋医学、中国伝統医学の2種類の医師免許があり、中医師とは中国伝統医学の医師免許を持つ医師のこと。本連載では「中国伝統医学」を「中医学」と呼びます。

血液は体内をどう流れるか

肝がんを考えるとき、大切なポイントは「血液循環」です。血液循環のゴールが肝臓だからなのですが、それがどういう意味を持つかを理解するために、まずは血液循環についてお話しましょう。

血液は全身を流れていますが、蜘蛛の子を散らすように四方八方に拡散しているわけではなく、スタート地点からゴールまで流れる順序がしっかり決められています。ですから「血液拡散」ではなく、「血液循環」と表現するのです。

中国医学では、気と血(けつ)経絡(けいらく)上を流れると捉えます。血管も経絡に含まれると考えてください。

血液循環のスタート地点は、肺。まず、は肺で新鮮な酸素を得て、肺の経絡を流れ、大腸の経絡へ。そこから胃に入り、食べ物から栄養分を受け取って胃の経絡を巡ります。このときが、酸素と栄養分たっぷりのもっとも元気なといえるでしょう。

胃の経絡から、脾の経絡を経て、心臓へ。ここで心臓のポンプの力を借りてを全身へ押し出します。心(しん:心臓)の経絡小腸の経絡を通り、膀胱の経絡腎臓の経絡を巡り、肝臓の経絡へ。そして最後に、は肝臓にゴールします(図1)。

気と血:中医学では、体の中を「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)」がスムーズに巡っていれば体は良い状態だと考える。気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも「巡り」が重視されるのが気と血

経絡(けいらく):気血が流れるエネルギーの通り道。経絡は全部で12本あり、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中に張り巡らされている

血中の酸素と栄養分を体内へ分配する

これが、が体内を1周するルート。つまり血液循環です。そして、この順序にこそ、大きな意味があるのです。

スタート地点の肺で新鮮な酸素を得た血液が、胃でさらに栄養分を受け取り、それらを、経絡の流れに沿って体内の各所へ配っていきます。

酸素と栄養分に満たされたは、心臓のポンプに押し出されて、心の経絡小腸の経絡を経由し、いったん脳に集約されます。脳から頭頂部へ上がり、そこから膀胱の経絡に入って、脊柱、臀部へと下りていくのです。

膀胱の経絡は頭頂部から脊柱へ、上から下へ縦方向に進みながら、酸素と栄養分を全身に配ります。脊柱の要所要所にはツボがあって、それらは例えると、宅配便の集配所。個人宅(各臓器)までわざわざ配達しなくても、宛名を明記した酸素や栄養分を集配所に置いておけば、そこには細かい神経が繋がっていて、宛先の個人宅まで届く仕組みになっています。

そのようにして、膀胱の経絡は、肺で得た酸素と胃で受け取った栄養分を全身に配りながら、脊柱から臀部、さらに太腿の裏、膝裏、ふくらはぎを走行して、足先まで流れます。さらに、栄養分を引き渡すのと引き換えに、体内各所から排出されて集配所に集まってきたゴミ(老廃物)の回収もするのです。

膀胱の経絡で、栄養分を全身に配り、ゴミを受け取ったは、腎臓の経絡へ。そこでは、回収してきたゴミと余分な水分を合わせて、尿として体外に排出します

肝臓が、血液循環のゴール地点

酸素と栄養分を各臓器へ配り終え、さらに、体内から出たゴミも尿にして排出し終えたので、この時点で、はほぼサラサラの赤い液体になりました。

そこから、心包の経絡三焦の経絡胆のうの経絡に立ち寄って、余った栄養分を皮膚や毛髪、筋肉組織に届けてから、ゴール地点の肝臓へ向かいます。

皮膚や毛髪に配られるのは、体内の主要箇所に栄養分を配り終え、ゴミも捨て去った後の、余った栄養分。栄養不足に陥ると、皮膚や毛髪、筋肉が真っ先に影響を受けやすいのはそのためです。

さて、血液循環は、いよいよゴールへ向かって肝臓の経絡に入ります。このときの血液は、栄養分を分配し終わり、体内から集まってきたゴミも尿として捨て切った、きれいな赤い液体です。栄養分もない、ゴミもない、そんなサラサラの赤い液体が肝臓にゴールするわけです。

肝臓にゴールしたは、肝臓で休息して英気を養い、その後、また肺に戻って2巡目に入ります。こうして人は、1日に50回、血液循環を繰り返しているのです。

自然界に例えると、肝臓は海

肝臓は、海に例えられます。

山に雨が降って、雨水が川になり、川は流れながら各地の木々に栄養分や水分を届け、同時に、落ち葉などのゴミ、さらに民家や工場から放出された汚水も引き受けながら海を目指して流れ続けます。途中、ゴミは集積所に集めて廃棄し、汚水は浄水場できれいにして海に流す。そうすれば、海はいつまでも美しいままです(図2)。

つまり、胃で受け取った栄養分を配り終え、体内から集められた老廃物をしっかり尿にして排出し、サラサラのきれいな血液だけをゴール地点の肝臓に送り続けることができれば、肝臓は健康な状態が保たれるのです。

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